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書評:『吉田神道の四百年 神と葵の近世史 』
ライフネット生命会長兼CEO 出口治明の「旅と書評」
書評:『吉田神道の四百年 神と葵の近世史 』
ライフネット生命保険 代表取締役会長兼CEO。1948年三重県生まれ。京都大学を卒業。1972年に日本生命に入社、2006年にネットライフ企画株式会社設立。2008年に生命保険業免許を取得、ライフネット生命保険株式会社に社名を変更。
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井上 智勝 (著)
これは、おもしろい。読み始めた瞬間に、そう思った。良書には、いくつかの必要条件があるが、中でも「おもしろいこと」は、とても大切な要件である。第一、おもしろくないものを、誰が好き好んで読むだろうか。
この本は、天児屋命(あめのこやねのみこと。春日権現。天孫降臨時に随伴)を祖先神(自称)とする京都の吉田山に鎮座する、吉田神社の400年の歴史を綴ったものである。しかし、それだけではない。山あり谷ありの吉田家の歴史をタテ系に、時の権力者、即ち、足利義満や豊臣秀吉、徳川家康や水戸黄門、徳川綱吉などの思惑をヨコ系にして、融通無碍に織りなしてある物語だからこそ、おもしろいのである。伊勢神宮や仏教界との相克、神様とオカネの関係など、突っ込みどころも満載である。
神道という言葉がタイトルに付されているだけで、ともすれば、我々は読む前に、身構えてしまう。しかし、まず各章のタイトルをご覧あれ。「天下人と天上の神」「神使い」「零落と再興」「鍍金と正金」「神と葵」。これだけでも中に何が書かれているか、わくわくするではないか。しかも、本文には、巧みに、現代の京言葉が散りばめられていたりするのである。吉田神社は、母校の隣にあり、最初の下宿先は吉田山を越えたところにあった。毎日、通り過ぎていた吉田神社・吉田家にこんなにおもしろい物語が秘められていたとは。
書の末尾の方に、以下の記述がある。「江戸時代の人たちは、天皇を意識することはほとんどなかっただろうが、そこにつながるための端末は、江戸時代の神社を通じて、確実に各地に埋め込まれていた。そして、明治維新によって、電源が入り、端末が作動した」。そう、吉田家と神道は、明治国家をも準備したのである。詳しくは、本書を一読してください。