誠ブログは2015年4月6日に「オルタナティブ・ブログ」になりました。
各ブロガーの新規エントリーは「オルタナティブ・ブログ」でご覧ください。

中小企業こそ見習おう!道徳経済合一経営

»2013年4月10日
商いの道

中小企業こそ見習おう!道徳経済合一経営

濱川智@おもてなし感動研究所長

ブランドと顧客の絆づくりを専門としたコンサルタント。売り手良し・買い手良し・世間良しの「三方良し」を実現すべく、ビジネスにおける幸せな関係を研究する。株式会社OMOTENASHI チーフおもてなしオフィサー おもてなし感動研究所所長

当ブログ「商いの道」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/omotenashi/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


日本の発展を支えた経世済民の精神

日本資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一氏は「経世済民」という言葉を好んで使ったそうです。

「経済」という私たちが良く使う用語の元になる「経世済民」という言葉は、中国の古典に登場する言葉で

「世を經(おさ)め、民を濟(すく)う」の意。
略して「經濟」(経済)ともいうが、主として英語の「economy」の訳語として使われている今日の用法とは異なり、本来はより広く政治・統治・行政全般を指示する語であった。(Wikipediaより抜粋)

渋沢栄一氏の理念は著書「論語と算盤」の中で打ち出された「道徳経済合一説」という「道徳的な商いによって世を正し、民を救う」というもので、経世済民もその理念をよく表しています。その渋沢の代表的な功績に日本初の銀行、国立銀行の立ち上げがあります。

経営幹部が莫大な報酬を得る海外の投資銀行などのイメージもあり、最近では「銀行」というと「ハゲタカ」「拝金主義」というレッテルを貼られることが少なくありませんが、日本初の国立銀行は「利を得る」ことが目的ではなく、民を救い社会をより良くするために前途が有望な事業や人材に投資することを目的に設立されました。そうです。日本の銀行は本来「より良い世の中をつくり民を救う」ためのものだったのです。

渋沢は、国立銀行だけでなく、株式会社という当時の日本にはなじみの無かった制度も積極的に導入し、一説には500社近い企業の設立に関わり近代日本の発展に多大な貢献をしたと言われています。
江戸時代以降の近代日本が、政治・経済共に遙か彼方を先行していた欧米列強に肩を並べるほど著しい成長を遂げた背景には、日本が誇る「商道徳」の精神があったのです。

中小企業にこそビジョナリーな道徳経営を

「商道徳」と言うと老舗企業ならではのもの、もしくはCSR(企業の社会的責任)の一環として大企業がやること、などと考えてしまいがちですが、むしろ、従業員の意思を団結しやすい中小企業こそ「道徳経済合一」のような理念重視の経営を導入しやすいと思われます。

今回は、まさに「道徳経済合一経営」を実践しているビジョナリーな中小企業を紹介します。

中央タクシー.jpg

長野県にある従業員200名程度の、地場のタクシー企業である「中央タクシー」は、その理念的な経営によって地域の顧客から熱烈な支持を受けています。

中央タクシーの経営理念は

お客様が先、利益は後というもの。基本理念のほかに、憲章や行動指針などが定められ公表されており、世界最高峰のサービスを提供するザ・リッツカールトン・ホテルのクレド経営に近い経営手法です。従業員が同じ信条・価値観・そして行動規範を有することは従業員満足度の向上、そして離職率の低下というプラス効果が期待できます。
さらに言うと、従業員満足と顧客満足には非常に強い相関関係があるため、顧客重視の経営を目指すためには、理念の明示、行動指針などの浸透は経営において有効な施策になると考えられます。

中央タクシーには非常に経営の参考になるエピソードがあります。
おもてなし感動研究所の記事から抜粋してご紹介しますと

中央タクシーの顧客第一主義を象徴するエピソードがあります。
1998年の長野オリンピックの時です。世界各国のマスコミをはじめ、大会関係者が、開催期間中の交通手段としてタクシーを会社ごと借り上げました。中央タクシーも例にもれず、大会関係者の専用車両として走る予定でした。
しかし疑問が生まれます。
「自分たちが、オリンピックの専用車両になってしまったら、普段使ってくださっているお客さまはどうするのだろう。病院に行くために利用してくださっている、高齢者の方々はどうなるのだろう」
そこで中央タクシーが取った選択は、日々のお客さまを優先すること。大会関係者にはお詫びをし、日常生活を営む市民の足として走ることを選んだのです。
その結果、大会期間中こそ他のタクシー会社に業績は抜かれましたが、日常生活が戻ってからは中央タクシーがトップに。大会期間中、日常生活を優先した中央タクシーに、お客さまがついたのです。

オリンピックという行事による短期的な増収よりも、地域住民にとって信用できる移動インフラであり続けることを優先する。
実際にこの二択に直面したときに後者を選択するのは勇気が必要ですが、その後の事業推移を見ると、中央タクシーの選択は正しかったのです。

競争が激化し業界自体が伸び悩むタクシー業界で着実な成長を続ける中央タクシーの「強い経営」は、「伸びない市場・飽和産業」で成長するためのロールモデルとして示唆に富んでいると思います。

実際に中央タクシーは収益力という面でも、長野県の中小企業でありながら、国内大手タクシー会社と遜色ない経営力を有しているようです。

graph.gif
企業Webページに掲載されている売上高と従業員数から、一人あたりの収益額を簡単に算出してみたところ、中央タクシーは国内大手企業に遜色ない、むしろやや良好な収益力を有していることがわかります。
あくまで公開情報だけで算出した参考値にすぎませんが、道徳や理念を重視する経営が利益を逸するものではない、ということは間違いないと思われます。

中央タクシーの収益力の源泉を探ってみると、そこには「固定客・ファン」の存在があるようです。
中央タクシーは駅前ロータリーなどでの客待ちなどはほとんど行わず、顧客からの電話予約で9割の稼働を確保しています。
そのことによって待機時間(非稼働時間)が少なくなる、予約中心なので配車計画が立てやすくなる、ということにつながり、結果的に収益に貢献していると考えられます。

タクシー業の本質は移動ですから、本来であれば差別化しにくい(どの会社のタクシーでも同じように移動できる)業界ですが、「道徳経営合一」という商いの道を実践することで「熱烈に愛されるブランド」になった。「お客様が先、利益は後」この商いの哲学こそが、中央タクシーの強い経営を牽引しているのです。

ぜひ、強い商いを実践する上で参考にしてみてください