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「辞めるか辞めないか」主人公の見たもの

「辞めるか辞めないか」主人公の見たもの

高瀬 文人

フリーランスのライター/編集者/書籍プロデューサー。 月刊総合誌や『東京人』などに事件からまちの話題、マニアックなテーマまで記事を発表。生命保険会社PR誌の企画制作や単行本の編集も行う。著書に鉄道と地方の再生に生きる鉄道マンの半生を描いたヒューマンドキュメント『鉄道技術者 白井昭』(平凡社、第38回交通図書賞奨励賞)、ボランティアで行っているアドバイスの経験から生まれた『1点差で勝ち抜く就活術』(坂田二郎との共著、平凡社新書)、『ひと目でわかる六法入門』(三省堂編修所、三省堂)の企画・制作。

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 このエピソードを読んで痛感するのは、「ファクトベースのモノの考え方」の大切さだ。

 世の中の争いごとの多くは、「主張が事実を踏まえていない」ことによって起きている。学校、職場、地域社会での話し合いが、自らの主張を通すため、いかに事実を踏み外してしまい、収拾がつかないものになってしまっているか。
「いま、事実はどうなっているのか」という確認からものごとを始める、トラブルの際に確認する。基本的なことではあるが、個人や集団のパフォーマンスのよしあしに大きく影響するが、あまり気づかれていないように思える。

 さて、問題の「辞めるか辞めないか」にこれをあてはめて考えてみよう。
 この書き手がどんな仕事に向き合って悩んでいるかは、書かれていない。広告関係、もしかしたらウェブ広告関係の媒体制作なのではないかという気がするが、はっきりしたことはわからない。

■先輩の顔色を見続けてしまう彼(彼女)
 彼(彼女)のつまづきは、最初の先輩とのやりとりから始まっている。
 最初にわからなかったことがあり、「まずこれは、どういう意味なのか」を尋ねた。
 すると先輩は、「思いっきりドン引きされ、信じられない!という顔を」した。
 先輩のそういう表情を読み取った彼(彼女)は、こう思う。
 
〈元からビビリのチキンである私は、まずいこと聞いた!やらかした!初日からおわた!と焦りまくる。〉

 しかし先輩は、結局は丁寧に教えてくれる。だが、彼(彼女)は、「何でこんなこともわからないんだ」という苛立ちを読み取る。

〈申し訳なさと恐怖で初日から完全に委縮してしまった。〉

 焦りまくる彼(彼女)。注意力の多くは、「自分が何をすべきか」ではなく、「先輩がどれだけ機嫌を損ねているか」に向かってしまっている。萎縮してしまったことで、先輩とのコミュニケーションの最初のボタンの掛け違いが起こる。これがのちのち、彼(彼女)のメンタルに大きな影響を与えることになる。

 しかし、完全にパニック状態になったわけではない。彼(彼女)は勇気を持って聞くのだが。

〈また時間を取らせてしまう申し訳なさと恐怖を持ちながら聞く。こわい。〉
〈またわからん。何を言ってるのかさっぱりわからん。そして超こわい。〉

■事実をつかむチャンスを逃す
 では、先輩はどうしようもなく意地悪な人物なのか。
 そうではなかった。問題解決の糸口を与えてくれている。

「ある程度はネットで調べてと言われたので、調べる。本も貸して頂き、数日その本を読んだり実践したりして、なんとなく基礎の基礎の基礎位は理解することが出来た、と思っていた。」

 この先輩のやり方が妥当かどうかについては別途分析する。
 彼(彼女)は、ここで、自分の仕事に体する方針を決める。

〈このままじゃ精神的にお互い疲れるだろうし、と思い必死でネットを彷徨い、あまり聞かずに作業する事を目標にした。〉

 自分ひとりで抱え込み、コミュニケーションしないことを選んでいる。
〈また時間を取らせてしまう申し訳なさ〉
〈このままじゃ精神的にお互い疲れるだろう〉
 という思いがポイントだ。

 だが、それは結局裏目に出てしまう。
「ある制作を一人で作り終えた所で、チェックをして頂いた。すさまじくボロクソに言われる。ゲロ吐きそうだった。」