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【書評】アームストロングに対峙する力
スポーツとITの詰め合わせ
【書評】アームストロングに対峙する力
神宮球場外野席、もしくは横浜スタジアム内野席でのノマドワーキングに憧れています。普段は「@IT情報マネジメント」という媒体の編集者として粛々と働いています。
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アルベルト・コンタドールの連覇で幕を閉じた2010年の「ツール・ド・フランス」。レースの模様はNHKで放送されていましたし、昨今のロードバイクブームの影響もあり、注目していた方も多いのではないでしょうか。
ツール・ド・フランスと聞くと、ある1人の自転車ロードレース選手を思い浮かべます。その男の名はランス・アームストロング。1999年から2005年にかけて7連覇という前人未到の記録を打ち立てました。この偉大なる記録はもとより、アームストロングが人々を魅了して止まないのは、ガンという大病を克服して、自転車ロードレース界の最高峰に登りつめたからではないでしょうか。
アームストロングは、2005年のツール・ド・フランス優勝を区切りに現役を引退するのですが、2008年秋に現役復帰を表明、翌年1月にオーストラリアで行われたレース「ツアー・ダウンアンダー」で現役復帰を果たします。
本書「ツール・ド・ランス」は、このカムバック前夜に始まり、いくつかのレースを経て、復帰後最大の目標だった2009年のツール・ド・フランスに挑み、ゴールするまでのアームストロングの姿を鮮明に伝えています。
本書の中で特に印象的だったのは、アームストロングと、彼の所属するプロツアーチーム「アスタナ(ASTANA Cycling Team)」で若手エースとして台頭してきたコンタドールとの対比です。アームストロングは"神"として崇められるほどの偉大な選手だけれども、ブランクと37歳という高年齢によって、かつてのような走りができない。一方、コンタドールは若さを武器に素晴らしい走りでライバルたちを圧倒するが、監督の指示を無視するといった素行や言動に関する欠点が目立ち、チームメンバーからの信頼を勝ち得ていない。アスタナの真のエースを懸けた両者の攻防、心の葛藤、彼らに対するチームメイトや観客、メディアの反応などに微細に迫っており、読み手の感情をさらに盛り上げています。
時おり謙虚に振舞うアームストロングに対し、コンタドールはとにかくチームのエース、そして「マイヨ・ジョーヌ」(ツール・ド・フランスの各ステージで個人総合成績1位の選手に与えられる黄色のリーダージャージ)にこだわります。それはなぜでしょうか。自転車ロードレースに疎い私は知らなかったのですが、実は自転車ロードレースはチームプレーが尊重されており、エース選手が勝つために、例えば、風除けになるように走るなど、他メンバーがサポートするのが通例なのです。コンタドールとしては、自分自身が最たる強者として君臨したい、そのためには自転車ロードレース界のスーパースターであるアームストロングをサポート役に従えることが、強さの証明になるという思いがあったのではないかと考えます。
本書は一見すると、アームストロングが「ヒーロー」、コンタドールが「ヒール」のように描かれていますが、たとえ孤立してもトップを目指して戦うコンタドールの姿、母国・スペインでは若き英雄として絶大な人気を誇るコンタドールの姿にもスポットライトを当てており、それが、単にストーリーを勧善懲悪に仕立て上げるのではなく、絶妙なバランスを保っています。これは、自身もアマチュアの自転車ロードレース選手として活躍する著者、ビル・ストリックランドのロードレースに対する深い愛情から来るものではないでしょうか。
なお、本書は英治出版の岩田さんからご献本いただきました。この場を借りて御礼申し上げます。
「ツール・ド・ランス」著者:ビル・ストリックランド 翻訳:安達眞弓 監修:白戸太朗
定価:1890円(税込)、体裁:352ページ、発行:2010年9月、アメリカン・ブック&シネマ、発売:英治出版