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やっぱり経済成長が幸せの源?

やっぱり経済成長が幸せの源?

マイク 丹治

セールスジャパンという、中小企業・ベンチャー企業向けの営業代行・販路開拓の会社で会長を務める傍ら、いくつかの会社の顧問に就任しており、更に政策シンクタンク・構想日本で政策提言を行っています。

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今週は、お題に挑戦しなくてはならないので、まず第一弾はエコノミストでいくつか面白い記事があったので、これを紹介することにする。

金はないがまずはリスクテイクとチャレンジ!

最初に、ロンドンの金融街の東北部に先端技術のベンチャーが集積しているという話。どうもリーマンショック後の2008年から始まったようだが、この地域既にシリコンバレーを除けば世界トップの集積度だそうである。ここで事業を展開している企業の経営者によれば、やはり賃料が安いことが大きな要因。

そしてこれに着目した英国政府は、大企業の投資や様々なサポート機能を呼び込むなど支援しているという。一番の課題が資金調達、英国のベンチャーキャピタルはこの分野への投資に弱いため、ハイテク分野に強いシリコンバレー銀行など米国の投資家を呼び込んでいるようだ。

翻ってわが国のことを考えると、新たな産業に対する投資意欲がないのは英国と同じだが、それ以前にそのような産業が集積していくという熱すらない。昔渋谷がネットビジネスの基地だった時代が懐かしい。金がないと嘆くだけではダメ、やっぱり挑戦が必要なのだろう。

昨晩とある女子大生パブで飲んでいたが、何故か大学4年生が多く、一部には就職が決まらなかったので留年するという学生もいた。一方で法学部を出て、法律事務所に事務で入る、先行き法科大学院などは全く考えないという学生もいた。あまり夢がないなと感じたのが正直な感想だ。

ドイツの奇跡?-日本にもあるじゃないか!

次はドイツの中小企業の技術力の話。日本の生産性がブームだった時代などを指摘した上で、産業分野について語る際にずっと光を浴びてこなかったドイツという世界有数の経済について語っている。

ドイツのすごさは、生活水準が高く、ユーロ高にも関わらず中国に次いで世界二位の輸出国として君臨している点だという。一つの例が鉛筆メーカーのFaber-Castell。とにかく小さなサイズの会社で、機械エンジニアリングのようなニッチ分野に特化して、30年国内のシェア拡大から世界での地位確保へと一歩一歩登ってきた。

ドイツから欧州やロシアへ、そして中国への工具輸出へと。そしてドイツ産業が世界の市場を独占する分野が沢山あるという。このモデルがいつまで競争力を維持できるか?国際競争力が途上国との間で失われる、という批判に対して、「いや、常に一歩先を着実に歩んでいる」と切り返す。しかも、ただ製造するだけでなく多くの輸出先に事務所を置き、サービスを徹底しているとのことだ。

もう一つの否定的な指摘は、新たな産業分野が育たないドイツの保守性。これは悩みの種のようだ。ただ、技術を確保しながら海外での生産・収入を増やしているという事実に鑑みると、まだ当面は大丈夫ではないか、というのが記事の結論だ。そして、まずは新しいものに飛びつくのではなく、自らの伝統的な強みに着目することが重要だと説く。

そして、毎日の研鑽を繰り返し、改善を積み上げていくことが成功の秘訣だという。何だか昔日本の生産性に関して聞いたような話だ。実際同じように世界で成功している小さな企業が日本にも沢山いることは間違いない。

日本の良さは、小さなものを作る力、そして工業製品のみならず農業なども含めて高い品質を実現すること、更には細やかな気配り、だと思う。これを着実に大事にしていき、更によりよいものに変えていけば、日本経済もまだまだ捨てたものではないはずだ。

あくせく働いた上に不幸になるのは止めよう!

最後に、幸福と経済成長の関係について。ある指標で国ごとに幸福度を測定すると、ある一定のレベル(一人当たりGDP15,000ドル)に達すると、経済成長が幸福度を高める効果がなくなるというのが、一つの立場。

これを一人当たりのGDPの増加額で判断するのではなく、その増加率に換算するために対数を用いて計算すると、経済成長と幸福度には明確な相関関係があるというのがもう一つの立場だそうだ。

更に、具体的はフィールドスタディで、長時間労働で高い収入より、労働時間が限られていてそれより低い収入を選ぶという幸福と経済の相違が披歴されている。しかしその一方で、それでも出来る限り収入が高い仕事を選ぶという、人間の幸福感覚の複雑さが皮肉っぽく紹介されている。

確かに豊かな生活のほうが良い。でも少しは余裕が欲しい。着実に経済力を失いつつある日本の産業が、相変わらずこれまでのやり方で価格競争を続ければ、経済は縮小するのに働いている人たちは幸福ではない、というlose-loseの状況を生みだすのではないか?幸福の定義は難しいが、もう一度考え直す必要があると思う。