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カメラ見本市CP+は、日本のモノづくりを占うベンチマークとして要注目(2012年報告)
»2012年2月13日
高瀬文人の「精密な空論」
カメラ見本市CP+は、日本のモノづくりを占うベンチマークとして要注目(2012年報告)
フリーランスのライター/編集者/書籍プロデューサー。 月刊総合誌や『東京人』などに事件からまちの話題、マニアックなテーマまで記事を発表。生命保険会社PR誌の企画制作や単行本の編集も行う。著書に鉄道と地方の再生に生きる鉄道マンの半生を描いたヒューマンドキュメント『鉄道技術者 白井昭』(平凡社、第38回交通図書賞奨励賞)、ボランティアで行っているアドバイスの経験から生まれた『1点差で勝ち抜く就活術』(坂田二郎との共著、平凡社新書)、『ひと目でわかる六法入門』(三省堂編修所、三省堂)の企画・制作。
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カメラと写真用品の展示会「CP+」が9〜12日にパシフィコ横浜で行われた。私は最終日に足を運んだ。
原稿締切があり、出かけるのが遅くなった。会期中、検索で去年のCP+について書いた私の記事にたどりついた人も多かったようだ。
大変すまない。
というわけで、今年のレポートを上げます。
今年のCP+は、昨年とは全くといっていいほどの様変わりとなった。昨年は話題の新機種がフジのX-100しかなかったが、今年は開催直前にニコン、ソニー、オリンパス、フジから商品力のある新機種が登場し(他にも数機種出る予定だったが、タイの洪水の影響で遅れている)、それらを目当てに来場者も増えた。主催者の発表では、昨年の来場者は4万9368人だったが、今年は6万5120人と大幅に増えている。間違いなく「新機種効果」である。
今回の盛り上がりは、大きく分けてふたつの要因がある。大幅な画質の向上が見込める新機種の発表と、ミラーレスカメラの本格的な普及に代表される、カメラの楽しみ方の変化である。
■新機種で華やかな今年のカメラ業界
前者の代表がニコンD800の発表だ。35ミリフィルムと同じ大きさの「フルサイズ」と呼ばれる受光素子をもつが、同じサイズの現行機種D700が1200万画素なのに対して3600万画素と、現行のフルサイズデジタル一眼レフとしては最高水準の高画素を誇る。風景やポートレート愛好家にとっては待望の新機種。用意された試用機は、45分待ちの人気となっていた。
高画素機のもうひとつの目玉はシグマだ。独自開発の「フォベオン」センサーを使用し、少々扱いが難しいが高画質を実現。昨年一眼レフSD-1を発売した。ところが今年は、性能はそのままに受光素子の歩留まりを改良したモデル「SD-1merril(メリル)l」を発表。実勢価格60万円台から20万円台に一気に引き下げ。ブースはSD-1を発表した昨年に比べてかなりのにぎわいを見せた。現行SD-1を高いお金を出して買ったユーザーについては、シグマ製品が40万円分購入できるポイントを付与するというドラスティックな施策も発表された。ロイヤリティ高い顧客をつなぎとめるための、日本離れした鮮やかなやり方といえよう。
後者は、いわゆる「ミラーレスカメラ」の隆盛である。
レンズから入った光をミラーで反射させてプリズムで導き、ファインダーの像として結ぶ一眼レフカメラのミラーや光学ファインダーを取り除き、液晶モニタや液晶ファインダーに置き換えた、レンズ交換のできるシステムだ。受光素子の大きさでいくつかのグループに分かれ、「マイクロフォーサーズ」規格のオリンパスEPシリーズやパナソニックGシリーズ、「APS-C」のソニーNEXシリーズなどがあるが、新製品の発表が相次いだカテゴリーである。
こちらは「一般人には十分な画質で、使い勝手を高める」ことに、技術開発の主眼が置かれている。
「台風の目」はオリンパスのOM-D EM-5とフジのX-Pro1だ。
OM-Dシリーズは現行のマイクロフォーサーズEPシリーズの上位機種で、オートフォーカスの速度が圧倒的に速いという。フジX-ProはAPS-Cだが、画質はそれよりも面積が大きいフルサイズに匹敵するとしている。面白いのは両者のスタイルで、OM-Dは70年代に生まれたフィルム一眼レフのOMシリーズに、X-Proは、ライカと60年代にフジが作っていたレンズ固定式のレンジファインダーカメラに似せるというレトロ指向である。やや小さい受光素子を積むミラーレスのニコン1シリーズが、全く新しいスタイルを目指したのと逆を行っている。レトロ調は日本人には評判がいいが、海外ではどうだろうか。
企業の再編もあった。ペンタックスがHOYAからリコーに売却され、新会社リコーペンタックスとして再出発、リコーのコンシューマーカメラ部門も同社に統合されることが発表された。今回は初めてリコーとペンタックスの共同ブースとなり、世界的インダストリアルデザイナーのマーク・ニューソンがデザインしたAPS-CミラーレスカメラK-1が発表された。
■カメラ業界の動向は、日本のモノづくりの実力を測るベンチマーク
昨年よりもにぎわったCP+だが、ブースの勢いは昨年よりも落ちていたようだ。東日本大震災や円高など、メーカーをめぐる状況は厳しい。
CP+は基本的にハードウェア、もっと言えばメカとしてのカメラの展示会が主で、最近の写真の楽しみ方として盛んになっているSNSをはじめとするIT関係の展示は少ない。ソニーが撮影した写真をテレビ、タブレットなどで楽しめるクラウド「PlayMemories」を発表していたのが目立ったが、ソニーはタイの洪水で工場が被災、新機種の発表が遅れているとも言われており、そのあおりであろう。
その中で元気のよかったブースは中国メーカーのKIPONだ。レンズのアダプターを生産しており、カメラのレンズマウントに装着して他社のレンズを取り付けることができる。欧米では前から行われていたが、ミラーレスが普及すると、いままで多く流通していたライカ用のレンズも使用可能になり、レンズの「味」を楽しむユーザーが一気に増えた。
張暁明CEOはもともとは日本ビクターの技術者で、4年前にカメラアクセサリの会社を立ち上げた。CP+に出展するのは2年目だが、今年の手応えは昨年と全く違うという。
「売り上げは依然としてアメリカが一位ですが、ミラーレスの普及で、日本のニーズが急激に伸びています。日本のユーザーは感度が高いと思います」
このほかにも、望遠鏡をカメラに取付けて超望遠撮影を楽しむ「テレスコ」を出品しているトミーテック(異業種だが天体望遠鏡BORGのブランドを持つ。KIPONと同じくレンズアダプターにも進出している)のなど、肩の力を抜いて「写真撮影を楽しむ」ことに主眼を置くプロダクトに人気が集まっているようだ。
電機業界が大赤字に転落して日本のモノづくりの地位が揺らぐ中、カメラ業界は、さまざまな技術を統合して、魅力的な商品にする力をまだ残している分野として「最後のとりで」になっている、それだけ日本の製造業の力は落ちているのだ、という見方を筆者は最近取材した。その意味では、CP+は、純粋な技術と、それをユーザーの楽しみ方や生活の場面につなげる統合力を測る貴重なベンチマークとして、ウオッチし続ける価値があるだろう。
*写真はKIPONの張暁明CEO