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日本をハーバードビジネススクールに売り込む旅をしてきました。

日本をハーバードビジネススクールに売り込む旅をしてきました。

山崎 繭加

ハーバード・ビジネス・スクール日本リサーチ・センターのシニア・リサーチ・アソシエイト。主に日本企業やビジネスリーダーに関するケース作成を行っています。

当ブログ「ボストンと東京のあいだで」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/mayukayamazaki/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


先週の月曜日から一週間、ハーバードビジネススクール(HBS)のキャンパスに行ってきた。時折冷たい雨も降ったけれど、ほとんどの日で新緑の美しいさわやかな初夏を楽しむことができた。外は8時頃まで明るい。

基本的に、朝から夕方まで、美しく整備され緑豊かで鳥がさえずる広大なキャンパスの中を走り回って、いろいろな先生とミーティングをする、という日々。現在一緒に仕事をしている先生たちとは具体的な打ち合わせと議論を、以前仕事をしたことがある先生たちとは、最近どうよ、と軽くおしゃべり、今まで会ったことがない先生とは、どんなリサーチをしているのか話を聞いて彼らの興味がどのあたりにあるのか理解を深める、といった感じ。

「いやあ、ちょうどよいところにきた!日本の企業のケースを書きたいと思ってたんだよねー」とかなれば、最高だけど、このご時世そんな展開になるはずもない。それぞれの先生が自分の授業のためにどんなケースを新たに作ればいいと考えているかを聞き、何か日本に絡めたケースができないか、ミーティングの場で思いつけば提案をし、「ああ、それおもしろそうだね」となれば、帰国後に引き続きフォローアップをする。

こういうミーティングで、いつも後悔とともに思うのが、日本の現状とトレンドに関して俯瞰的な見解を持ち、幅広い分野での個別の事例についていろいろと知るという努力が足りないなあ、ということ。とはいえ、生来の怠惰な性格のおかげで、早くも帰りの飛行機からそんなしおらしい自己反省はすっかり消えて、特に気合いを入れて勉強したり考えたりすることもなく、次の出張が来て同じ後悔を抱く、というサイクルをバカみたいに繰り返している。

 

いつもぐっと詰まるのが、「最近の日本の近況は?」という質問。

いろいろな出来事がランダムに頭によぎる。多くの企業の業績が回復し始めていること?でもまだまだ不況なこと?史上最悪の自殺率?普天間問題?鳩山民主党政権の迷走?膨れる一方の膨大な財政赤字?超高齢社会?「内向きな」若者?緊迫化する東アジア安全保障???

 

さらに詰まるのが「ビジネスではどういったおもしろい動きがある?」という問いかけ。

何がおもしろかったっけ?

数年前までは携帯に関しては日本は圧倒的に進んでいた。これほどまでに生活のあらゆる局面に携帯が浸透している国はそうなかったと思う。その上で、お財布ケータイやらケータイ小説やらデコメやらモバゲータウンやら、新たな世界が花開いた。しかし、iPhoneがこれほどまでに普及すると、日本の携帯だからできたと思っていたことが、当たり前のことになっている。

アニメなどのコンテンツが注目された時期もあったけど、「日本のアニメ業界はクリエーターの裾野が広く非常に質の高い作品を作るけれど、細分化していてビジネスモデルが脆弱でクリエーター側にほとんどお金がいかない」といった内容のケースを一度作れば(「プロダクション・アイジー」のケースがある)それで事足りてしまう。

ある一部品についてみると圧倒的グローバルシェアを持つ部品会社や、製造業や小売りのオペレーションの凄さは、本当になかなか凄いけど、ある程度すでにケースになってるし...

こんなことを走馬燈のように思いながら、最近興味を引かれたことをざざーっと思い出しながら、でもやっぱりそんなにおもしろいことって日本では起きてないよなあ、とぼやきながら、もごもごと話す。こんな私が「今の日本」についてHBSに伝える役割を担っていいのか大きな疑問を抱きつつ。

 

今回、会話が盛り上がったのが、エネルギーや農業を研究テーマとしている先生方だった。日本の農業の変化や、インフラ産業のグローバル化(特に新興国市場)、「グリーン」ビジネス、それとからめてのレアメタルへの投資などのことを話したら「そりゃあおもしろい!よし、秋に日本に行こう!」と前のめりな反応をしてくれる先生が何人かでてきた。

去年の出張時に、日本のケースを書いてもらうには「環境」が鍵となる、と思って、以来、いろいろとエネルギーや環境まわりの話を、大企業、ベンチャー、官僚の人たちに、聞いてまわってはまとめをつくっていた蓄積が、ようやく実を結び始めた感がある。

それ以外でも、ずいぶんと長い間「この企業のケースを書きませんか?」としつこく口説き続けていた先生たちの中でも、腰を上げてくれた人がいた。

ということで、まだどうなるかはわからないけど、いくつかおもしろいケースプロジェクトが立ち上がりそう。出張によって生まれた流れを途切れさせないように、これから丁寧にフォローアップしていかないと。忍耐強く。