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それどうやって実現するか?は、TRIZではこう発想する

それどうやって実現するか?は、TRIZではこう発想する

石井 力重

アイデアプラント 代表。著書に『アイデア・スイッチ』。専門領域は「創造工学」。クリエイティブ・リーダを助ける道具を作っています。

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かわりものやさんから、店舗の節電アイデア※を見せていただいた。
トップをとったものは、葦簀(よしず)や植物で、強い日光が店内に入ることを防ぐ、という趣旨のものだった。

昔の駄菓子屋をほうふつとさせるノスタルジーあふれる、かつ、エコでもある、面白いアイデアだと思う。

※かわりものやさんのアイデアワークの実践に関する記事はこちら
(※この記事中で紹介されているものとはまた違ったテーマ)


このアイデア、実施の段になると、大きな問題があると、かわりものやさんは言う。

・お客さんは外から店の中が見えたほうが入りやすい。
・防犯上、店の中が見えたほうがよい。

こういう時には、TRIZの発明原理は大きく役立つ。

TRIZってなに?発明原理ってあやしいな、という声もありそうだが、その辺は、ひとまず後回しにして、技術的な発想技法の一種(それも非常に強力な)である、とだけ言って先に進みたい。

TRIZの発明原理は5ステップで発想する。

1)問題を「対立する2つの要求」という形に整える。

「窓から入る強い日差しによる熱」を抑えつつも、「店内は外からよく見える」ようにしておきたい」

2)これをTRIZの言う、39のパラメータに当てはめる。

「窓から入る強い日差しによる熱」は、該当するパラメータ候補は以下がありえる。
「17.温度」
「30.物体が受ける有害要因」
さらには、解釈の仕方によっては、以下も候補に。
「18.照度/輝度」
「20.静止物体の使用エネルギー」
「22.エネルギーの損失」

次は「店内は外からよく見える」に該当するパラメータ候補を探すと以下になる。
「24.情報の損失」
あるいは、解釈の幅を広げて、他の候補として以下もある。
「27.信頼性」
「37.検出と測定の困難さ」

※この選定は、TRIZの標準的な本があれば、だいたい、慣れれば選べる

3)対立する2つのパラメータの交点を拾い出す

39のパラメータ×39のパラメータ、で構成される「矛盾マトリックス」という紙が
TRIZの教科書にはついている。それで、交点を拾う。
上記でいえば、行=17、列=24になる。
その交点となるセルの中には最大で、4つの数字が入っている。
残念ながら、一つも数字が入っていないセルもある。

そこで、解釈を拡げて、他の候補も当てはめる。
行=30、列=24ではどうか。
そこには、[22,10,2]と書いてある。

これが、この矛盾に突破口を見いだす示唆となる発明原理の番号である。

ここまで、文章で書くとややこしいが、実際にする作業は、そうでもない。
問題を、矛盾する2つの要求に単純化し、それぞれの要求を39のパラメータと
言われる要素で近い物を選び、39×39の行列から、交点に書いてある番号を拾う、
ただ、それだけである。

残るステップはあと2つである。

4)発明原理の内容を読み込む

先の作業で[発明原理22][発明原理10][発明原理2]が
示唆となりえるとわかったのでその内容を読み込む。
発明原理は、慣れるまでは難しい表現にみえるので、
簡便にその中心概念を表現した「智慧カード」でまずは示唆としてみると。

【智慧カード22】良くない状況から何かを引き出し利用せよ
【智慧カード10】予測し仕掛けておけ
【智慧カード2】離せ

5)示唆をもとに、解決策を発想する

ここは、理屈で説明しにくいので、つぶやきそのままを、書き出してみる。

「良くない状況から何かを引出し利用せよ、か・・・。良くない状況というのは、強い光が注ぎ込んで店内が暑くなること、だろうかな。。いや、葦簀や遮蔽物を置いて店内が外から見えにくくなってしまうこと、かもしれない。それを逆に利用しろ、か・・・。
~考える事、30秒~
実現性は分からないけど、こういうのはどうだろう。
店舗のガラス壁の外側にエアコンをつけて冷風を下に噴出させる。
涼みたい人はガラスの前に立って涼んでもらってもOK。
店内に降り注ぐ日差しを人間で遮蔽しつつ、集客につなげて、かつ防犯に。
しかし、さすがに、これは、どれほどのパワーがあっても厳しそう(節電じゃない)。
手間が少しかかるが、店舗のガラスの前に、冷風ハウスを付けのはどうだろう。
ある程度、透過性があって、店内が見えるし、駐車場から、店内に行くのに、
そのハウス内を通ると涼しい、というのは、楽しい気もする。
或いは、大がかりなことはやめて、ガラス面の前にすのこを引いて
蛇口を解放して、水浴びしてください、というのはどうだろう。
そのお店でお買い物をしたら、帰りに、ちょっと水浴び。せっかくいくなら
そういうエンターテイメントがある店の方が、楽しいような気もする。
他のお客さんが「遊んでいる子供に濡らされた!」と叱られるリスクはある。
この夏は、たぶん、水浴びする人が増えるとは思うので、何か可能性はありそう。」

「じゃあ次は、予測し仕掛けておけ、か・・・。なんだろう。何を予測せよというのか。日が昇り、日差しが強くなる。店内が暑くなる。そこに対して、葦簀をかけたいというのがそもそものアイデアだ。何を予測し仕掛けるのか。
~トイレに行きながら考えること、1分~
ガラス壁の外側に、スポンジタオルを張り付けておくのは
どうだろう。
特に、人間の目線の高さは、大きく開けておいてく。
暑い時間になったら、ホースで水をかけて、
スポンジがひたひたになるようにする。
どんどん蒸発していって気化熱を奪う。
濡らした葦簀のひんやりさに近い効果はあるかもしれない。
張り付けるスポンジに何らかの遊びを加えることで、道行く人の注目を
集めるような工夫もできないだろうか。」

「三つ目は、離せ、か・・・。これはまた、アバウトな。。。何を離せというのだろう。
葦簀をガラス面から、離せ、ということか?どうだろう。ありえるかな。
葦簀はどんなに離しても、道行く人から中が見えないならしょうがないよな。
離す、離す、、、離す、、、。例えば、ガラス面の前に何らかのやぐらを組んで、
ガラス面の最上部あたりからひさしのようになる葦簀をつけるとか?
これだと店舗前の駐車場の中もある程度涼しいので、止めるならあそこへ、
という人もいそうだけれど、暗くなるとやぐらにぶつかる人や車も
出てくるリスクもある。暗くなったら、簡単にかたずけられるようなやぐらなんて
あるだろうか。逆に、窓ガラス面にすこし構造物をつけて、一片をとめて、突き出たひさしの先端を、店舗の屋上からひもで引っ張っておくのはどうだろう。
(風であおられるきけんせいはあるけれども)
特に暑い時間は太陽の確度は垂直に近いので、さほど大きな庇にしなくても
そのピークタイムは陰にできるのかもしれない。」

「この辺まで考えて、発想の示唆とは関係ないが、こういうのはどうだろう、と
思いついたので書くと、「水浴び20リットル50円」というのはどうだろう。
縁日的な、客寄せパンダだけれど、庭のない家庭で、子供に近場でちょっと
水場の遊びをさせたいお母さんが、それーとかいって、子供に水をかける。
人が集うための雰囲気づくりなので、価格は非常に安価に。
お買い物をしたらそのおまけとして、チケットを出してもいいかもしれない。
こういうことをしたらリスクもありそうだけれど、何かの展開するエッセンスに
ならないだろうか。もはや、葦簀は関係なくなってしまったけれど。」

こんな感じで発想をする。
もっと、発想をしたければ、他の候補となっているパラメータを取り上げて
その交点となるセルから、別の発明原理を示唆として使っていく。

なお、前半の1)~4)が面倒な場合は、
すっ飛ばして、ランダムに引いた智慧カードから
アイデアを出すのも、やり方としてはありだ。
その場合は、40のカード全てに対して可能性を検討してみるので
時間がたくさん必要になるが、直観的に、「これ、示唆になりそう」と
感じるもの数枚だけを抜き出し、上記のように考える、という形が実利的。


TRIZを使って、また、何度か、節電のアイデアを出してみたい。
この夏にはきっと、多くの店舗や企業、あるいは、家庭で必要になることだから。


余談:

葦簀、といえば、感心した旅先のアイデアがある。
真夏、ナポリの近くの小さな島に行ったとき、小さな車のキャリーの上に
ロールにした大きな葦簀をのせた車が走ってきた。運搬中か?とおもったら、
よく見ると止まっている車のキャリーの上に葦簀が拡げられている。
日差しが車に注ぐと乗った時に熱い。
彼らはキャリー+葦簀の工夫をしていたのだ。
中には、葦簀をキャリーの上に広げたまま走っていく車もあった。
危険じゃなかろうか、とおもったが、この小さな島の細い道ではそう
とばさないようで、さほど危なっかしさは感じなかった。
(日本なら怒られるだろうけれど、イタリアはいろいろと、そういう感じだった)
海辺に止めた車は、夏場は熱い。このアイデアは、結構良い
アイデアのように思えた。