誠ブログは2015年4月6日に「オルタナティブ・ブログ」になりました。
各ブロガーの新規エントリーは「オルタナティブ・ブログ」でご覧ください。
当ブログ「生保のトリセツ」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/shigotonin/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
手数料を利益の一部と考えた場合、原価を確定しなければならず、生命保険においてそれはかなり難しいと前回お話ししました。
数年前にライフネット生命の出口社長が「生命保険の原価」らしきものを公表し、大手生保はどれだけ不当に利益を貪っているのかを訴え、自社はそれを反面教師にして廉価で生命保険を提供する、と喧伝していました。
その影響もあってか「生命保険の手数料は開示すべきと」という声が大きくなっていると推測されます。
生命保険の原価について考えるために、利益についておさらいします。
生命保険の利益は以下の3つから成り立っています。
1、死差益(想定された死亡率が下がると利益が出る)
2、利差益(運用が想定以上に上手くいくと利益が出る)
3、費差益(経費節減できると利益が出る)
「1、死差益」は日本人の死亡率を元にしておりますので保険会社ごとに変わることがなくほぼ共通ですが、「2、利差益」は運用の巧拙、「3、費差益」は人件費やその他の会社運営の経費により変わりますので、各社かなり差が出てきます。
「生命保険の原価」としては、「1、死差益」が発生するための経費、つまり支払う生命保険金の割合はほぼ各社共通として考え、「2、利差益」についても低い運用で各社横並びとすれば、保険料の違いは「3、費差益」の部分が各社大きく違うとなるわけです。
費差益に大きく影響する経費の多くを占めるのは人件費と思われますが、ライフネット生命の主張としては「ネットで販売するので営業マンの人件費がかからず安い保険料で提供できる」というものでした。
確かに不当に高いと思われる大手国内生保よりは、ライフネット生命の保険料は明らかに安いですが、その他(外資、カタカナ、損保系)の比較ではごく一部を除いては高くなっています。
非喫煙の50歳男性の場合、いちばん手間暇かけるといわれるソニーのライフプランナーから加入する方が、人件費をかけていないライフネット生命よりかなり安い保険料で同じ保険金額の定期保険に加入できます。
(おまけに非喫煙を検査する経費と手間もかけた上でです)
かなりライフネット生命はかっこう悪い状態ですが、それはさておき、「生命保険の原価を公開した」と当時話題となりました。
ひとつの考え方としてはありだと思いますが、実はそんなに単純なものではないようです。
正確な「生命保険の原価」はアクチュアリー(保険数理人:将来のリスクや不確実性の分析など面倒くさい計算をしてくれる人)の世界で、「配当も原価に含まれる」などと言われて私の理解の範囲を超えてしまいました。
私の拙い脳みそでおぼろげながら理解できたのは、単純に共通の死亡率からはじき出された数字から算出された「生命保険の原価」は、かなりアバウトなものであるのではないか、ということです。
小売業で考えた場合、仕入れたものがそのまま期間中に想定した金額で売れるか、ロス(万引きや破損、廃棄)がなくきちんと在庫として残ることしか考えていないのと同じではないかと思います。
出口社長としては、「原価(死亡率をもとにした死亡保険金を支払う想定額)」が同じであれば、古巣のニッセイのように膨大な人件費や広告宣伝費をかけなければ、大幅に保険料を安くすることができビジネスモデルとして成り立つ、と考えて起業したものと思われます。
先に述べたように、現状「かっこう悪い状態」になっていますが、少なくとも「大手国内生保の保険料は不当に高すぎる」ことを多くのひとに意識づけた効果はあったようです。
その流れの中で「生命保険の手数料を公開すべき」と叫ぶ評論家の方が登場しています。
"この保険については、はじめの1年間は毎月の保険料は1万円ですので、そのうち3千円を手数料としていただきますが、翌年から7年間は毎月500円をいただくことになります。また、万一1年以内にお客様が解約されてしまった場合には、それまでもらった手数料の80%を保険会社に返すことになり、2年以内に解約された場合は同じくもらった分の50%を返すことになります"なんてお客様にいちいち説明しろ、ってことなのですが、聞かされる方もうんざりしますよね。
そもそもお客様には関係ない話しですし、高すぎると思えばやめるか他を当たればいいだけですし、納得がいけば加入を考えればいいだけです。
「手数料を開示していなものは不当に高いに決まっているから、そんなものを購入すれば損するに決まっている」と言い張っている方々はただ単に無知で頑迷なのか、何か意図することがあるのかもしれません。
(手数料公開を叫ぶ評論家さんは、妙にライフネット生命を持ち上げていたりします)