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書評:『〈生きた化石〉生命40億年史』

書評:『〈生きた化石〉生命40億年史』

出口 治明

ライフネット生命保険 代表取締役会長兼CEO。1948年三重県生まれ。京都大学を卒業。1972年に日本生命に入社、2006年にネットライフ企画株式会社設立。2008年に生命保険業免許を取得、ライフネット生命保険株式会社に社名を変更。

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9784480015884.jpg〈生きた化石〉生命40億年史
リチャード フォーティ(著)


名作、「生命40億年全史」「地球46億年全史」の著者が、太古の昔から姿も変えずいまなお生き残っている生物を対象に、「いかにして生き延びたのか」を論じた本である。前作同様、本書も著者が現場に出向いた探求の旅をまとめた体裁をとっている。読み進むうちに、最高の旅ガイドに手をとられて、現地を旅しているような臨場感におそわれる。

本書は10章から成り立っている。スタートはデラウェア湾のアメリカカブトガニ。古生物学者である著者の専門の三葉虫の仲間だ。次はニュージーランドのカギムシ、オーストラリア・シャーク湾のストロマトライト(シアノバクテリア)、イエローストーン国立公園の古細菌と細菌(なお、字面とは逆に古細菌の方が真核生物に近い、という)、香港のミドリシャミセンガイとオーストラリアのキヌタレガイやオウムガイやバセレチア(海綿)、ノルウェーのコスギランから中国のイチョウそれにオーストラリアのウォレミマツやナミビアのウェルウィッチア、オーストラリアの肺魚にシーラカンスやナメクジウオとニュージーランドのムカシトカゲ、オーストラリアのハリモグラとカモノハシ、マリョルカ島のサンバガエルと北極圏のジャコウウシ、等々。こうして僕たちは著者と共に世界を旅することになるのだ。オーストラリアとニュージーランドが多いのは、古代超大陸ゴンドワナから別れてずっと孤立していたため、ゴンドワナの遺産が残っているからだ。

地球上の生命は、40億年の歴史の中で何度も何度も大量絶滅危機に見舞われた。大陸移動、隕石衝突に全球凍結(スノーボール・アース)、オルドビス紀末(4億4400万年前)以降に限定しても70%以上の生物種が絶滅する五回の大量絶滅(ビッグ・ファイブ)が確認されている。中でも2億5000万年前のペルム紀末には90%もの種が絶滅したという。生き残った生物はこうした数々のハードルをどう乗り越えてきたのか。鍵は生存と生殖を継続できる「棲息地の存続」にある。「適者生存」より「適所生存」ではないかと著者は指摘する。「生命のマラソンで生き残るには、体の構造と生活様式が有利であること(生き急がない、大きな卵を産むか少ない数の子どもを産むなど)に加えて、ふさわしいときにふさわしい場所にいることが重要だ」。先日読んだ本(クレイブ・フィンレイソン著「そして最後にヒトが残った」)にも瓜二つの表現があった。「私たち(ヒト)はどうして生き残ることができたのだろうか?(中略)それは『能力と運のおかげ』(中略)私たちが適切な時に適切な場所にいることができたのは、ただ運がよかったからにすぎない。この考えに私はいつもはっとさせられ、自分の身の丈を思い知らされるのである」。

著者は漂流物が打ち上げられることで有名な海岸のような、「生き残り」たちがたどり着く「時の避難所」の保護を訴える。また6度目の大絶滅を引き起こすのはヒトではないかと警鐘を鳴らす。「地球上にはあまりに多くの人間がいる。味気なく、節操なく、絶え間なく、延々と動き回るこの生物種は地球の表面を裸にするまで食べつくす」(D.H.ローレンス)「ヒトは膨大な生物リストの一品目にすぎない。にもかかわらず(中略)野生生物は二足歩行のホミニン一種の食糧と楽しみのためだけに存在するのだから、好きなように扱っていいのだ、と言わんばかりの傲慢さだ」と。僕たちは、著者の言葉やフィンレイソンの「身の丈」を決して忘れるべきではないだろう。

なお、原書のタイトルはSURVIVORSである。著者はすべての生き物は進化しているので(カブトガニも)「『生きた化石』という言葉は安易に使わないよう注意してきた」と述べている。だとすれば、邦訳のタイトルは少し配慮が足らなかったのではないか。