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日本発のケースを集めた本が出版されました:「ケース・スタディ 日本企業事例集」の内容を紹介します(前半)

日本発のケースを集めた本が出版されました:「ケース・スタディ 日本企業事例集」の内容を紹介します(前半)

山崎 繭加

ハーバード・ビジネス・スクール日本リサーチ・センターのシニア・リサーチ・アソシエイト。主に日本企業やビジネスリーダーに関するケース作成を行っています。

当ブログ「ボストンと東京のあいだで」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/mayukayamazaki/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


ケース・スタディ 日本企業事例集」(ダイヤモンド社)に収録されているケースを簡単に説明する。まずは前半5章。

 

1.松下電器産業:危機と変革

一消費者として最近パナソニックの商品は勢いがあるなあ、と思うことがよくあるが(といっても「ナノイー」をはじめとする一連のビューティー商品にすっかりはまっているだけかもしれないが)このケースを読むと、中村邦夫さんの改革があったからこそ今のパナソニックがあるのだなあ、としみじみと思う。「ターンアラウンド」「V字回復」などと大々的にぶちあげて、外からやってきた経営者やファンドが企業再生に取り組む例も増えてきたが、やたらと派手な割に内実が伴わずに終わっている事例も多い中、本物の改革とはこういうことだ、と思わせる。

ケースでは、2000年から6年間松下電器の社長を務めた、物静かな信念の人、中村邦夫さんによる、巨大企業松下の変革のことを綴っている。

 

2.日産自動車:再生への挑戦

電気自動車や中国での躍進など、何かと元気な日産。松下と同様、本物の改革が日産にもあった。そう、かの有名な「ゴーン改革」。すっかり忘れていたけど、日産はここまでやばい状況にあったんだよなあ、とか、組織横断でチームを作って「日産リバイバルプラン」を発表したよなあ、とか、ケースを読むと当時のことをなんだか懐かしく思い出す。そうだ、あの頃私は戦略コンサルタントだった...

同様の変革手法は他の企業でも採用されてきた。手法だけではなく、真の(authentic)リーダーシップがあって初めて、企業は変革を成し遂げるのだということに、改めて気づかせてくれる。やっぱりゴーンさんはすごいね。

 

3.富士フイルム:第2の創業

今やすっかりカメラと言えばデジカメだけど、実はつい最近まではカメラってアナログだった。アナログからデジタルへ、世界のカメラ市場は2002-2003年ぐらいの短い間で急激にスイッチした。写真フィルム事業を営んできたコダックやポラロイドなどが軒並み苦戦する中、富士フイルムは、デジカメへの迅速な移行に加えて、もともと持っていた技術を応用し、液晶テレビディスプレイの膜、ライフサイエンス、化粧品といった新事業を次々と立ち上げた。フィルム一筋でやってきた会社の「第2の創業」。それを率いた古森重隆社長。

なお、私はこのケースがそろそろできそう、というころにHBS日本リサーチ・センターに入った。ちょうどその時富士フイルムが化粧品を本格的に売り始めようとしていて、ケース作成にはほとんど関わっていなかったけれど、サンプル、というか商品そのものをいくつもいただいた。技術者がまじめに作りました!という感じの、値段の割に質がいい商品だったが、でも地味だしさすがにフィルム会社が化粧品って難しいんじゃないかしら、と思っていたら。松田聖子・中島みゆきのCMなどを打ち出し、あれよあれよという間に、案外人気商品になっているようだ。おそるべし、富士フイルムの底力。

 

4.資生堂:中国市場への参入

原題は"Making China Beautiful: Shiseido and the China Market (中国を美しく:資生堂と中国市場)"。まだ漢方が主流だった1872年に西洋式の薬局として始まり、後に日本最大の化粧品会社へと成長した資生堂。その海外展開における困難と成功を描く。男女ともに人民服を着て、女性は化粧などしなかった1980年代から、資生堂は少しずつ中国市場に参入し、信頼とブランドを確立し、それが1994年の中国向けブランド「オプレ」の大成功へとつながった。ブランドへの憧憬は世界共通、一方で美意識や求める化粧品は地域によって異なる、という化粧品市場におけるグローバリゼーションの難しさが浮き彫りにされている。

このケースを作成したジェフリー・ジョーンズ教授は、この数年間化粧品・美容(ビューティー)産業のグローバリゼーションの歴史についての研究に精力的に取り組み、この4月に"Beauty Imagined: A History of Global Beauty Industry"(「想像される美:世界のビューティー産業の歴史」)を出版した。この本のこと、彼の研究内容のこと、盛りだくさんだった5月末の来日のことなどは、また近々書く予定。


 5.コマツ:グローバル化の取り組み

「優れた会社」という印象が強いコマツ。でも2000年代はじめの頃は悪化する業績に苦しんでおり、当時の坂根正弘社長は、企業改革を断行。結果、ますます強い会社となって戻ってきた。2006年からは「コマツウェイ」の作成が行われた。

○○ウェイ、○○のこころ..企業理念や価値観、ミッションを語るものはたくさんの企業に存在する。でもこれらが真に力を持つのは、トップの強いコミットメントと信念のもとで、組織横断で真剣に作り込み、さらにはその普及にをねばり強くやったときだけ。そうでないと、額に入れてかざってある社是や決して開かれることのない学生手帳とあまり変わらない。

コマツウェイは、おそらく本気で本物の企業理念だ。そして売り上げの80%、社員の半数が海外というグローバルな展開を行う会社の共通基軸とすべく、海外においてもコマツウェイの推進が開始される。