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光GENJIは不運だった・・・。 ジャニーズから学ぶ「マーケティング的発想」

»2010年12月 9日
アラキングのビジネス書

光GENJIは不運だった・・・。 ジャニーズから学ぶ「マーケティング的発想」

荒木 亨二

ビジネスコンサルタント&執筆業。荒木News Consulting代表。業界をまたいで中小企業経営者のサポートを行う「究極のフリーランス」。2012年より、ビジネス書の執筆ならびに雑誌の連載をスタート。

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先日の夜、酒を飲みながら、フジテレビの「FNS歌謡祭」を見るとはなしに見ていた。「あら? これって"何とか賞"とかくれる番組じゃないの?」と気付いたのは、番組が始まってすぐのこと。いろんな歌手が、自分の過去~現在の名曲をメドレーで歌っている。「やはり昔の曲って、良いよな~」と、懐かしく見ていたのだが、ふと、とある想念が頭から離れない・・・。

これって、もしかしてジャニーズ祭?

オープニングから見始めたのだが、どうもジャニーズ事務所の歌手が多いような気がする・・・。いや、明らかに多い! 嵐、Kinki Kids、マッチ、V6、TOKIO、SMAP・・・元ジャニーズのヒロミGo! と、ぞろぞろ。しかもジャニーズ歌手の出演順が"絶妙なバランス"で組まれており、数組の歌手が歌い終わるとジャニーズ、また数組を挟んで出てくるのはジャニーズと、何ともタイミングが良い。さらには時おり大物歌手とジャニーズがコラボし飽きさせない演出があり、なるほどネと見ていると、終盤に突入するや、ついにはジャニーズの先輩・後輩のコラボが始まり、エンディングはSMAPの国民的ソングを出演歌手全員で大合唱・・・。これはもしや「ジャニーズ祭」ではないのか? と錯覚してしまったのだ。

日本の芸能界、特に男性アイドルに関しては、長い間、かなりの部分をジャニーズに頼ってきたと言っても過言でない。私が物心ついた頃から、いつの時代にも必ず"ジャニーズの誰かしら"がテレビの中で煌びやかに歌い、踊っていた。小学生の時は「たのきんトリオ」全盛、続いて「シブがき隊」「少年隊」。中学では「光GENJI」、そして今は「嵐」に「SMAP」に・・・。まさに「男性アイドル=ジャニーズ」のごとき強烈なイメージ。

この当たり前のような図式だが、よくよく考えてみると、実は『かなりの偉業』であることに今更ながらに驚きはしないだろうか? 浮き沈みの激しい【芸能界というギョーカイ】において、これだけ強大かつ長期に渡るプレゼンスを発揮し続けているのはご存知「株式会社ジャニーズ事務所」。このひとつの事務所、ひとつの企業に過ぎない「小さな存在」が、なぜこれほどまでに芸能界における「大きなチカラ」となっているのか?

天才的? 巧みなマーケティング戦略で「芸能マーケット」を自ら創出

芸能界にマーケティングって必要なの? そんな疑問を持つ方もおられよう。通常はエンドユーザーに近い存在、例えば車や食品といったメーカー企業など、いわゆる"普通の企業"が注力しているとの認識が強いが、"マーケティングはあらゆる業界・企業に必須の経済活動"である。マーケティングという概念を簡単に述べるなら【商品・サービスなどをいかに売るかを徹底的に研究する経済活動】を指す。芸能人のファンとはすなわちエンドユーザー、芸能界もマーケティングを意識しなければならないのは、当然の帰結である。

さて、ジャニーズ事務所にマーケティング部署があるのかどうか、それは知らない。しかし『マーケティング的発想』あるいは『マーケティング的経営センス』があることは、テレビ業界・音楽業界の歴史を振り返ると、シンプルに理解できる。ジャニーズは決して偶然、芸能界で生き残ってきたわけではない。時代の変化を先取りしながら、常に企業戦略を巧みに修正し、自らの知恵と努力で現在のポジションを築いてきたのである。簡単に言えば『自分で芸能マーケットを作り出してきた』とも言える。ここではアイドル全盛の'80年代から現在に至る男性アイドルの役割を観察しながら、ジャニーズの発想とセンスを見ていく。

飽きられ始めた"昔ながらの男性アイドル"という商品

男性アイドルはまず第一にイケメンでなければならず、踊りが上手で、歌唱力は置いておく・・・。'80年代の正統派アイドルに求められた姿である。この時代、アイドル活躍の場として重要だったのが日テレの「ザ・トップテン」とTBSの 「ザ・ベストテン」という2つの歌番組であった。毎週ランキング形式で発表されるため、レコードが売れていなければ出ることはかなわず、ここに出演することが"アイドルがアイドルたる所以"のような機能を果たしていた。これら歌番組はあくまでも"歌中心"に構成されており、MCとのトークはほんの少しだけ。アイドルは歌手である以上、トークや笑いのセンスは特段求められることはなかった。何せ、歌手なのだから・・・。

アイドル黄金時代と呼ばれた'80年代、しかし後半あたりから、徐々にテレビの歌番組に変化の兆しが現れ始めた。トップテンが'86年に終了すると、次いで 「ザ・ベストテン」も'89年に終わり、ランキング形式の歌番組が消えていくことになった。これはアイドルの存在証明の場の消失を意味した。歌番組が消えた原因は、当然、数字が取れなくなってきたことが挙げられる。そしてその背景にあるのが男性アイドルという「商品の魅力の低下」もあったのだろう。ランキング形式では毎週同じ顔ぶれになることは避けられず、次第に消費者が"アイドルへの飽き"を感じ始めた・・・。歌番組終了で困るのはアイドル本人たちもそうだが、芸能事務所はもっと困る。アイドル=商品、売れなければ意味がない。ここからジャニーズが動いた。華麗に、しかし着実に、男性アイドルのマーケティングを開始した。

笑いもトークもやります! 変貌する男性アイドル像

'80年代に歌番組が消えると同時に現れたのが「音楽バラエティ」という新たなジャンルだ。MCとのトークが長くなり、歌だけではない人間性・内面性が問われ始めた。笑いあり歌あり・・・。テレビの音楽マーケットが変わり始めたことを敏感に察知したジャニーズは、従来のアイドルとは異なる商品を世に出すようになっていく。'91年にSMAP、'90年代半ばにTOKIO、V6と、現在でも活躍するニューアイドルたちだ。彼らに共通するのは、男性アイドルでありながら最初からバラエティーを志向していたことにある。芸人やMCとの絡みが上手く、格好いいというアイドルの要素を残しながらも、トークには適度な笑いを交え、臨機応変にコントもこなすマルチタレントに近づいていった。

各グループに個性を持たせたことも大きい。アイドルなのにTOKIOは楽器が弾ける。ロックバンド? という位置づけ。SMAPはバラエティ番組中心に存在感を増していき、いつの間にか冠番組を抱えMCを務める存在に・・・。ジャニーズはテレビが求める男性アイドル像に見合う商品をきっちり提供しはじめ、気付けば、歌番組が消えていっても見事に生き残っていたどころか、さらに勢力を増していた。まさに巧みなマーケティングが奏功したのである。

可哀そうなのがこのマーケ戦略からもれたアイドルたち、その筆頭が「光GENJI」である。デビュー当時の人気たるやそれは凄まじく、現在のSMAPや嵐の比ではなかったことは記憶に新しい。しかし彼らは世に出たタイミングが非常に悪かった。'87年にデビューしたとき、すでに音楽マーケットには静かな異変が生じていた。'90年代に向けた胎動が見られたのだが、はっきりと感じられるほどのムーブメントではなかった。彼らは一気にアイドルの頂点に登りつめ、そして一気に凋落した。原因は<歌で売れてしまった>こと。歌が売れ過ぎた=昔の男性アイドルとして人気が出過ぎたため、バラエティ重視のマーケットととは折り合いがつかない存在になってしまったのだ。光GENJIは事務所に見捨てられたワケではないと思う。マーケ戦略の修正がきかない次元まで"歌で爆発的に売れてしまった"のだろう。

他にも不運な先輩はいる。ジャニーズのロックバンドとして、TOKIOの先輩格として'88年にデビューした「男闘呼組」。'90年デビューの「忍者」・・・。彼らもマーケットの端境期にデビューし、歌中心で売り出したことが敗因だろう。時代はすでにトークや笑い、タレント性を求めていた。こうした先輩の失敗を間近で見ながら世に出たのが、SMAPやTOKIOだった。彼らは最初こそパッとしなかったが、お茶の間での人気を集めることに集中し、焦らずにバラエティを地道にこなしていった。やがて歌が売れ始める相乗効果が出始めると、あとは音楽とバラエティの両輪で着実に歩む・・・。マーケティングの差が出てきたのだ。

グループで多面化戦略

見事にバラエティに進出したジャニーズだが、商品戦略も巧みであった。イケメンばかりがアイドルではない! とばかりに、'90年代組のグループには必ずやオチをもうけた。SMAPの中居、TOKIOの城島、V6のイノッチ・・・各グループには"アイドルらしからぬアイドル"を紛れ込ませた。歌が下手、アイドルなのにオッサン、顔が普通・・・ちょっと異色なメンバーを投入しておくことは、自らバラエティ番組での活躍の幅を広げるとともに、グループ内でのイジラレ役を買って出ることでグループに個性が生まれた。異色メンバーがお笑いの期待に応え得るだけの素質を持っていた(教育された?)ことも大きい。光GENJIや男闘呼組にはこうしたメンバーは存在しなかった。

グループの個性を生み出すのと同時並行的に、各メンバーのソロ活動も顕著になっていった。SMAPを例に挙げるなら、中居はMC、キムタクは俳優、くさなぎはバラエティーと俳優・・・個々が活躍する=単品売りすることで、仮に誰かの人気に陰りが見えたとしてもグループの力で補完することができる。グループというセット販売から"個別販売"に転換したことで、芸能界・テレビにおける露出頻度も高まるという計算もあろう。

ジャニーズのマーケはテレビ業界の将来を見据え、自ら動いた。その結果どうだろう? かつてアイドル=若者という図式があったが、もうすぐSMAPは40代に突入する。立派なオッサンだ。かつて男性アイドルは短命だった。若いうちはいいが、年齢を重ねるとともにテレビから消えていく宿命を背負っていた。しかしジャニーズの新たなマーケティングにより、男性アイドルを"一生の仕事"としてまっとうできる可能性まで出てきたのだ。歌からバラエティへ、グループの個性化・多面化という戦略変更により【アイドルの高齢化問題】も解決したと言える。 

マーケティングって何?

マーケティングって何なのだろうか? こんなことを常々思う。それはマーケというコトバが多くの場合、きちんと理解されていないことが多いからだ。マーケティングという言葉から想起するもの、ビジネスマンには2通りの考え方があるようだ。ひとつは『マーケを広く考えてしまうタイプ』。何だか難解で自分には関わりないと、思い込んでしまう。やや学問に近い印象だろうか。もうひとつは『狭く考えてしまうタイプ』。こちらはマーケティングに仕事上何らかの関わりを持つ人。マーケティングの基礎を学び、忠実に実行することが多い。広く考えてしまうと、マーケティングは自分には関係ないと考えてしまうが、それはビジネスの幅を狭めてしまうことにつながる。営業、SE、接客、管理・・・あらゆる職種の最終的な目標が「自社のモノやサービスを世の中に広く売ること」と設定するなら、どのような職種にもマーケティング的感覚は必須なのである。営業マンが読むべきは営業術のビジネス書? それならマーケの本を読んだ方が、よほどためになる。マーケティングの最終的な目標が"いかに売るか"であるなら、経営者のような大局的な視野・発想が、営業マンに新たな価値観を生み出すことと思う。 

狭く考えてしまうタイプの問題は「マーケティングとはこうあるべき」といった教科書的なセオリーに依存しすぎる危険性を孕むことだ。3C、STP、4P、定性・定量・・・ベーシックな考え方を理解しておくことに損はないが、ややもすると机上の空論になることしばし。ビジネスはセオリー通りにはいかないコトの方が多く、場数を踏み経験値を蓄えることの方が「真のビジネス力」はつくだろう。みんながセオリーマーケをやっていたらどうなるのか? コンペティターと似たような戦略が世にはびこることにはならないだろうか? 重要なのはベーシックな理論を抑えつつ、そこから独自性を発揮すること。そもそも「どうやったら最もよく売れるか」ということを日々真摯に突き詰めたなら、自然とわきあがってくる発想が、結果としてマーケティングのセオリーであったということも多い・・・。

冒頭でも述べた通り、ジャニーズ事務所にマーケ部門があるのかないのか、それは知らない。ジャニーズに"悪い噂"が存在することも知っている。それでもなお、こう思う。実績としてジャニーズは商品戦略において成功を収め、自社が動きやすいよう業界でのプレゼンスを最大限に高め、その結果として、男性アイドルの活躍の場を自ら創出してきた。これって、マーケティングの最終目標なんじゃないの? マーケティングとは、学んでもいいし学ばなくてもいい。ただしマーケティングの巧拙が、企業の命運を大きく変える。そして、優秀な経営者ほど、そもそもセオリー通りのマーケティングなどは学んでいないだろうと、思う。

(荒木News Consulting 荒木亨二)

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