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ソフトバンクの株価が急反発した理由 -株式市場は案外いいかげんで、案外正しい-
シェアーズカフェの「お金の話」
ソフトバンクの株価が急反発した理由 -株式市場は案外いいかげんで、案外正しい-
普段は新婚カップルやファミリー世帯向けのファイナンシャルプランナー(FP)として活動しています。日経マネー、言論プラットフォーム・アゴラ、ブロゴス、ヤフーニュース、ビジネスジャーナル等でも執筆中。
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10月16日、ソフトバンクの株価が急落から一転して急反発した。
8月から9月にかけて3200円前後で推移していたソフトバンクの株価は、10月1日にイーアクセス買収を発表すると下落に転じ、10月11日には2800円を割る水準まで落ち込んだ。
さらに11日夜にはアメリカの携帯電話会社・スプリントネクステルの買収が報じられると翌日には急落し、前日から15%、400円以上も値下がりして2395円まで下落した。週明けの15日にはさらに値を下げ、最安値では2200円と、わずか半月で1兆円も時価総額が吹き飛んだ。
しかし、15日夜には買収が正式に発表され、その後はテレビ朝日系列の報道ステーションと、テレビ東京のワールドビジネスサテライトに立て続けに孫社長が自ら出演し、買収に関して自信を見せた。
今回の買収でソフトバンクの売り上げはNTTドコモやKDDIを一気に抜き去り、AT&Tも超えて世界第3位になるという。これを受けて「ソフトバンクが2位か3位なのかという話は国内の話ではなく、世界での話になった」と記者会見で熱っぽく語る孫社長の姿が報道された。
報道ステーションでは「過去のボーダフォン買収の方がよっぽど無茶な買収だった。当時は営業利益の5.6倍の借金をしたが、今回は営業利益の2.7倍、つまり半分しか借金をしていない。借入金利も当時は4%だが今回は1%台で、銀行もハイリスクだと考えていない」と資金調達に問題が無い事を数字も交えながら細かく説明する、
また、過去に日本テレコムやウィルコム、ボーダフォンと赤字(寸前)の通信会社を建て直した経験もあり、そのノウハウを活用できるという。その他に基地局の設備や端末を仕入れる際の規模のメリットなども語り、終始にこやかで自信のある様子を全く崩さなかった。「通信事業の買収や巨額の買収は既に経験しているので、当時は怖かったが今回は怖くは無い。円高でタイミングも良い。手堅い経営の方がかえって危ない。リスクはとるべきだ」とも語った。
そして極めつけとして「ボーダフォンを買収したときにも株価は急落したが、そのときに買った人は大儲けしている。今株価が下がったところは『買い』だと言えるかもしれない」と説明した。ここまで踏み込んだ発言をしても平気なのか、心配になるほど株価に対して楽観的な見通しを語った。これを見て、多少でも相場観のある人なら「ああ、ソフトバンク株は明日反転するだろうな」と思ったに違いない。
過去の値動きを見ると、2006年3月、ボーダフォン買収発表時に3500円程度だったソフトバンクの株価は発表後に大きく下げ、ボーダフォンからソフトバンクモバイルにブランド名を衣替えした2006年10月頃には2000円まで下落していた。多少長い目で見ればその後3000円を何度かは超えて、確かにしっかり株価は戻しているものの、最悪期の2008年10月には636円まで値下がりしている。
そして孫社長のテレビ出演翌日の16日、ソフトバンクの株価は朝の寄り付きで一気に100円以上上昇し、終値では2485円と前日比で10%近く上昇した。
テレビで一生懸命しゃべるだけで株価が10%も上がるのは、孫社長が凄いのか、株式市場がいいかげんなのか、一体どっちなのだろうか。これは両方とも間違ってはいないだろう。一代でソフトバンクグループを築きあげた創業社長の迫力・胆力は並大抵のものではない事を孫社長は改めて示した。そして株式市場はそれに対して綺麗に反応した。
孫社長がテレビで語った事は、過去のデータを見直せばいずれも簡単に分かる事で新しい情報ではない。唯一新しい情報として、15日の夜に行われた記者会見では大手銀行が買収資金の融資に応じること、今回はイーアクセスのように新株を発行しての買収は行わない事などを発表した。しかし過去の報道を確認すると、先週12日の時点で大手行が融資の検討に入っている事はロイター通信の記事で報じられており、それが全く織り込まれていなかったとも考えにくい。
では皆が報道ステーションやワールドビジネスサテライトを見てソフトバンク株を買ったのだろうか。以前から「消費税が上がると、不動産価格はどこまで下がるのか。」という記事をはじめとして、「明日起こるとわかっていることは今日起こる」「公表された情報で株価は動かない」と、市場が効率的であることを前提にした記事をシェアーズカフェのブログでは繰り返し書いてきた。
もちろんテレビを見て慌てて買いに走るような勘違いした行動をとる人も多少はいるだろうが、実際には「報道を見て買う人が沢山居るに違いない」と思った人(やファンドマネージャー)が買った、という方が正確な表現だろう。つまり、自分自身が報道を見てソフトバンクの買収が成功する!と思って買ったのではなく、周りの人が買うと思ったから買った、という事だ。
「株式市場は投資家同士の腹の探りあいである」という事を、かの有名な経済学者ケインズも美人投票という言葉で表現している。美人投票で一位を当てるには、自分が美人だと思う人ではなく、周りの人が美人だと思う人に投票しなければいけない。しかし、そう考えているのは全ての参加者が同じわけで、互いの腹の探り合いが株式市場の値動きに反映される、という事になる。
その一方で企業の株価は利益が増えれば上昇し、赤字になれば下落するという、業績との連動性も当然の事ながら見て取れる。投資家の思惑が反映される一方で企業の業績も反映される。この違い・矛盾はどう説明されるのか。投資の神様バフェットはこれを「株式市場は短期的には美人投票・人気投票の場所だが、長期的には企業価値をはかる場所だ」と表現している。
株式市場では、とても合理的な説明がつかないほど価格が上がってしまうバブルが時折発生する。常に市場の価格が正しいと考えるにはどう贔屓目に見ても無理がある。その一方でバブルのような無茶な価格はいつか必ず崩壊する事はチューリップバブルの時代から歴史が証明している。バフェットの説明はこのような市場の特性を見事に言い表しているといって間違いないだろう。
また、バフェットは株式市場を「ミスターマーケット」と擬人化して、「ミスターマーケットはある時には大はしゃぎでトンでもない高値で株を売り込みに来るが、ある時には極端に将来を悲観してトンでもない安値で株を売り込みにも来る」と示唆に富んだ例え話で市場の特性を説明する。そして幸か不幸か、ミスターマーケットは放って置いても毎日売り込みに来るので(市場は休日を除いて毎日開いているので)、相手にするのは安値で売りに来たときだけで良いとも投資家にアドバイスをする。
短期的な株価を予想しようとすると「あいつはA社の株価が上がると思って買うに違いない、だから俺もA社株を買おう......と、俺が思った事をあいつも思って買うに違いない......と、あいつが考えた事を俺も想定して買うべきか......」と、まるで野田秀樹の演劇のようなバカな状態になってしまう。
では17日のソフトバンクの株価はどうなるか。
株価の短期的な値動きはランダムウォークといって、前日に上がったから今日も上がる、あるいは前日に上がったから今日は下がる、といった具合に前後の脈絡から予想は出来ない。昨日上がったから今日も上がるとは思わない方が良い事は間違いない(実際にはPTS・私設取引所で夜間取引もなされているので、市場が閉まった後も株価は動いている。これを執筆している17日早朝の時点で確認していないので、株価がどうなっているかは分からない)。
短期の値動きで利ざやを狙う事は、先ほど書いたような無限に腹の探り合いをやるような不毛な行為であり、ギャンブルと同じだ(ギャンブルが好きならば止めはしないが、投資をしたい人はもう少し思慮深く行動する事をお勧めする)。
一方で株価は長期でみれば明らかにトレンドを見て取れる。これは個別企業の業績や国の景気が反映されている部分だ。だから長期で投資をやれば儲かるとか長期ならば予想しやすいなどという話でもない。
市場平均に打ち勝つのは生易しくは無い事、そしてそれを理解したうえでなお市場平均を上回る方法は無いか考える事が個別株投資のスタート地点である事は「インデックス運用とアクティブ運用は対立するのか?」で説明したとおりだ。
ソフトバンク株を昨日から持ち越した人は朝から気が気ではないかもしれないが、この会社はそもそもがそういう性質のものだと考えて付き合っていくしかないのだろう。
中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
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