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「転換」は極めて不利な下取り

»2011年4月28日
生保のトリセツ

「転換」は極めて不利な下取り

しごとにん

10年余り生命保険業に所属し、一社専属の大手国内生保から乗合い代理店、保険ショップ運営を経験。現在は業界から距離を置き、俯瞰できる立場で個別相談や執筆活動を行っております。

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生命保険の問題点として大手国内生保の「転換制度」がしばしば挙げられます。
用語の説明としては「保険の下取り」のようなもので、古い保険契約の解約
返戻金(解約した場合に戻ってくるお金)を原資にして新しい保険に加入する
こと、となります。

悪くない感じですよね。
一般論として古くて陳腐化してしまったものや、不要となったもの、または
価値はあるかもしれないけれど飽きてしまったものなどを下取りに出して、
新しいものを購入するわけですから。

エレキギターに例えると、エリック・クラプトンが使っているタイプと同じ
フェンダー社の1957年のストラト・キャスター(黒)を下取りに出して、
ジミー・ペイジが使っているタイプと同じギブソン社の1958年のレス・
ポール(トラ目)を購入することです。

このとき、楽器屋のお兄さんが「同じギブソンを下取りに出してくれなけれ
ばレス・ポールは売れません」などと無粋なことは言いません。
50年以上前の稀少品で、おまけに有名ミュージシャンが使っているタイプと
同じであれば、値は張りますが買い手は見つかります。

生命保険の「下取り(転換)」は、いろいろと縛りがあります。
まずは同じ保険会社でなければダメです。
また保険料は、現在支払っている金額から下がることは基本的にありません。

それでも既契約になかった「介護特約」やら「保険料免除特約」など付加され
良さ気な内容にグレードアップし、さらに保険料が「下取り(転換)」しない
場合より安くなるのでハンコを押してしまいます。

"保険料が「下取り(転換)」しない場合より安くなる"というのは、同じ
条件(性別、年齢)で同じプランに加入する際、まったくの新規で加入する
より下取りの原資を保険料の頭金に充当するので、毎月の保険料がその分割り
引かれます。

しかし、ここが私たちにとって問題なのです。

言いかえると、ここが保険会社の最終目的です。

「下取りの原資を保険料の頭金に充当するので、毎月の保険料がその分割り引
かれる」と聞いて、保険会社があくどいことをしていると感じる方は、まず
いないでしょう。
下取りを行って購入する商品が魅力的に感じてしまえば、保険会社に恩義さえ
感じてしまうかもしれません。

このブログの「生保のトリセツ ~ファンタスティック編1~3」で詳しく
述べていますが、まず「予定利率」の問題があります。

「予定利率」とは簡単に言ってしまえば保険料の割引率と考えていいのですが、
それが10年ほど前から概ね1.5~1.75%です。
その前はバブル全盛のころは5.5%でそこから段階的に下がって現在にいた
るわけですが、その今より高い予定利率のものを現在の低いものに「転換」を
使って切り替えているのです。
そのまま継続すれば5.5%の利回りの定期預金を1.5%に切り替えるのと
ほぼ同じと考えてみて下さい。

つまり、「転換」せずに放っておくか、「ファンタスティック編3」で紹介
した「払い済み」を活用すれば加入当時の高い予定利率が継続されますが
「転換」して新たな保険の保険料に充当されるということは、現在の史上最低の予定利率のものに充当されてしまうことになるのです。

さらに言えば、「転換」してまで手に入れた商品が他社に比べて魅力的では
ないことです。
同じような内容でも保険料は他社より割高ですし、介護の特約など一見よさそ
うですが、10年更新のため当初付加しても更新時に大幅に保険料がアップす
るため事実上高齢になったときには付加できなくなります。
死亡保障があっての特約ですので、死亡保障を大幅に削って特約をそのまま
維持することはほぼ不可能です。

大手国内生保では約款やパンフレットに記述がない「社内規定」がたくさん
あります。
「死亡保障○○万円に対して介護特約は○○万円まで、入院保障は
日額○円まで」などです。

更新時に保険料がアップするため、死亡保障を削れば、特約も削らなければ
ならないことになり、最後は消滅するような構造になっています。

最近は抑えているようですが、「石川遼のような保険」などとイメージ先行
で訴求して、保険会社にとって「逆ザヤ」の元である既契約者の高い予定利率
を改修するのが「転換」という名の下取りです。

エリック・クラプトンのギターを下取りに出してジミー・ペイジのギターを
買うのと全く違うことをご理解下さい。