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【後編】アーティストが国際交流フェスやってみた

【後編】アーティストが国際交流フェスやってみた

宇田川ガリバー哲男

R&Bバンドでメジャーデビュー後、独立アーティストとして活動中。アーティスト目線の音楽プランニングブランド「Umami+」で、国内外で音楽を身近にする企画に挑み続けている。

当ブログ「こじつけ力 ―闘う現代アーティスト論―」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/udagulliver/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


 ちょっと間が開いてしまいましたが、「アーティストが国際交流フェスやってみた」後編です。

【前編】アーティストが国際交流フェスやってみた

【HP】Artist Market in Manila

●プロダクション、レーベル、広告代理店など挟まず、アーティストのみで日本とフィリピンの国際交流フェスを開催した

●二部制で、一部は「ライブペインティングx音楽」、二部は「日本xフィリピンのアーティスト」のコラボレーションショー。

●コラボレーションソング3曲を制作し披露した。PV公開は後日。

●400席の劇場で入場無料。

●劇場オーナーがフィリピンの貧困層向けの教育機関を運営。子供が夢を持つようなショーを制作した。

 現代では音楽活動のほとんどのことを個人レベルで完結させることができます。そういった時代背景において、既存の音楽レーベルや広告代理店、イベント会社でなければできないことは何なのかを、アーティスト自身が知る必要があると思います。

今回はそれらの組織の役割をアーティストが分担することで実現できるのではないか?という仮説のもとで企画をしました。

結論としては、非常に難しかったです。集客、ショーの質、イベント前後のプロモーション効果、運営体制、アーティストのケアなど、どれをとってもまだまだでした。

しかし同時に、参加したアーティストの意識は確実に変わったし、こういう意識を共有する仲間が増えることで、より良い物ができるという手ごたえも得ることができました。

アーティストがセルフマネジメントし、オペレーションを実行できる人材と予算を確保する方法、ファンの縦横のコミュニティを醸成する工夫など、僕らにできることはまだまだあります。継続することで、ゆくゆくは現地で雇用を生み出す可能性もあると感じました。

前編では理想や思いをつらつらと書いてきましたが、後編では直面した課題、今後の可能性など赤裸々に書いてみようと思います。

ちょっと長いですが、お付き合いください。

 

▼当日の模様

動画がアップされておりますので、ご覧頂けたら!

コラボ曲のひとつ「Favorite Song」です。 大きな発見だったのが、タガログ語のラップがめちゃくちゃカッコいいことです。ぜひ聴いてみてください。

 

▼運営体制

 プログラムの大枠を僕が考えた後、現地のペインター山形敦子さんに担務の割り振りを考えて頂きました。フィリピン人アーティストや劇場のスタッフと橋渡しをして頂けたので、非常に助かりました。

 本来、企画屋としてはアーティストに音楽以外のことをさせてしまったら失格ですが、今回のコンセプトが「アーティストによる」なので参加者全員に役割を付与することにしました。

独立アーティストは、アーティストとしてだけではなくプラスαのスキルも持っていることが多いので、そのスキルを集結させて運営に携わって頂きました。

IMG_3701.jpg 

 

▼概算を出してみた

 今回の企画は、アーティストが「自腹を切ってでもやってやる!」という気合で臨んだものです。

旅費、宿泊費は全て自腹で、アーティストは平均約5万円ずつ負担しています。また、全員へ分配する額には至らなかったものの、国際交流基金(ジャパンファウンデーション)さんから助成金を頂き、運営上非常に助かりました。

では、これを既存の手段で行うとしたらいくらかかるプロジェクトだったのでしょうか?

恐る恐るざっくり概算を出してみました。

 

[音楽制作]72万円〜(約24万円x3曲)

[映像制作]84万円~(人件費を2万円/1人日として、2人で3週間作業)

[渡航費]60万円~(往復5万円x日本人12人)

[音響・照明]30万円~

[広告宣伝費]10万円~(現地の新聞に掲載、パンフレットの作成、各デザイン費)

[アーティストへの報酬]57万円(3万円x19人)

――――――――――――――

計:293万円~

 

主要な項目をどんなに安く見積もっても約300万円です。アーティスト一人あたり約15万円負担していることになります。

ちなみに、会場使用費は含んでいませんが、このキャパだと日本では60万円~(日本で300~400人キャパの平均として)です。

ここにスタッフの人件費などを計上していくと400万円近くに...恐ろしい額になっていきますね。

  

▼メリット

 では、そこまでのコストや労力をかけてやる対価は何なのか?アーティストの自己満足なんじゃないか?という声が聞こえてきそうです。

確かにプロモーションとしては費用対効果が無さ過ぎるし、チャリティでも、ボランティアでもありません。

助成金を頂いた国際交流基金(ジャパンファウンデーション)さんの助成対象にもあるように、今回のプロジェクトの目的は国際交流です。

経験・実績こそ、アーティストにとってのシンプルなメリットです。

ビジネスツールとして音楽を使うのではなく、人と文化の交流自体が目的なので、この経験を参加者それぞれが今後の活動に生かしていくということが大切です。

とはいえ、ゆくゆくは何かしらの形で周りの関係者にとってもメリットを生み出したり経済効果を上げるべきであるという思いはあるので、継続的に日本と海外の音楽事情をデータ+肌感覚で学ぶ必要があると考えています。

大切なのはまず「やった経験がある」ことであり、その先に「高いレベルで」と言えるように精進していくことだと思ってます。

 

▼リスクヘッジ

 大所帯での企画のためトラブルは覚悟していましたが、いくつかのリスクヘッジを怠っていた感は否めません。

基本的なことですが、渡航前の飛行機のチェックインの際、一人の出演者のパスポートが使えないことが判明しました。その結果、やむなく出演できない事態になってしまいました。パスポートの有効期限内でも、渡航する国によって有効期限までに数か月の余裕を持っていなければならないことを知らなかったのです。通常はチケット購入時に確認されるそうですが、LCCでは確認はしてくれないため、僕もこの時初めて知って背筋が凍りました。自己責任とはいえ、僕が知っていれば未然に指示して防げたことなので、本当に申し訳ないことをしてしまいました。

 一つのミスや確認不足が、現地でのオペレーション、マイク数と立ち位置の変更、弁当の数の変更、宿泊先の調整等、至る所に影響が及ぶことを身を持って感じられたことは、当事者や僕も含め周りのアーティストの教訓になりました。

これはプロダクションなどに所属していたら起こりえないことですよね。担当者の首が飛んじゃうかもしれません。

独立アーティストはこういう所でも意識を引き締めていかねばならないと痛感しました。

 

▼音響トラブル

 僕らにとって命でもある音響のクオリティですが、日本と同じレベルで揃うと考えてしまうとかなり厳しいです。現地で手配して頂いた業者の機材が傷んでいたり、セッティングにいくら時間を要してもベストにならなかったり、音響システムを使いこなせる人がいないという状況でした。

これでやれと言われればできますが、陸上選手にサンダルで走れと言うようなものです。やりづらいのが問題なのではなく、提供する物の質が下がることが問題なのです。

日本のライブハウスで働くミュージシャンがPAに入ってなんとかまとまりましたが、ベストのパフォーマンスをするためには機材からオペレーションまで自分たちで持ち込む必要がありそうです。

フィリピンの音響の技術や教育は日本に比べたらまだまだこれからなので、日本人のレベルでOKを出せるクオリティでやることにも意義があると感じました。逆に人材育成については、今後ビジネスチャンスになり得る部分かもしれませんね。

  

▼意識の共有

 イベント後に感じたことですが、企画の段階でメンバーにしっかりと意識を共有していくという下準備が足りていなかったのかも、という反省があります。とても大切なことですよね。

 プレイヤーであるアーティストが運営に携わると、全体として客観的にどう見えるか、どう発信していくべきかを見極めることが難しいものです。

特に大きな企画になると役割を細分化していくため、一人あたりの負担が減る分、人によってはその企画を作り上げた実感が薄らぐかもしれません。

すると、「この程度でできてしまった」「大したことはしていない」という錯覚に陥り、結果的に自分たちが成し得たことを過小評価してしまいがちです。

もちろん、自画自賛しろというわけではありませんが、自分が携わったことを俯瞰して評価し、最大限生かすべく発信していく意識が大切です。

そうすることで、ファンや仲間に意識が伝わり、周りにいる人にとっても応援のしがいのある存在になっていくと思います。

  

▼まとめ

 今回、国を越えてイベントを開催してみて感じたことは、大衆に対するエンターテイメントという一面的な捉え方ではなく、国・企業・自治体にとって社会的な意義のある物として音楽を提案していくことの重要性です。国内での音楽の活かし方についても、ヒントを得る機会になりました。

 また、アーティストは音楽をしっかりやっていくことに加え、自分にフィットした活動フィールドを見出すことも大切だと感じました。

フィリピンだけ見ても、日本では全く知られていない日本人がTVスターとして活躍しています。それが良いとか悪いとかではなく、一歩足を外に踏み出した瞬間、価値観の基準は日本から東南アジアへ変わります。東南アジアからアジア、アジアからさらに広い世界へと活動が広がるにつれ、柔軟にフィットしていく能力も必要になってきます。

 逆に、日本人であること、世界第二位の音楽マーケットに触れて育ったこと、その音楽を支える技術を知っていることなど、僕らが持つ経験や知識を活かすチャンスも眠っています。何より、言語や文化の違いを身をもって感じたことは、僕自身にとっても、今後の創作や音楽活動の指針に大きく影響すると思います。

 

 今はググれば大抵の疑問は解決するし、ニュースを見て他の人がどう感じているかさえ無意識にチェックするような時代です。

多数決で決まったことや、誰かが作った仕組みから外れることを不安視して、やらない人の方が圧倒的に多いですよね。

でも、やらなければそのアイデアや企画はゴミ同然。

成功か失敗かは後々ついてくる波及効果を含めて考えることなので、僕はまずやってみて、しばらく振り返らないようにしています。

推進力があれば、企画から開催までの過程で機能分担ができたり、コネクションやビジネス面での知識が増えていったりと、経験値や実績が雪だるまのようについてきます。

結果的に、このプロジェクトの後、国内のフィリピンに関わる団体の方をご紹介頂いたり、インドネシアやマレーシアといった新たな国への展望に繋がるお話を頂きました。

こういったご縁を大事に、またアーティストのみなさんと一緒に精進していこうと思います。

  

 ということで、長々と書いてしまいましたが、少しでも音楽に関わるみなさんや、その他の職種の方のヒントになれば。

アーティストと組むことで読者のみなさんのビジネスの可能性が広がるようなアイデアもあればぜひ教えて頂きたいです。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

改めて、参加して頂いたアーティストのみなさん、制作に関わってくださったみなさんに心から感謝いたします。

ありがとうございました!

追記

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