誠ブログは2015年4月6日に「オルタナティブ・ブログ」になりました。
各ブロガーの新規エントリーは「オルタナティブ・ブログ」でご覧ください。

嘲笑から知恵は生まれない。

嘲笑から知恵は生まれない。

寺西 隆行

(株)Z会勤務。Z会東大個別指導教室プレアデス代表。Web広告宣伝・広報・マーケティングなどを担当した後、理科課課長を経て現職。(※本ブログ記事は一個人の見解です)

当ブログ「教育に生きる人間から、社会を創る皆さんへ」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/teranishitakayuki/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


Facebookを見ていたら、友人が下記記事をシェアしていました。

【悲報】タブレット導入した佐賀市「立ち上げ6分、不具合15分、授業は30分以下」バカすぎワロタwww
※↑IT速報、のサイトにリンクします。

この記事見て思わず笑ってしまいました。
引用された佐賀新聞の記事に出てくる、若楠小学校の内田明教諭、そして九州ICT教育支援協議会の桑崎剛会長、ともにかなりの友人で、「こんな風にネタにされるんだ!」と。

上記、IT速報のサイトでは、引用記事の後のコメントで、佐賀県全高校へのタブレット配布への嘲笑や、武雄市樋渡市長の写真(まあ、武雄市も、タブレット配布で有名ですからね)、佐賀県教委と富士通との癒着への懐疑...などと、まあ、ありがちな流れが続いています。
ICT教育周りのことをいろいろ研究していますし、樋渡市長とも交流ありますし、佐賀県教育委員会へのヒアリングへも行ったことありますし...という身で、率直に申し上げると


・佐賀県高校へのタブレット配布、武雄市のタブレット配布、若楠小のICT教育はほとんど同期していない、独立した動き(それぞれの立場でできることをやっているだけ)

・(補足するなら)高校は県教委の管轄、小中学校は市教委の管轄なので、上記の例は、佐賀県教委、武雄市教委、佐賀市教委の管轄と、そもそも異なっている

・若楠小の内田教諭は、佐賀県高校の拙速なICT導入に(以前から)かなり警鐘を鳴らしている

・(推測ですが)内田教諭と樋渡市長と、ICT教育について討論すると、スタンスが違いすぎてかみ合わなくてケンカになりそうな気がする(大笑)


という感じなんですね。
つまりはそれくらい、全然違う方々や動きが「いっしょくた」にされ、コメントで並んでいるんです、「佐賀」という括りってだけで。

内田教諭とは様々な相談事をし合う関係なので、この記事のことを連絡したら、Facebookでこんなコメントを。

==(引用開始)==

ははは^ ^ウケるw立ち上げに6分、不具合15分は、当然導入当初の話ですw4年も前の、超初期型の端末だっちゅうのw
そのまま4年も経って、改善してますわ。ものすごい苦労して。暗に県教委に警鐘を鳴らしてるんです。

==(引用終了)==

まあ、九州ICT教育支援協議会主催の勉強会における内田氏の発言で「4年前」の状況であることをすっぽり抜かした佐賀新聞の記事も「...」と感じるところはありますが、一方で、第三者がネタにしやすい問題の部分だけ切って取ってきて、嘲笑の流れを加速させても、実態とはどんどん離れて話題化されてしまう、って例ですね。
本記事、後述の通り、Z会ブログで最初に書いたのですが、そのブログをご覧になった方のツイッターであった下記の意見の通りだと思います。

"「だから...立ち上げに6分、不具合15分は、導入当初の話です。しかも4年前、超初期の端末。今でもそうなわけないですw」偏ったニュース+2ch住民+まとめサイト、と濃縮された悪意をtwitterとかで更に拡散するサンプルモデルみたいな。"
※引用元はこちらです。
九州ICT教育支援協議会の当日の様子は、教育ICTデザイナー田中康平氏のブログ「一人一台 効果と課題」によくまとめられています。


インターネットにあるこういう掲示板的記事、まあインターネットの世界では、ある分にはいいじゃない(しょうがないじゃない)、とは思います。

そりゃ教育云々の視点から見れば、お決まりの「好ましくない」というコメントになるのかもしれませんが、ネットが発展している社会において、これくらいの掲示板的記事は「存在」しても仕方ないと思うんです。好ましくない、とは思いつつも、見たいと思う人が実際には多いでしょうしね。

ただ一方で、閲覧している方の見方として、嘲笑・揶揄的コメントを真に受けるのはちょっとね、とした方が良いことは、上記の例からも明らかです。
きっとどんどん、実態からズレることが多いでしょうから。



とある事象だけ見て、問題だーと騒ぐのって簡単なんですよ。
「問題だよな、だっせー」と騒ぐのはね。
知見が深まるのは、実態を見に行こうとする姿勢があるとき。
知恵がつくのは、問題解決に取り組むとき。
内田教諭は、記事では嘲笑されている問題に自分で取り組み、4年かけて、知恵・知見・経験を蓄え、今では素晴らしいICT教育環境を、若楠小の子どもたちに提供していること、僕は良く知っていますし、だからこそ、2000年代中盤頃から、ネットリテラシーの啓蒙活動に取り組んできた九州ICT教育支援協議会に講師として呼ばれているんでしょうし。

加えて、内田教諭も、桑崎氏も、ICTで何でも解決する!のようなスタンスを決して取りません。ICTの便利なところ、(導入するに当たり)問題となるところ、をしっかり見据え、便利>問題となるように持ち込もうとする方々です。
本記事最後にも、内田教諭のコメントを紹介しますので、そちらをご覧戴ければハッキリとわかると思います。

※勤務先のZ会もMacFan.jpの記事「デジタルでも「考える力」は人による添削で育てる」にあるように、ICTの良いところを取り入れようとする、という姿勢です。

内田教諭に電話でやり取りしてわかったことなんですが、この佐賀新聞の記事が出た後、若楠小にかなり電話がかかったそうです。「大丈夫なのか!」と。そして普段の学校活動の時間がとられてしまった、と。
若楠小の関係者なら不安な気持ちからこのような電話をするのはわかりますが、そうじゃない場合(例えば、記事を見てヤジ馬根性的にかける場合)、問題解決に取り組む人の時間を奪うわけです。
問題を指摘するだけの人と、問題解決に取り組む人、雲泥の差、ということがよくわかる事例かと思います。



僕のFacebookコメントでは、この記事を紹介した投稿で、コメント欄で下記のようなやり取りがなされました。

==(引用開始)==

(桑崎氏)内田先生のコメントはどの学校の誰にでも、それも強力なネットがあるPC教室でもよくある話しです。それがタブレット型となればなおさら生じる可能性は高いです。それが先行導入の佐賀の嘲笑に変化していく投稿にはビックリです。政治的な分野ではよくあることですが、IT分野にもあるとなると、残念です。

・樋渡さん、この件は関係ないのにお気の毒。
しかし、これとどのつまりは導入時にポリシーもリテラシーもなかった教師側もまずいですけどね。

(内田氏) いやいや、ウチの場合、導入を知ったのは、実は新聞報道が先だったんですよw職員ビックリ、端末とともに移動してきたワタシもビックリでしたw

・有志の方が委員会とか作って検討するようなのがいいですよね。

(内田氏)有志に現場の担当者をちゃんと入れるべきです。知らない間に勝手に決まっちゃうなんてこと、嘘みたいだけど、それこそ「ざら」にある話ですw

(桑崎氏)だって、永田町で「超党派の議員勉強会」でICTの教育利用が取り上げられました。確か、16人も参考人がいて、大学の先生や業界の人、ネット関係者などばかりで、現場の実態を知る教師やICT支援員は誰もいません。学力が上がるとか、教育に有効だとか、意見が出たそうですが、上手に有効に使えばの話しです。どこに課題があり、どう解決すればいいかの知見を持った人がメンバーにいない人選にいささかビックリしました。そんなメンバーの審議会で決めるから間違うのです。実は。

・失敗を糧として次に繋げることこそ大事。
失敗した同じことを繰り返した時こそ世論から詰られる。
ただ、どうしてこうなったのかの原因と責任は明確にすべきだと思ってます。
次の佐賀のICT施策に期待します。

(桑崎氏)皆さんのご指摘の通りなんですが、先行ランナーなら人並み以上の視力が必要です。せめて2.0以上くらいの。残念ながらその施策を決めている先行ランナーのメンバーにその視力があればこれらの事態は避けられた気もしますので残念です。ただし、失敗は成功のもと、それも事実です。

・>桑崎先生
そうですね。私らITの仕事を専門にやってる人間でも間違いは起こすし、ポカもやります。大事なのは「同じ過ちを繰り返さないこと」。それが次への歩みに繋がると思っていますので。

==(引用終了)==


内田氏も、桑崎氏も、しっかり問題点を把握し、経験もし、その上でどうするか、という視点に溢れた人だと伝わってきますよね。

問題点の嘲笑から知恵は生まれません。
問題点に向き合って、解決に向かわせようとする姿勢から、初めて知恵が生まれますし、社会にはもっと、そんな「問題解決志向」のみなさんが増えてほしい。そして、増えるよう、僕自身も、できることはやっていきたいと思います。


蛇足ながら最後に、内田氏のコメントを紹介します。

「だから...立ち上げに6分、不具合15分は、導入当初の話です。しかも4年前、超初期の端末。今でもそうなわけないですwめっちゃめちゃ苦労して、あらゆるアイデアを駆使して、改善したんです。暗に県教委に警鐘を鳴らしてるだけですよ。佐賀市の皆さん、若楠の皆さん、ご安心ください。素直な子がたくさんいて、職員もみんな仲が良く協力しているいい学校です。佐賀市教委の担当係も、一生懸命がんばっておられます。ICTは「魔法の杖」ではありませんが、未来を生き抜くための強力な「道具」であることは、間違いないと考えています。」

※本ブログはZ会ブログ「和顔愛語 先意承問」2014年5月29日の内容を一部修正し掲載しています。

2014.06.02追記)
貴重なご意見を頂戴しましたので、意見者とのやり取りを転記することでご紹介させていただきます。表現する際は、ほんの一言二言でも、表現に気をつけなければいけないですね、と反省しました。伝えたいことをしっかりと伝えるのであれば...。

(意見を下さった方)
「個人的には、嘲笑は消耗するしなにも生産しないよねという記事にwなんて表現があることにも、けっこう違和感を感じるんですけど」
  ↓
(寺西)
「どこの意味かなーと思いながら考えていたら、2chまとめの引用リンクのwではなく、内田教諭のコメントですね、多分。
何よりも引用元を崩しちゃいけない、を優先させてそのまま載せましたが、この前提がなければ、wがあるのはどうかなーと、僕自身も(意見を頂戴して)思いました。
内田氏に相談して、少し改変させていただく方が、記事の通りがよかったかもしれません。

その前の「思わず笑っちゃいました」も、嘲笑するような笑ではなく、ほんとに「ぶほっ!」と笑っちゃった(あまりにも事実の温度感と違うので)、って意味で、苦笑より笑った、がいいかなー(正直かなー)と思ったので、そのまま「笑っちゃいました」と書いたんですが、ここも解釈によっては様々にとられます(実際に嘲笑返しのように受け取った方もいらっしゃった)ので、違う表現にしたほうがよかったかもしれません。

なかなか正直性を出しながら(とでもいいますか)、きちんとした表現を書くのは難しいものです、が、いろいろと指摘を受け止め、振り返り、頑張り続けます!
  ↓
(再度、意見を下さった方から)
 寺西さん、ご丁寧にありがとうございます。
 おっしゃるとおり、僕が感じた違和感は内田さんとのやりとりの部分ですね。
(中略)
僕の個人的な感覚としては、2chで発祥したひとを嘲笑することを前提とした言い回しは、いくら一般化したとはいっても未だに嘲笑しているように見える属性をぬぐい切れていないと思っています。仲間内の符丁としてではなく、一般の人に同意を求める
文章であればなおのこと。

 基本的に、「2chやtwitterからまとめサイト」的な木を見て森を見ず、要素を拾い集めて大騒ぎをしたいひとたちというのは「相手がやっているんだから自分たちだって正当化される」という考え方でさらにヒートアップするのをよく見かけます。それだけに、必要以上に相手の土俵に乗ることは、やりとりをより不毛にするものという感じがしてしまうのです。

 そういう連中はこれからもずっと、 ww とやりつづけると思います。でも、だからこそ「それって、非生産的だし、未来につながらないと思いませんか?」という提示で、同じ言い回しが使われることには、「僕は」強い違和感を持っているのです。

 というわけで、寺西さんが今回の文章で発信されたいことには、とっても共感しています。応援してます。