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ハーバードビジネススクールの新学長はインド人です。
ボストンと東京のあいだで
ハーバードビジネススクールの新学長はインド人です。
ハーバード・ビジネス・スクール日本リサーチ・センターのシニア・リサーチ・アソシエイト。主に日本企業やビジネスリーダーに関するケース作成を行っています。
当ブログ「ボストンと東京のあいだで」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/mayukayamazaki/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
つい先日発表になったハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の新しい学長はNitin Nohriaというリーダーシップの研究をずっとやってきたインド系の先生。学部まではインドで過ごした。世界中のどの大学より入るのも生き残るのも難しいと言われそれがゆえに卒業生のネットワークも非常に強いIndian Institute of Technologyの出身だ。修士・博士課程はアメリカのMIT、1988年からHBSで教鞭をとっている。生徒からも慕われ、同僚からも尊敬されている人。
白人以外の人が学長になったのはHBSでは初めてだ。ハーバード大学の学長は女性だし(そういえば大統領だって黒人だし)、時代の流れは急速に多様性に向かっている。
ここで問題。この数字は何でしょう。
(1) 日本0。インド25。中国5。
(2) 日本9。インド45。中国27。
(3) 日本500。インド1500。中国1700。
答え。
(1) HBSで教える230人の先生の国籍【注:写真と名前を見てざっくり数えているので正確ではありません】
(2) HBSのMBA一年生(2011年卒業予定)900人の中の学生の国籍。
(3) HBSの最大の収益源、企業幹部研修にこの5年間で参加した数。
意味合い。
HBSの日本に対する興味は、中国やインドと比較して、圧倒的に小さい、ということ。日本人の先生は一人もいない。学生も減っている。企業からHBSに入るお金も人も少ない。
物事には順番とタイミングと異なるフェーズがある。単純に今の日本と、伸び盛りの中国・インドと比較して、日本はだめだ、とか、元気がない、といってもあまり意味がないような気がする。戦後の頑張りで、インフラを整え、安全な街を作り、産業を発展させ、貿易をさかんにし、おおよその繁栄を達成してしまった日本を、じゃあ、中国とインドのような成長力やエネルギーがないからといって、批判したってしょうがない。
だって、あのころは、明らかに目指すべきモデルがあった。物質的豊かさへの曇りのない信念があった。未来は、必ず今よりよくなるという確信があった。もちろん、それだって、無数の人たちの血のにじむ努力があって初めて可能になったのは言うまでもない。でも、やぱり目指すべき道が見えている、というのは強い。何がよりすぐれているかわかっっているのは強い。そこに向かって猪突猛進すればいいから。
今のインドや中国は、きっとミラクルだった日本と似たような状況にある。目の前には広大な国内市場。そしてその先にはさらに大きな世界市場。ただ前に進めばいい。拡大すればいい。失うものは何もない。
と、そんな勢いで、多くの学生が、世界へと飛び出す。起業する。企業はがんがんと幹部を授業料の高いコースに派遣する。学問の世界でもどんどんグローバルに活躍する。
だから先生方も中国やインドに関してできる限り学ぼうと思うし、たくさんのケースを作りたいと願う。よって、香港とムンバイにあるHBSのリサーチ・センターは年中盛況。先生からのリサーチ依頼も訪問も絶え間なくやってくる。
一方、私の所属する東京のリサーチ・センターはどうかというと。。。
リサーチプロジェクトの依頼は結構ある。やはりグローバルで何かを調査するとなると、腐っても鯛、じゃないけど、経済規模は(今のところ)世界第二位だから日本は外すわけにはいかない。また、欧米とは異なる資本市場や、中国・インドとは長さが圧倒的に違う資本主義のもとでの経済発展の歴史など、深ぼりのしがいがあるところが多々ある。懐が深い。日本は長期的俯瞰的視点に立った研究対象としてはふさわしいんだと思う。
しかし「今この日本企業のケースを作りたい」という依頼はほぼゼロ、だ。時折フィナンシャルタイムズに日本の企業のことが出て、それが、中国・インドがらみだったりすると、ピンポイントで先生から質問がきたりするけど、まあ、それくらい。
少しずつ変わってきているとはいえ、日本企業は相変わらずその会社でしか働いたことがないどちらかといえば高齢の男性の人たち、要は似たような人たちの間で議論して、経営を行っている。現在、ビジネススクールの先生たちが興味を持って取り組んでいるテーマ、例えば、多様性とか、流動的な組織とか、イノベーションとか、グローバルとか、そういう分野で突出しているような日本の企業の例はなかなか見あたらない。
でも、じゃあしょうがないよねーといって、ぼーっとしていたら、ますます日本のケースはできない。野心と(ある種の)才能にあふれる世界から集まる1800名の学生や、1万人の企業幹部の方々が学ぶケースから、さらにはHBSのケースを使って学ぶ世界中の他のビジネススクールの授業から、日本の企業が消えてしまったら、いくら時代の趨勢とはいえ、とてもかなしいことだ。たった5名のオフィス(うちリサーチに携わるのは3名)だけど、最後の砦としてがんばらなくちゃ!
ということで、どんなふうにがんばっているか(といっても、ゆったりやってますが)については、次回書きたいと思います。