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「あなたにピッタリ」という幻想

»2011年4月22日
生保のトリセツ

「あなたにピッタリ」という幻想

しごとにん

10年余り生命保険業に所属し、一社専属の大手国内生保から乗合い代理店、保険ショップ運営を経験。現在は業界から距離を置き、俯瞰できる立場で個別相談や執筆活動を行っております。

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この春入社した新入社員と思われる若人が「無料で占いをしますので生年月日を教えて下さい」とある日の昼休みに大手国内生保のお姉さまに呼びかけられました。
おとといにイチゴミルクをもらってしまったので、無下に断るわけにもいかず、偽りなく生年月日を書いて占ってもらいました。
「将来をきちんと考えなきゃいけない、と出ましたよ。あなたにピッタリのプランを来週持ってきますね!」

独身なのか既婚なのか、住居は、健康状態は・・・そんなことはおかまいなしで「あなたにピッタリ」のプランは年齢と性別がわかればできてしまうのです。

これは極端な例ですが、よくある話です。

この「あなたにピッタリ」の「ピッタリ」は、飽くまでこの大手国内生保の推進商品の中での「ピッタリ」であり、生年月日と性別だけで試算したのもです。
「保険料が高いなぁ」と言われたら特約を削って修正するだけです。

生命保険で「ピッタリ」というのは選択肢が狭いということです。
生保リテラシーが上がるほど「あなたにピッタリ」が幻想だとわかってきます。
わかりやすい例を挙げてみます。

非喫煙の被保険者→非喫煙割引なしの保険会社だと一部保険料割高
喫煙の被保険者→非喫煙割引ありの保険会社だと一部保険料割高
(損保、外資、カタカナ系の定期保険での比較で喫煙者の保険料は非喫煙割引なしの保険会社が割安)
血圧降下剤服用している被保険者→多くの保険会社で謝絶(2年間引受不可)または保険料割増
(他に健康状態に問題がなければ通常の保険料で加入できる保険会社あり)

一社専属の営業担当者は、他社を知るほど「あなたにピッタリ」などと言えなくなります
煙草を吸うのか吸わないのか、血圧降下剤を服用しているのかなんて全くわからない不特定多数に対して、「あなたにピッタリ」などと訴求するのは無理があると気付いてしまうのです。

それだけではありません。

数十社の保険会社を駆使して保険プランを組み立てる際、各社各種商品ベスト3のものに絞り込んで検討したとしても、適切と思われる保障内容・期間に「ピッタリ」合せるのは簡単ではありませんし、必要と思われる保障内容と実際問題の保険料の負担のバランスについては最後落としどころが必要となります。
つまりどうしても多少の妥協が発生するケースが多くなります。

シンプルに考えてみると、保険なんてものは将来いつどうなるかわからないことについて備えるわけで「ピッタリ」など結果からみればあり得ないものです。

保険加入という入口では「将来この期間にこうなったら困る」ところを理論的に予想して担保するわけですが、100%備えようとすると大きなコストがかかります。
そこでなるべく低いコストで備えるとともに、「この部分は他で備えよう」「ここまで保障がなくてもいいな」と削るところは削り、工夫して吟味して担当者とも家族とも議論して、最終的なプランが出来上がります。

つまり将来の形のはっきりしないリスクの備えるのに、多数の保険会社からの選択でも「納得」はあっても「ピッタリ」はなく、更に限定された保険会社しか扱えない状況で「ピッタリ」と発信するのは不適切です。

ここまでの話から「それじゃ数十社を扱う乗合代理店や保険ショップで加入すれば大丈夫なのね」と思われる方が多いと思います。

数十社扱う乗合代理店や保険ショップでの相談からの保険加入は必要条件ではありますが、充分条件が満たせるとは限りません。
満たせるケースは少なくないと思いますが、満たせない可能性が生じる構造が歴然とありますので、油断はできません。

話が長くなってしまいました。
以下次号です。