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うつと自殺

うつと自殺

大森 洋明

REBT心理士。うつ状態から回復した経験を経て、SEからカウンセラーへの転身を図りつつ、カウンセリングを世の中に浸透させようと奮闘中。座右の銘は、菅沼憲治先生に頂いた「生死一期」という言葉。

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(※文章中にうつや自殺などの単語が出てきます。 読んでいる最中に気分が悪くなった場合は、無理をせずブラウザのページを閉じてください。 どうしても内容が知りたい場合には、他の人に読んでもらって後で話を聞くと良いでしょう)

 うつになると自殺行動を起こす確率が上がるという話は、うっすらとでも聞いたことがあるのではないかと思います。 しかし、うつとともに忌避される内容であること、理解の及ばない内容であることから、(対策の必要がある企業の管理者でさえも!)直視することを避け、対策をとることすらも避けているなどということはないでしょうか?

 今回はうつと自殺について、数字も多少からめながら書いていこうと思います。

 まずは、うつから見た自殺行動に関する数字です。

精神障害の経験者における自殺行動の頻度(抜粋)

自殺を真剣に考えた 自殺を計画した 自殺を試みた
経験者数 人数 人数 人数
生涯診断ありの者におけるこれまでの自殺行動
DSM-IV
大うつ病エピソード 109 34 31.2% 11 10.1% 16 14.7%
精神障害なし 1336 101 7.6% 13 1.0% 12 0.9%
ICD-10
重症うつ病エピソード 44 19 43.2% 8 18.2% 11 25.0%
全てのうつ病エピソード 123 37 30.1% 10 8.1% 14 11.4%
精神障害なし 1332 103 7.7% 12 0.9% 11 0.8%
12ヶ月診断ありの者における過去12ヶ月の自殺行動
DSM-IV
大うつ病エピソード 36 7 19.4% 3 8.3% 3 8.3%
精神障害なし 1507 11 0.7% 0 0.0% 2 0.1%
ICD-10
重症うつ病エピソード 17 6 35.3% 3 17.6% 3 17.6%
全てのうつ病エピソード 37 7 18.9% 2 5.4% 1 2.7%
精神障害なし 1495 12 0.8% 1 0.1% 1 0.1%

厚生労働省厚生労働科学研究費補助金 厚生労働科学特別研究事業
平成14年度総括・分担研究報告書
心の健康問題と対策基盤の実態に 関する研究より抜粋

 DSM-IV、ICD-10と2つの数字があるのは、うつ病の診断基準の違いです。

 いずれの結果においても、自殺を真剣に考えた、自殺を計画した、自殺を試みたの3項目とも、精神障害なしの時に比べてうつ病の場合はリスクが高まっていることがわかります。

 具体的には、生涯これまでで自殺を真剣に考えた:(DSM-IV)4.1倍、(ICD-10全体)3.9倍(ICD-10重度)5.6倍、自殺を計画した:(DSM-IV)10.1倍、(ICD-10全体)9倍(ICD-10重度)20.2倍、自殺を試みた:(DSM-IV)16.3倍、(ICD-10全体)14.3倍(ICD-10重度)31.3倍。 過去12か月に限ってみると、自殺を真剣に考えた:(DSM-IV)27.7倍、(ICD-10全体)23.6倍(ICD-10重度)44.1倍、自殺を計画した:(DSM-IV)- ※註1、(ICD-10全体)54倍(ICD-10重度)176倍、自殺を試みた:(DSM-IV)83倍、(ICD-10全体)27倍(ICD-10重度)176倍となり、すべての場合においてリスクが高まっている・・・特に重度の場合にリスクが跳ね上がっていることが見てとれます。

 このことから、うつの予防、早期発見、早期治療といった対策が、非常に重要であるといえるでしょう。


 次に、自殺から見たうつに関する数字です。

原因・動機別自殺者数

家庭問題 4,497
健康問題 15,802
病気の悩み・影響
(うつ病)
計:7,020
男:3,624
女:3,396
経済・生活問題 7,438
勤務問題 2,590
男女問題 1,103
学校問題 371
その他 1,533

警察庁生活安全局生活安全企画課
平成22年中における自殺の概要資料
補表2-3 年齢別自殺者数(原因・動機別とのクロス集計)より抜粋

 平成22年の自殺者で自殺の原因・動機が特定された23,572人の明らかに推定できる原因・動機を、1人につき3つまで計上(合計は23,572人と一致しない)した表の抜粋です。

 自殺の原因・動機のトップがうつ病となっています。 この表からも、うつと自殺の関係が深いことが分かると思います。

 また、WHOの多国間共同調査(日本は不参加)による一般住民および精神科入院患者を合わせた自殺者15,269例の調査では、気分障害の患者が30.2%と最も多く、自殺前に治療対象となる何らかの精神疾患の罹患率は90%以上(精神疾患の罹患率で、うつ病の罹患率ではありません)であるにもかかわらず、自殺前に適切な治療を受けた自殺者は約20%に過ぎないそうです。※註2

 こういった背景から、自殺対策にはうつ病対策が第一に盛り込まれています。※註3

 上の表のように原因・動機をある程度特定されているように見える自殺ですが、その原因・動機を排除しても自殺を止められるとは限らないということは、あまり知られていないように思います。 特に、うつなどで焦りが強く出ている場合、「早く死ななければ」という強い衝動が自分の意思を無視して行動を起こそうとします。

 たとえば、うつの時に大金を失うようなイベントが起こったとします。 ここで、「大金を失ってしまったのはショックだけど、親に頭を下げて一時的にしのげれば何とかなる」と頭では考えられたとしましょう。 しかしここで「早く死ななければ」というモードに入ってしまった場合、頭では「死ぬ必要はない」と思っていても、何度も何度も自分に「早く死ななければ」と言い聞かせ、体は行動に移ろうとしてしまうのです。

 理由のない死に、周りの人は「なぜ!」という思いを持ち、理由を探そうとするでしょう。 人間は未知なるものを恐れ、自分でコントロールしたいという性質があるため、適当な理由を見つけて自分を納得させようとするからです。 しかし実のところ、上述の例のように明確な理由が存在しないこともあるのです。

 自殺未遂者は既遂者の少なくとも10倍いるとされ、自殺未遂や既遂の1件当たり、強い絆のあった人の最低5人が多大な心理的影響を受けるとの推定もあります。※註2
 年間の自殺者が3万人超で推移している今、影響を受ける人の数はどれほどになるでしょう。

註1:0による除算のため

註2:一般社団法人うつ病の予防・治療日本委員会 (2008). うつ病診療の要点-10 (Report).p.9

註3:厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部 精神・障害保健課(2010) 政策レポート 自殺・うつ病等対策プロジェクトチームとりまとめについて