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プリウスは、運転感覚の「常識」を変える
»2010年4月28日
高瀬文人の「精密な空論」
プリウスは、運転感覚の「常識」を変える
フリーランスのライター/編集者/書籍プロデューサー。 月刊総合誌や『東京人』などに事件からまちの話題、マニアックなテーマまで記事を発表。生命保険会社PR誌の企画制作や単行本の編集も行う。著書に鉄道と地方の再生に生きる鉄道マンの半生を描いたヒューマンドキュメント『鉄道技術者 白井昭』(平凡社、第38回交通図書賞奨励賞)、ボランティアで行っているアドバイスの経験から生まれた『1点差で勝ち抜く就活術』(坂田二郎との共著、平凡社新書)、『ひと目でわかる六法入門』(三省堂編修所、三省堂)の企画・制作。
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*三代目プリウスのコンソール。シフトレバーが二代目に比べて手前に下がり、従来のオートマチックセレクターの感覚で使える。エコランのためのインジケーターやエネルギーの分配を示すモニターは、二代目のナビ画面から、窓下のセンターメーターのスペースに移った。
■インジケーターがエコランを可視化
国道122号と16号を経て、岩槻城址公園に着いたのは昼過ぎだった。
駐車場に車を停めて、マニュアルを熟読する。
車を買って、マニュアルを読み込む人はあまりいないと思う。「走る、曲がる、止まる」ことに関して、運転フィーリングは車種によって、また、同じ車種でも整備状況やオーナーの癖により個体ごとに全く異なる。しかし自動車の操作方法はほぼ同じだ。必ずある差異は、身体で覚える。これが当たり前とされた感覚だ。
プリウスでも、全く同様に、身体で覚えられるように作ってある。しかし、プリウス独特の走りを実現させようとすると、マニュアルを読むことが必要になる。
みなさんもご存じだと思うが、プリウスはリチウムイオン電池に溜められた電力を使って起動し、エンジンはモーターでは不足する駆動力をアシストし、かつ発電機を動かして電池に充電を行う。ブレーキングの際には、モーターを発電機として使うことにより、車の運動エネルギーを電力に変換して電池に溜める。さらにその際の抵抗をブレーキ力に用いることになる。
モーターとエンジンの配分の制御はコンピュータが行うが、メカ的には「遊星歯車」という、歯車の中でさらに複数の歯車が回転する仕組みの特殊な歯車を使ってエンジンからの動力をモーターと発電機に分配するという機構を持っている。
その分配状況はフロントウィンドウ下のセンターメーターに示される。前方を注視しながら、視線を外さずに見ることができるので、エンジンの動力を急に介入させないようにさせる穏やかな運転を覚えることになる。モニタ画面でも直感的にわかるが、本当に理解するためにはマニュアルを読まなければならない。
*センターメーターに表示されるインジケーター。走り出すと表示されるバーが表示の太い部分に収まるようなパワーで運転すると、エコランが実現する。停止中の撮影なので、バーは出ていない。
■ハイブリッドカーならではのドライビングとは
驚いたのは、国道4号バイパスに入って、東京に向かって南下を始めた時だ。片側2車線、他の車はない。アクセルを穏やかに踏み込んでいたつもりだったが、加速感がまったくないままスピードが上がっていき、気がつけば、結構な速度をメーターが示していた。自分の車で持っている感覚が通用しない。レシプロエンジンの自動車では、エンジンが高回転する感覚とともにスピードが上がっていく。最近ほとんど見かけなくなったマニュアル車では、エンジンの回転を意識しながらギアを次々に切り替えていくから、さらに回転には気を遣うことになる。
そういう感覚ゼロで、スピードだけが上がっていく。
この感触は新しい。
問題のブレーキだが、その感触は従来の自動車とほとんど同じくなるように作ってある。
プリウスでは、減速時にはまずモーターを発電機とした「回生ブレーキ」が立ち上がり、運動エネルギーから電気エネルギーに変換し、ブレーキ力を得る。発生した電気は電池に溜められる。ある速度以下になると回生は効かなくなり、抵抗がなくなるので、レシプロエンジン自動車が搭載しているのと同じ油圧ブレーキに切り替えて停車する。
「ブレーキ抜け」の感触が問題になったのは、切り替えの瞬間の部分である。
実際に減速してみる。
加速時と同様、作動音はぎりぎりまで抑えられ、オーディオやエアコンを切らないと音が聞こえないのに驚く。初代のプリウスはモーターが唸る音が大きく、回生ブレーキが効いていることを実感できたが、その「音」がしない。ブレーキ切り替えのショックは全くない。少し強めにペダルを踏んだり、何種類かブレーキのかけ方を試してみたが、まるで、油圧ブレーキのみの普通の車を運転しているかのようだった。
国道4号バイパスを東京に戻りながら、モニターに示されるエコラン表示に従ってアクセル・ブレーキワークを続けてみると、面白いことに気づいた。
加速・減速ともに穏やかに行うのがいいようなのだが、すると回りの車の流れとは違ってくる。加減速は小さく、中速域では伸びが大きくなるような運転だ。
そして、「先に何があるか」をよく考えるようになる。急加速・急減速を避けようとするので、普通の運転よりもさらに前方を見、前車のさらに前の車、ふだん見ている信号よりもさらに先の信号を見る。予測運転が徹底されるのだ。
最大の驚きは車を返す直前にもたらされた。
満タン返しするためにガソリンスタンドに立ち寄って給油したのだ。
103キロ走って、入ったのが3.44リットル。
リッター当たり29.94キロ走ってしまった。
この当時のスタンドの単価が126円。合計433円。
これにはしびれた。
なるほど、これがクルマの未来の走りなのか。