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TOKYO解放区
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東京がTOKYOとなったのはいつからだろうか。1933年に新宿で本店がオープンしてから80年。全館の改装を行っていた伊勢丹新宿店が、2013年3月6日、ついに新たにリモデルグランドオープンした。
80年代から90年代にかけてアジアへの出店も著しかった伊勢丹。「崖っぷち」や「伸び悩み」「顧客離れ」といった言葉が並び、ここ数年落ち込みの激しかった百貨店業界の中でまた一歩新たな世界へ踏み出そうとしている。
「世界最高のファッションミュージアム」と銘を打ち、堂々のリモデルオープンを迎えた当日。まず驚いたのは、その賑わいだ。閉店までさほど時間もない平日の夜、オープン当日とはいえ、化粧品やフレグランスなどを取り扱う本館1Fでは、各ブランドで多くの女性客がメイクアップアドバイスを受けていて、エレベーターにもゾクゾクと人が乗り込んでいく。
入った瞬間の、あの百貨店独特の香りを鼻の奥に残しながら私が真っ先に向かったのは、本館2F。センターパークの「TOKYO 解放区」エリアに期間限定オープンしたポップアップストア「ジェニー ファックス ファーム(Jenny Fax Farm)」が狙いだった。そのただならないネーミング通り、TOKYO解放区のエリアで扱われているブランド「ジェニー ファックス(Jenny Fax)」は本当に異様だった。
ジェニー ファックスは、「ミキオサカベ(MIKIOSAKABE)」のデザイナーである坂部三樹朗氏と、台湾出身のシュエ・ジェンファンによるブランドで、2010年にミキオサカベよりシュエのブランドとしてスタート。メルセデス・ベンツ ファッション・ウィーク東京(東京コレクション)でも作品を発表している。
間近で目にしたジェニー ファックスを一言で表すとすれば「甘ったるいのに毒がある」といった感じだ。店内を埋め尽くすのは、近頃話題のシャーベットカラーをしたファンシーな洋服。一昔前の少女マンガの主人公を思わせるようなキラキラと輝く大きな瞳に、ピンク色の髪をしたキャラクターが全面にプリントされたトップスや、インパクトのあり過ぎるオーガンジー素材のパフスリーブ付きワンピースなどが並んでいる。
「プロムパーティーへ向かう前の女の子の部屋」「閉ざされたドアの向こうに広がる『日常』と『憧れ』が交じり合うリアルな空間」というショップのテーマの通り、かつては誰もが憧れを抱いていたような'少女らしさ'が満載で、とにかく甘い。加えてどこか、なんとも言えないグロテスクさが感じられるほど。
同フロアで数々に展開されているブランドとも、ある意味で一線を画していて、'解放区'であるにも関わらず普通の買い物客であれば後ずさりするか、好奇心にやられるかのどちらかで、否が応でも目に留まるのは間違いない。同時に、多くの有名ブランドがそうであるように、洋服の1つ1つが強い個性を持っていて、商品というよりも主張する作品としての要素が強い。個人的には、自分が弱っている時には着るのをためらいそうな服たちといった印象だ。
「プラダ(PRADA)」や「エミリオ・プッチ(Emilio Pucci)」といった名立たるブランド、が着物や草履などのジャパン・テイストを駆使したコレクションを発表している一方で、'Manga'や 'Kawaii'といった、まさにTOKYOな世界感を持ち合わせるブランド、ジェニー ファックス。所詮ファッション業界の主流には成り得ないTOKYOカルチャーだが、デザイナーのシュエが「普通の女の子が自分の殻を破る後押しをするための洋服」と語っているように、いわゆる'モード'の世界に媚びる気のない彼女のブランドコンセプトの在り方は異彩を放っていた。一見単純、でも本当は奥深くてちょっとだけ恐ろしい'女の子'の世界を、老舗百貨店の一角で垣間見れるとは。