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斜めから見たグラミー賞
こじつけ力 ―闘う現代アーティスト論―
斜めから見たグラミー賞
R&Bバンドでメジャーデビュー後、独立アーティストとして活動中。アーティスト目線の音楽プランニングブランド「Umami+」で、国内外で音楽を身近にする企画に挑み続けている。
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第57回グラミー賞が発表され、Sam Smithの4冠が大きな話題を呼びました。
同性愛者であることをカミングアウトしていたり、若干22歳であることも世の関心を集めました。
では、そのグラミー賞って誰が選んでるんでしょう?気になりますよね。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、全米レコード芸術科学アカデミー(NARAS)の約1万3000人の会員が、投票をしてグラミー賞の候補を選出するとのこと。
そこから2度目の投票が行われ、非公開の選考審査委員会が20人程度の候補者からノミネート作品を絞り込むのだそうですが、この過程で、稀に委員会が上位20人に入っていなかった人を追加することもあるらしく、この不透明性を問題視する人も多いようです。
また、グラミー賞の理念として、選考基準はセールスに左右されないとしているそうで、クオリティが高いのにセールスが良いせいで除外されてしまっているのでは?という声もあるようですね。
▼日本人とグラミー賞
さて、そんな中、日本人の評価はどうなんでしょう?
まず、活動21年目にして今年の最優秀レゲエアルバムにノミネートされたSPICY CHOCOLATE。
ジャマイカの大御所リズムユニットSLY&ROBBIEとの共作「THE REGGAE POWER」がノミネートされ、惜しくも受賞はなりませんでしたが、AIや青山テルマ、Crystal kayなど日本で人気のアーティストが参加していることから話題になりました。
実はこのアルバムのプロデュースは、過去にSLY&ROBBIEの作品など通算6作品でグラミー賞にノミネートしているプロデューサー阿曽沼和彦氏によるものです。
この方は元外交官という異色の肩書なのですが、音楽好きが高じて転身、その伝手を使って各国にプロモーションを仕掛け、SLY&ROBBIEとともに毎年グラミー賞を狙い続けている方なんですね。
ジャマイカ在住30年だそうで、昨年も元ちとせ、lecca、COMA-CHIらを擁したアルバムでノミネートされましたが、Snoop Lionやボブ・マーリーの息子という強敵の前に受賞を逃しています。
この先何年かで受賞するのを期待しましょう!
一方、グラミー受賞経験のあるシンセサイザー奏者の喜多郎のノミネートにはあまりフォーカスされていませんが、この方も昨年に続き今年もノミネートされています。
このように、実は日本人のノミネートはもちろん、受賞者も結構いるんですよね。
僕も近年受賞された方しか知らなかったんですが、グラミー賞は、アーティストやプロデューサーのほか、レコーディング、ミキシング、マスタリングの各エンジニアまで、作品のレコーディングに直接携わった人が対象です。
昨年は日本人のレコーディングエンジニアとして、八木禎治氏が受賞されています。
石岡瑛子(デザイナー)-最優秀アルバムパッケージ賞 1987年
坂本龍一(音楽家)-最優秀オリジナル映画音楽賞 1989年
喜多郎(シンセサイザー奏者)-最優秀ニューエージアルバム賞 2001年
中村浩二(太鼓奏者)-最優秀ニューエージアルバム賞 2008年
B'z松本孝弘(ギタリスト)-最優秀ポップ・インストゥルメンタル・アルバム賞 2011年
内田光子(クラシックピアニスト)-最優秀インストゥルメンタル・ソリスト演奏賞 2011年
上原ひろみ(ジャズピアニスト)-最優秀コンテンポラリー・ジャズ・アルバム賞 2011年
松山夕貴子(琴奏者)-最優秀ニューエイジ・アルバム賞 2011年
八木禎治(エンジニア)-最優秀ラテン・ポップ・アルバム賞 2014年
このように、日本人もグラミー賞に無縁ではないのですが、どうしても大きく話題になるのは主要4部門と言われる、最優秀アルバム賞、最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀新人賞。
いつかここに日本人が並ぶといいですね!
▼クラウドファンディングとグラミー賞
さて、もう一つの注目点は、クラウドファンディングでリリースされた作品が受賞していることです。
こちらのビルボードの記事によると、有名クラウドファンディングサービスのKickStarterで資金調達した作品が、7作品ノミネートされていました。
しかも、そのうちの2作品が受賞!
Mike Farris「Shine For All The People」 (Best Roots Gospel Album of the Year)
Jo-El Sonnier「The Legacy」 (Best Regional Roots Album)
RootsとかRegionalという言葉が示すように、いずれもベテランアーティストで、根強い人気があるようです。
クラウドファンディングで受賞作品を輩出しているサービスといえば、2013年にBlue Note Records と提携したArtistShareが有名です。
通算で9つの受賞と18のノミネートの実績を誇るArtistShareは、2001年にアメリカで設立されたクラウドファンディングサービスの先駆け的存在です。
アーティストにレコーディング資金を援助すると、見返りとして制作現場や特別なイベントに招待されたり、限定品をもらえたり、CDに名前がクレジットされる、という仕組みで、今ではすっかりお馴染みになったクラウドファンディングの王道のシステムですが、当時は特許を取るほど画期的な仕組みとして話題になりました。
Maria Schneiderの「Concert in the Garden」が2005年最優秀大規模ジャズアンサンブルアルバム賞を受賞し、ArtistShareから誕生した初めてのグラミー賞作品となりました。また、これがインターネットだけで発売されてグラミー賞を獲得した初めてのアルバムとなりました。
10,000枚の限定生産で一般流通をせず、ArtistShareの彼女のページで9,000枚を販売、残りの1,000枚はチャリティオークションに出されたといいます。
その頃、海外では王手CDショップが破たんし、音楽の売り上げは下降の一途をたどっていました。
大編成のアーティストほど、少ない分配の中で良い作品を作るための資金が工面できず、既存の音楽ビジネスの中で生き残ることが難しくなっていた時期です。
組織ではなく、アーティスト自身が軸となって動き始めていたんですね。
▼良質を求める層が一定数存在する
今年受賞したアーティストを輩出したKickStarterの誕生からも約6年遅れで、日本でもクラウドファンディングが浸透し始めています。
この先5年ほどの間で、日本のアーティストの活動や生活も一変するんじゃないかなーと思っています。
良質な音楽、良質なファン、良質なジャッジ、良質なマーケット。
時代を問わず、これらを求める一定数の人達が楽しめる音楽を提供することも、アーティストにとって大切なことなのかもしれません。
そしてその一定数の人たちが成長することで、音楽に新しい未来が訪れたらいいなと思います。