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「カウンセラーって人生経験が必要なんじゃないですか?」

「カウンセラーって人生経験が必要なんじゃないですか?」

大森 洋明

REBT心理士。うつ状態から回復した経験を経て、SEからカウンセラーへの転身を図りつつ、カウンセリングを世の中に浸透させようと奮闘中。座右の銘は、菅沼憲治先生に頂いた「生死一期」という言葉。

当ブログ「あなたが持つカウンセリングのイメージは間違っている!! …可能性が高いですよ」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/t2k/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


 表題のような考え方を持つ人は、そこそこ多いようです。
 基本的な部分で単純だからこそ、根が深いとも言えるかもしれません。

 ただ、「人生経験の何が必要なのか?」「何を以って人生経験とのたまうのか?」が漠然としていて分かりにくいので、ここではとりあえず「人生経験≒同じ出来事の経験」のことだと仮定して話を進めていこうと思います。

 たとえば、

  • 苦しい自分の心情を話す相手に伝えたいと思う時、相手が同じ出来事を経験をしていなければ、自分の話を正しく理解してもらえないのではないか
  • 直接解決に至るアドバイスをして他人の厄介事を解決するのであれば、その裏付けとなる人生上の経験が不可欠で、それが無いのであれば説得力に欠けるのではないか

 ・・・など。

 はたして、これらの推測は正しいのでしょうか?

 まずは前者「苦しい自分の心情を話す相手に伝えたいと思う時、相手が同じ出来事を経験をしていなければ、自分の話を正しく理解してもらえないのではないか」について検証してみます。

 分かり易く、同じ出来事を経験をしているものの、カウンセリングのスキルが無い人に話を聞いてもらった場合を考えてみましょう。

 もしあなたが話をすれば、同じ出来事を経験した人は「凄くわかる!」と、同意してくれるかもしれません。
 あなたは、自分の気持ちを分かってくれる人に会えたと思うでしょう。
 しかし、本当にあなたの気持ちを分かってくれたのでしょうか?

 以前にも記事にした「聴く技術」を使わないで話を聞いた場合の多くは、自分の中の経験と照らし合わせて物事を考えがちです。 同じ出来事を経験したとは言っても個人差があり、視点の違いによっても全く異なる見解を持っているかもしれません。
 通常、話を聞いた人は、あなたの話に最も近いと思える経験を引き合いに出して、自分が理解できるように納得するのです。

 話を聞いた人は恐らく、自分の体験を通して「わかる!」と、あなたに同調しているのだといえます。 その行為を本当に理解と呼べるかといえば、それは難しいのではないでしょうか?
 つまり、話す相手が同じ出来事を経験をしているからといって、確実に理解してもらえるとは言えないのです。
(※私も普段はそんな感じです)

 もちろん、実際に体験しないと想像しづらいことというものも沢山あるでしょう。
 うつ病の苦しみなどは、実際に体験してみると、それまでに全く想像出来ないようなものでした。
(※うつの症状でよく会社を休んでいた時期に、話の引き合いに風邪を出されたことがありましたが、風邪で38度とかなら重要な仕事があれば私は普通に会社に行ってました)

 しかし、やはり同じ出来事の経験は話を聞くのに必須なものではなく、それよりは話を聴くときにいかに相手の視点に立てるか、自分の想像を超えて相手の話を理解できるかというスキル的な部分が重要だと思います。

 では、同じ出来事の経験はカウンセリングに全く役に立たないのかといえば、そんなことはありません。 あくまでカウンセラーの見解で個人差があると伝えた上で体験談を例示すれば、来談者に安心感を与えるかもしれませんし、解決へのモデルケースになるかもしれません。
 もちろん逆効果の場合は、すぐに軌道修正をかける必要がありますし、カウンセラーが自分の経験に引っ張られて上手くいかないということも考えられますが・・・。

 次に後者「直接解決に至るアドバイスをして他人の厄介事を解決するのであれば、その裏付けとなる人生上の経験が不可欠で、それが無いのであれば説得力に欠けるのではないか」の検証です。

 まず前提として、以前にも記事にしたように、カウンセリングとは「問題解決への道筋は来談者自身の中にあると考えて、来談者の話を聴き支持していく援助過程」であり、カウンセリング内において「直接解決に至るアドバイスをして他人の厄介事を解決する」ことは、かなり少ないです。

 どうしてもカウンセラーが「この方法であれば、すぐに解決できる問題なのにな」と強く感じた場合には、自分の体験を開示した上で「こういうやり方があるんだけど、あなたはどう?」というような尋ね方をすることがあります。 その解決法が充分に効果的と考えられる場合に、来談者に解決法を提示すると同時に、カウンセラーの頭の中でその解決法が引っかかってカウンセリングへの集中が浅くなることを防ぐためです。
 もちろん、提示した内容が来談者に合わないようであれば、その解決方法にはこだわらずカウンセリングはそれまで通り進むことになります。

 結局、尋ねる可能性があることはカウンセラーの経験の中に存在するものであり、経験として存在しなければ普通にカウンセリングが進むだけなのです。

 もし仮に、「人生経験=酸いも甘いも知りつくしていること」だと仮定したとしても、基本的にカウンセラーの経験ではなく、来談者の経験をもとにカウンセリングを進めていくので、特に問題は起こらないと思われます。

 上記以外にも人生経験はカウンセラー個人の倫理基準などにも、ある程度影響しているかもしれませんが、人生経験の内容や捉え方によってはマイナスに働いている可能性も考えられるので何とも言えません。

 カウンセリングに関して言えば、ザックリと以下のような感じになると思います。

  • スキル>同じ出来事の経験

 勝手にこんなことを書くと怒られそうな気もしますが、あくまでザックリかつカウンセリングに限ってです。
 何事にも例外はありますし、同じ相談業務だとしても人生相談など隣接する他の職業では、これは全く当てはまらないでしょう。 しかしだからといって、資格を取って間もない臨床心理士(一般に大学院を出たくらいの年齢)が人生経験が少ないという理由で全く役に立たないのかと言われれば、そんなことはないと思います。

 勘違いをしてほしくないのが、これを書いたからといって、カウンセラーはスキルのみに傾倒して欲しいということでは全くありません
 結局はどちらにも偏り過ぎず、バランス感覚を大事にできるのがベターなのではないでしょうか。

 また、どうしても同じ経験をした人に話を聞いてほしいと感じる場合、自助グループ、自助団体というものも数多く存在します。 これは同じような経験をした人たちが集まって、互いに支え合いながら解決を目指すものです。
 こういった団体を活用してしてみるのも、1つの解決方法だと思います。