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「鎖国日本」海外サービスがなかなか日本で成功できない理由

»2014年6月17日
PAGES TO THE PEOPLE

「鎖国日本」海外サービスがなかなか日本で成功できない理由

高畑 哲平

KDDIウェブコミュニケーションズにて、中小事業者向けサービスの事業責任者。2007年よりレンタルサーバーCPIの事業本部長、2009年3月ドイツのCMS Jimdoの日本独占販売権を取得し、事業責任者に就任。2011年9月、Google、KDDIと共にみんなのビジネスオンラインを立ち上げる。2013年4月、取締役副社長就任。

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先日、The Bridgeにこんな記事が掲載されていました。

ヤフー、米国スタートアップの日本進出支援事業を行う米国法人「YJ America」を設立

へー、これは面白いと思って見ていたものの、世の中の皆さんはさほど興味ないんですかね....このソーシャルボタンの反応数。私は職業上、過敏に反応する内容ではありますが、少なからずWebサービスやITスタートアップに携わる人は関係ある話だと思うんですよね。

これ、Yahoo!が本気で水先案内人をすれば、あなたの隣にも海外の黒船が殴りこんで来るかもしれないわけです。それを手助けしようというYahoo!の新会社は、この江戸時代から鎖国を貫く日本にとっては無視できない存在になるのではないかなって思ってます。とはいえ、海外のサービスを日本で提供してきた当社から見て、特に最近の世界のWebサービススタートアップが日本に入ってくるのが難しくなってるように思います。その理由をいくつか書きましょう。

鎖国が続けられる理由

さて、当社がこれまで海外のサービスを日本に提供してきた経験のなかで、なぜ海外サービスが簡単に日本で飛躍できないか、をいくつか書きたいと思います。


1. 英語の話せるITビジネスマンが不足している

一番の要因は人材の確保が難しい点があげられます。海外のWeb/モバイルサービスを日本に普及させるにあたり、まずマネージメントメンバーに最低限求められる要件はこんな感じ。

○英語が堪能である

○ITに詳しい(スキル+知識)

○経営の経験がある

○プロジェクトマネージメントの経験がある

○マーケティングの経験がある

○ソーシャルメディアを含む昨今の流れに知見がある

まず、最初の2つのフィルターで随分と該当者がぐっと減ります。いえ、1つ目のフィルターだけで半減以上するはずです。今も昔も英語が障壁なのは変わりないですよね。これを満たせる人材がいたとしても、かなり高額所得者になるはずです。この人材不足が鎖国を続けさせられる要因だったりします。

2. 英語の話せるスタッフもまた不足している

これは私が実際に一番頭を悩ました点でもあるのですが、人材採用の時に英語+ITスキルで採用することが非常に困難でした。できたとしても前述と同じ、高額所得者になってしまう。できるだけ固定費を抑えて運営しようとすると、英語を取るかITスキルを取るかの取捨選択になってしまいます。それぞれのリスクを書きます。

・英語はOKだけどITダメな人を採用した場合

本国との意志疎通は問題ないけれど、結果として日本の顧客を満足させることができず、サービスレベルが低下する

・英語はダメだけどITはOKな人を採用した場合

本国との意志疎通は英語ができる人だけに限られるため、緊急時(サービス障害発生時など)に対応できる人間が限定され、リスクとなる

いずれにしても、人件費の高騰を避けつつ、満足いくサービスを提供するには理想の人員構成をどう整えられるかにかかってきます。

3. 日本特有仕様や機能が搭載されない

例えば、日本では当たり前の仕様だけれども他国ではそうではない、というケースに多々巡りあいます。日本のお客さんは当然声高に「日本の顧客を見ていないのか!!ちゃんと対応しろ!!」と言われます。当然です。お金を払って使っているわけですから。

しかしながらここが実に難しいところです。世界のサービスで日本に進出する企業のなかで、あらかじめアプリケーションの設計段階から全世界対応することを前提に緻密に作っていることなどほぼありません。よって、日本特有の機能を開発することが難しかったりするのです。もう少し詳しく書きますと、そもそもその機能を開発したところで日本人しか使わない(例として、日本のみのWebサービスとの連携など)から開発し辛いケースもありますし、世界的なトレンドと日本のトレンドが微妙にズレていたりすることなどもあります。

Think Globally Act Locally が理想ですが、実際には対応できないことが多いのです。各ローカルマーケットで勝つのも大事ですが、同時に世界のマーケットでも勝ち続けてもらわなければ困ります。世界のマーケットで勝ち続けない限り、優秀なエンジニアも集まらないし、サービスの進化は止まってしまうからです。

4. 必ずしもサービスが簡単ではない

一昔前のサービスと違い、近年のWebサービスは機能面だけではなく、そのサービスの本質的内容が難しくなってきているのも障壁の一つです。これも結局は人材に繋がる部分なのですが、例えば一般的なカテゴリーで表すとe Commerceに分類されるものでも、その本質はソーシャルメディアの側面を強く持ったソーシャルコマースだったりします。この場合、前述の通りですが、求める人材は英語+マネージメント+Webマーケティング+EC+ソーシャルメディアに長けているなどになるわけです。そこへよくある話ですが、ヘッドハンターが用意した人材は元日本の機器メーカーの海外駐在員だったりして、英語とマネージメントはあるけれど、あとはさっぱり何をやればいいのかわからなかったなんてことがあります。これが要件のなかから英語が外れるだけで、該当者はぐっと増えたりするんですけどね。

5.時差の問題

いまやSkypeやらGoogle Hangoutをはじめ数多くのコミュニケーションツールが飛躍的に進化したおかげで随分と海外企業とコミュニケーションが楽になりました。どこの国のサービスを提供するかにもよりますが、時差は結構大きな問題です。アメリカ西海岸の会社であればまだしも、東側の会社を相手にビジネスをすると、一日のうちでリアルタイムにコミュニケーションが取れるのが1~2時間だったりします。このコミュニケーションロスが、緊急時などには大きな問題となります。

参考までに、こんな感じです。

・日本 : ロンドンの場合

 日本 9:00  : ロンドン 1:00

・日本 : ニューヨークの場合

 日本 9:00 : ニューヨーク 20:00 

・日本 : ロサンゼルス

 日本 9:00 : ロサンゼルス 17:00

とここまで書きましたが、大きくは英語の話せる人材確保にあると思います。この絶対数が飛躍的に伸びない限り、日本に進出できる企業はなかなか増えないし成功が難しいかもしれないですね。某大手外資系企業などから大量に人材流出すれば話は別ですが、いまでも海外大手サービスが日本に進出する際の人材確保で頭を悩ませてるのを目にすると、まだまだこの状況は続くのかなって思います。個人的にはもっと大量に日本進出してマーケットを刺激すると面白いんじゃないかなって思ってますが、なかなか簡単にはいかなそうです。YJ Americaがどんなやり方をしてくるのか、要チェックですね。