誠ブログは2015年4月6日に「オルタナティブ・ブログ」になりました。
各ブロガーの新規エントリーは「オルタナティブ・ブログ」でご覧ください。

災害より老後を怖がる日本人 ~20代と60代の利害は一致する~

災害より老後を怖がる日本人 ~20代と60代の利害は一致する~

中嶋 よしふみ

普段は新婚カップルやファミリー世帯向けのファイナンシャルプランナー(FP)として活動しています。日経マネー、言論プラットフォーム・アゴラ、ブロゴス、ヤフーニュース、ビジネスジャーナル等でも執筆中。

当ブログ「シェアーズカフェの「お金の話」」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/sharescafe/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


5002


前回書いた「年金がいつから・いくらもらえるのか、ハッキリさせた政党は政権を取れる」には多数のアクセスを頂いた。「年金を減らして今と将来の高齢者を平等に扱うべきだ」という意見には、ウェブやツイッターで自分が確認した限りだが、意外なことに批判は1つも無かった。メールで相談やサポートをしているお客様からも「年金に対する不安で消費を抑えるなんてのはまさにウチの話だ」という賛同の声をいくつも頂いた。
 
●年金のリスクが景気を悪化させる。
年金の受給額を減らすべきという意見に反発が無いと明らかになった事は、ある意味で朗報ではないだろうか。かつて消費税増税に触れると選挙に負けると言われた状況が大きく変わったように、年金の削減が年金制度を維持するために当然の話として語られる日も遠くは無い。

前回も書いたように、まともな感覚を持った人はリスクがあればそれを織り込んで控えめな行動をとる。つまり、将来それなりに年金が貰えれば結果オーライというのは間違いという事だ。年金を貰えないかもしれないという懸念・リスクは景気の悪化に拍車をかけ、年金財政に更なる悪化をもたらす。

リスクを減らせば将来が安定する、結果としてライフプランが立てやすくなる、だからリスクは低い方が良い、と自分は普段からアドバイスをしている。年金がいつから・いくらもらえるのか明確になれば、人生のリスクは大幅に減り、消費を促す効果が期待できる。たとえそれが年金の受給額が大幅に減る、受給開始年齢が上がる、という悪いニュースであっても、どれ位酷くなるのか早いうちに分かればまだ備えようもある。つまり老後のリスクが減るメリットは相当に大きい。

●震災からわずか一年で老後の不安が災害の不安を上回った異常事態について。
2012年10月31日、金融広報中央委員会は2012年の「家計の金融行動に関する世論調査」を発表した。これは全国2500世帯、20代から70代まで幅広く行われた調査で、そこでは独身世帯が金融資産を保有する目的としてずっと1位を守ってきた「病気や災害への備え」と入れ替わって、「老後の生活資金」が首位に立った。これは現在の調査方法になった2007年以来、初めての事だ。調査は今年の6月から7月にかけて行われており、東日本大震災から1年程度しか経っていない状況でこの逆転は特筆に値する。

病気や災害は発生するかどうか分からないが、老後は確実に来る。リスクは頻度と影響度の両面で考慮すべきだが、多くの人は病気や災害のリスクよりも老後のリスクを大きく見積もっている。これが正しいのかどうかは別にして、このような老後の不安が消費行動に悪影響を与える事はいうまでも無い。

●シルバーデモクラシーという誤解。
シルバーデモクラシーという言葉がある。これは高齢者の声が政策に反映されやすい状況をさすが、年金財政がこれだけ悪化していても受給額を減らす事が出来ない大きな理由の1つとされている。これは政治家も高齢者もワカモノも、皆勘違いしている。

統計局の2012年の人口データで確認すると、20歳以上の有権者に占める20代~40代の割合は46.6%と、半数に近い。つまり、数で負けているわけでは無いということだ。

前回の記事で書いたように、学習院大学の鈴木亘教授の試算によれば2030年には厚生年金の積立金は枯渇するという。ワカモノというくくりで見れば40代までが限度だろうが、18年後に年金が壊滅的な状況になると考えれば、影響を受ける世代として50代も含まれる。このように考えて利害が共通する20代~50代の割合を計算すると、62.3%と大きく跳ね上がる。

さらに思考を進めて、本当に2030年に積立金が枯渇するとなった場合、現実的に考えて今の制度が2030年まで放置される事は考えにくい。すると18年後の2030年ではなく、あと5年から10年もすれば抜本的な制度改正をせざるを得なくなり、現在60代ですでに年金を貰っている世代であっても確実に影響を受ける。つまり、20代も60代も「今の制度のままでは年金をまともに貰えなくなる」という部分では利害が一致する。20代~60代の有権者に占める割合は83%だ。

●シルバーデモクラシーを実現させているのはワカモノだ。
このように数字で確認すれば、少なくとも年金に関してシルバーデモクラシーが発生するのは明らかにおかしい。それにもかかわらず、シルバーデモクラシーが実現してしまっているのは、いくつかの誤解があるからだ。

ワカモノは選挙に行っても意味が無い、年金なんて貰えるわけが無いと思っている。
高齢者は死ぬまで今の年金が貰える、つまり「逃げ切り」が可能だと思っている。
政治家は高齢者に有利な政策を進めた方が選挙に勝てると勘違いをしている。

選挙は投票率が下がるほど組織票がモノを言う。単純な話だが選挙に興味の無いワカモノはこれを知らない。高齢者は投票率が高いので、ある意味で組織票に近いものがある。そして当然の事だが選挙に行く事はなんら悪い事ではないし、自分が支持する政策を実現する人・政党に投票するのも当然だ。それに呼応してリピート率・利用頻度の高い「顧客」向けの政策を打ち出すのも政治家としては当たり前だ。

つまり、上記のデータを見れば「結果的に」シルバーデモクラシーを実現しているのは、高齢者ではなく選挙に行かないワカモノという事になる。シルバーデモクラシーが発生する理由が人口比によるものであれば、ワカモノに責任は無い。しかし投票率によって発生しているのであれば、保険料や税金の負担が増えようと、将来年金が貰えなくなろうと、これはもう自己責任としか言えない。もっと言えば自業自得だ。

将来年金なんて貰えるわけが無い、上の世代は酷い、という言い訳はもう通用しない。ワカモノがやるべき事は選挙に行く事と、今のままでは逃げ切りが出来ないと高齢者の世代に理解させる事だ。

橋下徹氏が出馬した大阪市長選挙では、40年ぶりに投票率が60%を超え、民主・自民・共産が推薦した候補を大差で打ち破った。民主党が政権を取った時には1996年の選挙制度の変更以来、投票率は過去最高を記録した。投票率が上がると良くも悪くも世の中が変わる理由は、シルバーデモクラシーは投票率が低い時にしか生まれない本来「特殊な現象」だからだ(少なくとも今の日本の年齢構成であれば)。
 
●年金の不安と子持ち女性の雇用、これが問題の根源だ。
年金の不安と子持ち女性の雇用、この二つが消費行動に決定的な悪影響を与えている事は普段から新婚カップルやファミリー世帯の相談にのっていて、常に感じる事だ。年金の不安は消費マインドに影響し、子持ち女性の雇用が不安定な事は直接的な収入減少につながる。消費マインドと収入の両面に問題があれば景気が良くなるはずも無い。逆に言えば問題の箇所は分かっているのだから、国内の景気はこの二つの問題を解決するだけで劇的に変わる事は間違いない。

子持ち女性の雇用については改めて書こうと思うが、年金・財政については以下の記事を参考にされたい。
●年金がいつから・いくらもらえるのか、ハッキリさせた政党は政権を取れる。
●2012年、バブル真っ只中の日本
●お金は保険会社に預けるな その1
●お金は保険会社に預けるな その2
●日本の不景気は女性差別が原因だ その1 その2 その3 その4 その5

今回の選挙ではTPP・原発・消費税が争点となったが、社会保障をどうするかという話の方がどう考えても重要度は高い。新政権で社会保障がどうなるか、注目したい。

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
●シェアーズカフェのブログ
●ツイッターアカウント @valuefp  フェイスブックはこちら ブログの更新情報はSNSで告知しています。
 
追記