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書評:『宇宙論と神』

書評:『宇宙論と神』

出口 治明

ライフネット生命保険 代表取締役会長兼CEO。1948年三重県生まれ。京都大学を卒業。1972年に日本生命に入社、2006年にネットライフ企画株式会社設立。2008年に生命保険業免許を取得、ライフネット生命保険株式会社に社名を変更。

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第62回_宇宙論と神.jpg宇宙論と神
池内 了(著)

人間はどこから来て、どこへ行くのか。間違いなく、これが、人間の永遠の問いの1つであろう。「僕たちの体は、星のかけらから出来ている」、そう教わった時の腹落ち感は半端なものではなかった。だからこそ、僕たちは宇宙論が大好きなのだろう。誰しも僕たちの体を形作っている物質がどこから来たのか、その始源の物語を突き詰めて聴いてみたいのだ。本書は碩学の手による理代宇宙論の優れた格好の案内書である。

なぜ「宇宙論と神」というタイトルを付けたのか。その答えは第1章で明かされる。「神と宇宙は相性がよい」からだ。「どちらも遠く離れていて直接捉えることができず、想像する中で肉薄するしかない点で共通しているからだ」。なるほど。著者は時系列で人間の宇宙観の変遷を辿っていく。世界創成神話(第2章)、中国・日本・インドの宇宙観(第3章)、古代ギリシャの宇宙観(第4章、ここで早くも天動説と地動説が現われる)、アラビアの宇宙観(第5章)、ルネサンス(第6章)、コペルニクスからケプラーへ(第7章)、ニュートンの万有引力の発見へ(第8章)と知の探求が続いていく。

ガリレオによって望遠鏡の時代が始まり、人々の宇宙がどんどん拡大する。ハーシェルは天の川の観察から「島宇宙」論を提示した(第9章)。1920年には、銀河系が全宇宙の全てなのか、島宇宙の1つに過ぎないのか、という大論争(グレート・ディベート)が行われた(第10章)。その後、ハッブルが宇宙膨張を発見する。宇宙の膨張はアインシュタインの相対性理論ともよく符合した(第11章)。次いで、ホイルの定常宇宙vsガモフのビッグバン宇宙(第12章)、そして、インフレーション宇宙が登場して現在に至っているのである(第13章)。

現在、宇宙の姿は次のように理解されている。約138億年前、量子のゆらぎによって宇宙が誕生し、インフレーションが起こって(この過程で無数の宇宙が生まれてくる可能性がある)、その後膨張がはじまり、やがて元素が合成されて星が生まれ、そして星のかけらから僕たちが生まれたのである。宇宙は僕たちが知っている物質(星やガス。バリオンと呼ぶ)が約4%、よくわからない物質(ダークマター)が24%、同じくよくわからないエネルギー(ダークエネルギー)72%から構成されている。著者は「これまで宇宙論に関する本をいくつか書いてきたが(中略)おそらく本書が最後になるのではないかと考えている。それだけに、私自身愛着がこもった1冊になったと自認している」と述べる。著者のこの気持ちが、本書をこれだけ分かりやすい実に明晰な1冊に仕立て上げたのであろう。宇宙論の現在の地平を手短に学ぶためのベストの1冊だと考える。