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フジテレビ「韓流偏向」バッシングから透けて見えること 〜テレビ局と東電の共通点〜

フジテレビ「韓流偏向」バッシングから透けて見えること 〜テレビ局と東電の共通点〜

ソーシャル探偵団 『happy dragon』

山口哲一(音楽プロデューサー)と、ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)によるプロデューサー・ユニット。インターネット上のソーシャル・マーケティングを実践的に研究。エンタメ・コンテンツとソーシャルグラフの関係を分析し、具体的なプロデュースワークにフィードバックする活動を行っている。2011年に『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)を刊行。 2012年4月よりトークイベント『sensor 〜it&music community』を開始。毎月完売の人気イベントになっている。 https://www.facebook.com/happydragon.page

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 俳優、高岡蒼甫さんのツイッターに端を発した、フジテレビ「韓流偏向放送」に対するインターネット上での抗議運動が注目されました。実際には、野次馬もたくさんいて、いわゆる「祭り」状態なのかもしれませんが、事実誤認や間違った意見も散見されたので、少し整理したくなりました。

 

●フジテレビが韓国に肩入れしているというのは「トンデモ」な妄想

 フジテレビが局として、韓国に肩入れしていると言うのは、「トンデモ」本のような妄想です。日韓戦を韓日戦と表記したとか針小棒大な「証拠」が並べたてられていましたが、もし、フジテレビの経営陣から「キムチ鍋の人気を煽れ」と、製作現場に指示が出ていると本気で思っている人が居るとしたら、私は信じられません。UFOは地球にきていて、異星人が既にたくさん住んでいるというレベルの妄想ですね。

 

 東海テレビの情報番組で、岩手県農家を侮辱したテロップが流れたのは、酷い事件でした。ただ、あくまで単純な操作ミスです。そんな品性の低いディレクターがつくっている番組は下劣だという判断はできますけれど、系列局というだけで、フジテレビ批判に結びつけるのは、理不尽です。「坊主が憎くけりゃ袈裟まで憎い」的な強引さです。東海テレビ「ぴーかんテレビ」は、フジテレビでは放送されていませんし、基本的にはフジテレビとは無関係です。

 

●問題は視聴率至上主義の経営方針

 まず最初に、私が指摘したいのは、テレビ局の構造的な問題です。高い視聴率を取ることを過剰に重要視する偏った体質が長く続いて、テレビ局の編成方針と、視聴者のマインドとがずれていることが、今回の事件の根本的な理由だと思います。

 今更言うまでも無いですが、民放テレビ局の主な収入源であるCM収入は、企業広告費で賄われています。番組をまるごと提供するような形もありますが、スポットと言われるTVCMが比率としては大きいです。このCMスポットの価格が、各局の平均視聴率で決まるので、どの時間帯も視聴率の数字を落としたくない訳です。

 おそらく平日の午後帯に視聴率をとるのが難しくなってきていて、熱い固定ファンの居る韓流ドラマで、下支えをしたいのでは無いかと、私は推測しています。そのドラマのDVD化の権利の一部をフジテレビが持つなどの仕組みもあり得ますが、いずれにしても、TV局にとっては、放送外収入よりも視聴率の方がずっと優先順位が高いはずです。


そもそも、視聴率は指標として有効なのか?

 近年の番組作りは、この視聴率を取ることを最優先に行われていて、その傾向がどんどん強まっています。出演者の発言を同時にテロップで出したり、CMの直前に持ち上げるようにあおり、CMが終わったら、少し戻して放送するなどというような手法は、一瞬でもチャンネルを変えられて、視聴率が下がることを避けるために編み出された手法です。番組が面白いかどうかや、視聴者が興味を持っているかどうかとは関係が無いのがわかりますよね。(むしろ、真剣に観ている人は不快に感じるのでは無いでしょうか?)そもそも視聴率は、番組に対する指標の一つに過ぎなかったはずなのですが、テレビ局の世界では、視聴率が万能の神として存在するようになっているのです。

 しかも、視聴率というデータは不完全です。以前、視聴率計測の機械をとりつけている家に不正を働きかけたテレビプロデューサーの事件がありましたが、デジタル技術が発達した時代に、テレビ受信機単位でサンプルデータを集めているのは、驚くべき事です。誤差があり得る手法によるデータで、番組の終了や継続が判断されているのは、滑稽ですらあります。日本人は、仕組みを高めていくのは得意ですから、視聴率を活用したビジネススキームが洗練されて、構築されているのでしょう。大手広告代理店にもテレビ局にもスポンサー企業にも都合が良くて、止められなくなっているのだと思います。ただ、一番大切なはずの、視聴者の意向が反映された数字で無くなっていることを、見落としているのが問題なのです。

 協賛企業も本来は、視聴率獲得スキルで得た高い数字では無く、消費者の印象に残り、共感を得ることが広報宣伝費を使う目的の筈です。

 

●地上波テレビ局は許認可で守られた絶大な権力という意味で電力会社と似ている

 もう一つ、TVについて考えるときに忘れてならないのは、テレビ局は、政府の許認可で守られているということです。当たり前と思ってしまっているかもしれませんが、どんなにお金があっても、地上波のテレビ局をつくることはできません。以前、ホリエモンやソフトバンクの孫さんが買おうとしてもできませんでした。巨大な既得権益なのです。

 競争から守られている以上、公共的な義務が生じるのは当然です。経営に関する情報はガラス張りで公開されるべきですし、番組編成方針も明確にすべきです。広告代理店が企業からCMを出させるのに都合が良いから、高い視聴率だけを目指して番組の制作や編成をしているのは、そもそも間違った経営方針なのです。

 ところが、東電の役員達がそうであったように、TV局の経営陣も自分たちがパブリックな仕事をしているという意識は薄いように見受けられます。特権的な立場を獲得したサラリーマンのメンタリティなのかもしれません。テレビ草創期とは意識も変質し、事なかれ主義の守りの姿勢が伝わってきます。
 関西テレビの
「発掘!あるある大事典」をはじめ、視聴率至上主義がもたらした不祥事は、過去に数々ありましたけれど、トカゲのしっぽ切り的な処理はされても、経営方針自体にメスを入れたという記憶はありません。

 

●番組タイアップ楽曲の権利を押さえるテレビ局

 私のホームグランドである音楽業界との関わりで言えば、テレビ番組のタイアップになった楽曲の著作権(代表出版)を、必ず放送局の子会社が得るという業界慣習があります。独占禁止法の教科書に出てきてもいいような「特権的地位の濫用」に該当すると思うのですが、当然の慣習として存在しています。数年前に、総務省が問題視したことで、若干、改善されましたが、自社の番組に関連する曲の権利を「自動的に持っていく」のは、法律的にも、社会的なルールとしても間違っています。

 放送局の子会社の音楽出版社には、フジパシフィック音楽出版や日音など、親会社のTV局の力に依存せずに、素晴らしいアーティストを産み出すことに、功績のある会社もたくさんあります。素敵な音楽人も多いです。「李下に冠を正さず」という考え方で言えば、理由を問わずに、その放送局の番組のタイアップ曲は、「系列の音楽出版社は権利を持てない」という逆の慣習にすべきではないでしょうか?

 

●日本の番組は韓国のテレビ局では放送できない。

 いずれにしても、テレビ局は、近年薄れてきているとはいえ、巨大な影響力を持ち、国の許認可権で守られています。「視聴率がとれる」以外の、明確で、納得度の高い編成方針を持つべきなのです。 

 そういう意味で、高岡発言や、ネットユーザーのフジテレビバッシングには、一定の正しさがあります。「いくらなんでも酷すぎない?」というメッセージとも読み取れます。

 韓国は国を挙げて、戦略を持って文化輸出を仕掛けています。一方、韓国内では日本語コンテンツの放映には法的な制約がいまだにあるという不均衡が存在しています。この是正は、テレビ局では無く、政府間の問題ですが、こんな状態で、韓流ドラマを過剰に放送するのは、国益上の問題があります。韓流ドラマの好き嫌いは別にして、公共性の観点で異論が出てくるのは当然では無いでしょうか?これを機会にフジテレビも考え直して欲しいです。


 フジテレビの有力スポンサーであるという理由で「花王」商品の不買を呼びかけるのは、理不尽ですし、もちろんやり過ぎです。但し、ネットユーザーが、協賛企業にまで「攻撃範囲」を広げたのは、テレビ局と代理店の一番の弱点を突いているという意味で、戦術としては上等だと思いました。

 

●高岡さんは自分の職業を見つめ直して欲しい。

 ちなみに、私は、高岡さんの言動自体は支持できません。彼が真面目に考えているのは伝わりますが、言葉や行動が、年齢に対してあまりにも稚拙です。そして、エンターテインメントの仕事をしている者として、彼にプロの俳優であることの自覚が無いことをとても残念に思いました。歌手や俳優は誰にでもできる仕事ではありません。自分の才能をもっと大事にして欲しいです。それに、俳優だから影響力があるという自覚も持たないといけないと思います。

 ただ、幼稚な人の率直な発言だけに、人の心には刺さったのかもしれません。私自身は、フジの平日午後の番組編成はノーチェックでしたが、韓流ドラマだらけの編成方針に辟易している人が多かったから広まったのでしょう。

 ちょっと逆説的ですが、今回の事で怒った人たちは、まだテレビに対する愛情が残っている人たちだと言えると思います。こういう人たちが残っているうちに、テレビ局が意識を変えることに期待したいです。

●テレビ局も「送発電の分離」が必要

 日本のテレビ局には、ノウハウの蓄積があり、コンテンツの企画制作に高い能力があります。最近の日本映画の大ヒット作に、テレビ局が座組の中心になっている事が多いのは偶然ではありません。新しい才能を取り込んだり、多様な出演者をバランスよくまとめたり、テレビ局を中心としたコンテンツ制作力は、群を抜いています。

 残念なのは、「放送設備と許認可免許を維持すること(=既存のビジネススキームを守ること)」が「視聴者にとって有益な番組をつくる」事よりも優位になってしまっていることです。

 電力会社が、送電網を持っていることで、発電の自由化が進まなかった構図と相似形です。国内にしか視野が無いのも似ています。

 前述の番組タイアップ曲の著作権の話のように、許認可に基づいた編成権を持っている会社が、その力をコンテンツ製作に及ぼす時には、デリケートな仕組みが必要なのです。テレビ局は、高い制作能力を殺さないためにも、制作と放送は分離すべきだと私は考えます。

●コンテンツ制作に注力すれば国際競争力もある

 海外から注目されている日本のドラマやバラエティが、輸出ビジネスとして成功しないのは、プロデューサーが、日本で視聴率をとることしか考えられないからです。インターネットも含めた様々なメディアで、多様なコンテンツを流通させるようになれば、収益機会も広がるし、番組も豊かになる筈です。
 日本のコンテンツの活性化のためにも、テレビ局の「制作放送分離」(ハードとソフトの分離)を強く希望します。

 日本のテレビ局が視聴率偏重主義と既得権益の許認可を守るという経営姿勢から脱皮して、そのコンテンツ制作能力を最大限に発揮することを期待して止みません。

 賢い消費者は、視聴率至上主義の矛盾に気づき始めています。企業も間もなく方針転換を図るでしょう。ネットの奴らの騒動だと、甘く見ていると、高いツケを払わされることになるのではないでしょうか?


個人ブログ「いまだタイトル決めれず」に書いた内容を、誠ブログ用に加筆修正したものです。)

        山口哲一(音楽プロデューサー・株式会社バグコーポレーション代表取締役)