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コクリコ坂でヨット乗りがうんちくタレているらしいぜ!

»2011年8月 3日
旅するヨット

コクリコ坂でヨット乗りがうんちくタレているらしいぜ!

長浜 和也

PC USER編集部員は仮の姿。本業は“一人旅”船長(自称)。伊豆諸島を旅するため、学連経験やクルー修行をすっとばし、いきなりヨットに乗りはじめて早10年。

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映画「コクリコ坂から」のポスターに掲げられている旗をみて、「ねえねえ、あの旗の意味知ってる~」と得意そうに話しかけてくるおっさんがいれば、そいつは十中八九ヨット乗りです。やぁーねー。

ポスターにあるあの旗は国際信号旗といって、船と連絡を取るために用います。アルファベット、数字、そのほか特殊文字が用意されていて、一文字、二文字、三文字、そして、数字もあわせたそれぞれの組み合わせで、全世界共通の意味が決められています。ポスターにある「U」「W」と並べて、出港する船に対しては「貴船の安全なる航海を祈る」、入港する船に対しては「貴船を歓迎する」という意味に使われます。マリーナでは常時掲げられていることが多いので、ヨット乗りにはよく知られた組み合わせです。

アルファベットの組み合わせに数字旗を合わせることで、より細かい意味を加えることができます。例えば「UW」では、UW1で「貴船の協力に感謝する。航海の安全を祈る」となり、UW2で「貴船の入港を歓迎する」、UW3で「貴船の帰港を祝す」となります。

ポスターでUW旗と一緒に揚がっている、横に倒した細長い台形の旗が数字旗で、白地に赤い丸の図柄は「1」の旗になります。ただ、正しい並びとしては上から「UW1」ですが、ポスターでは「1UW」となって、組み合わせとしては正しい意味になりません。「だぁーから、船を知らないやつがシッタカするとダメなんだよー」と、なにやら高い視点から申しているおっさんがいれば、そいつも間違いなくヨット乗りです。やぁーねー。

しかし、あのジブリのことです。何か深い意味が隠されているのかもしれません。んで、予告編を見ると、陸側からはUWを掲げ、それを見た船側からUWの上に紅白幕のような横長の旗を掲げます。んんん。

この、紅白の旗は「回答旗」といいます。その用法は国際信号書「INTERNATIOAL CODE OF SIGNALS UNITED STATES EDITION 1969 Edition Revised 2003」第1章セクション5に記載されています。それによると、相手から信号を送られた船は、「信号を視認して現在解読中」であることを回答旗を半旗で掲げることで示し、信号の内容を理解したら回答旗を降ろします(注:日本語の解説では半旗掲揚から全掲揚にするという説明がほとんどです。先の信号書では「it is to be lowered to the dip」とあるのですが、解読完了時に全掲揚して送信側が次の信号を掲揚したら、すぐに引き下げる、という記述になっているかもしれません。このあたり、指摘していただける船長がいましたら幸いです)。

ただ、回答旗は、単独で使用し、その下に信号旗を掲げません。予告編のように回答旗と信号旗を組み合わせる用法も先ほどの国際信号書では規定されています。それによると、軍艦から商船に国際信号書に従って信号機を使い場合、回答旗を視認しやすいところに掲げ、それから信号旗を掲げるように定められています。

なので、「タグボートは軍艦じゃないから回答旗を一緒に掲げるのは間違い」という指摘は正しいです。正しいのですが、映画のストーリーを思うとき、ある意図が隠されているのではないかと考えます。陸に揚がる信号旗に回答する船に乗る男子学生は、陸で信号を送る人物が同じ学校の女子学生であることを知っています。信号を掲げる「女子」に船側が「男子」を意識して信号を掲げるとき、軍艦から商船に対して信号を送るように回答旗と信号機を掲げた、と解釈するのもさほど無理なことではないのではないかなと。

「なら、ポスターの1UWはどういうわけで」となりますが、これこそ、船を知らないところから無理な要求が入ったのかなと想像をめぐらすのです。ポスターを描いたのは宮崎駿氏ですが、彼は映画のデザインノートで、信号旗に対する返信が一旒の回答旗であることを知っていると伺わせる文を書いています。実をいうと回答旗の用法はアマチュアの船乗りでも知っている人は少なく、宮崎氏がそれを知っていたとなると、1UWではなくUW1であることは当然分かっていると考えられます。

今回制作された映画のサブタイトルに「上を向いて歩こう」とあって、「日本復興」を意識していることが想像できます。で、船を知らないプロモーション担当者が「一番上に日の丸入れましょうよ」といっちゃったりなんかしたのかもしれないと。でも、日章旗と信号機を一緒に揚げるころはありえないので、ささやかな抵抗として数字旗1を掲げて、船のことを知らないのに無理難題を押しつけてきたプロモーション担当者を皮肉ったのかもしれない......、などなど、そういう隠された意図を妄想しながら映画を見るのも、ヨット乗りとしては一興、と映画を見てもいない私がシッタカでいっちゃったりします。

「え、なに? 映画の時代設定は1963年だから、当時の規定で"航海の無事を祈る"は"WAY"で、その返信は"OVG"だよって......、あなた、そんな実もフタもないことをいっちゃって......」