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控え目な派手さがコツ、2つの応用編マーケティング

控え目な派手さがコツ、2つの応用編マーケティング

荒木 亨二

ビジネスコンサルタント&執筆業。荒木News Consulting代表。業界をまたいで中小企業経営者のサポートを行う「究極のフリーランス」。2012年より、ビジネス書の執筆ならびに雑誌の連載をスタート。

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 最近「O2O」というコトバを頻繁に耳に、目にする機会が増えた。Online to Offlineの頭文字を取ったもので「Online=インターネット」「Offline=実店舗」を指す。要約すれば〝ネットから実店舗へ消費者を誘導しよう〟といった戦略で、新たなマーケティング用語として使われている。

 このコトバを好んで使う人が増えた昨今、ボクはどうしても「え? また新しいコトバを使うの?」といった徒労感を覚えてしまう。というのも、O2Oという戦略・概念はすでに10年以上前から存在しており、当時は「クリック&モルタル」と呼ばれた。「クリック=インターネット」「モルタル=実店舗」を意味する。

 厳密に言えば、2つのコトバが意味する戦略は異なるが、それは些細なもの。〝ネットと実店舗を融合させよう〟という考え自体にそう変わりはない。徒労感を覚えるのは、「あっさりコトバを選び、あっさりコトバを捨てる」風潮。

「メトロセクシャル」「エシカル」「バイラル」「コーズリレーテッド」...。企業のマーケ担当者は、欧米から輸入されたマーケ用語をよく使う。コトバの意味をきちんと理解している人がいる一方、そうでない人も多数見受けられるが、彼らに共通するのは〝英語だし何となくカッコイイから〟といった雰囲気。このため、新たな用語が現れては、ブームのように消えていく...。

 コトバが消えるたびに、当然のようにマーケ戦略は修正を迫られる。そのサイクルはあまりにも短く、戦略をコロコロと変える様子はまるで〝言葉遊び〟のよう。そもそも、欧米のマーケ用語を日本に輸入する必要もないだろう。

 欧米の消費者と日本の消費者では、ライフスタイルも消費パターンも大きく異なるもの。「アメリカで流行っている考え方だから、日本でも...」。こんな安易な思考法は、そろそろ捨てなければならない...。

 さて、前回は「小売業マーケティングにおける5つの基本」と題し、「店舗」「店員」など消費者とじかに接する5つのポイントから、マーケティングの基礎について述べた。その特徴は〝消費者の行動パターン〟に従って考えること。

 今度は反対に〝企業の行動パターン〟から考えることが、マーケティングの応用の特徴となる。言い換えれば、消費者に販売する前に「いかに売るか」を考えること。企業はモノ・サービスを作り、その情報を世に広めて売上げを立てるだろう。大雑把に言えば、企業の行動パターンは「1.作る」「2.広める」という2つに分けられる。

「1.作るマーケティング」とは市場リサーチや商品開発など、モノ・サービスを作るまでのマーケティング全般を指す。自動車メーカーであれば、みんなで「いかに売るか」に知恵を絞り、究極の1台を完成させること。

 対する「2.広めるマーケティング」とは、消費者やメディアなど外部に向けた情報発信などが主となる。ADやPRやイベントなどを通し、モノ・サービスの情報を世に広めるためのマーケティング全般だ。「素敵な1台を作りましたよ!」と、大勢の消費者にあの手この手で知らせることである。

 恐らく、多くのビジネスマンが「そうそう! これがマーケティングだよね」と考えるのは、広めるマーケティングの方だろう。メディアが絡んだり華々しいイベントを開いたり、あるいはマーケの戦略系全般を司るケースも多いことから、花形部門的な印象は強い。

 前回、マーケティングの本質は『いかに自社のモノ・サービスを売るかを徹底的に考えること』と定義したが、このように「1.作る」「2.広める」という違いによって「いかに売るか」の目的や手法は変わる。さらにはここに、マーケティングの基礎「1.店舗~5.HP」も加わるのだから、クルマ1台とっても、関わる部署や立場により「いかに売るか」は大きく異なるのだ。

 今回も、ボクがブランドプロデュースを担うイオンの花屋ブランド『ルポゼ・フルール』を参考に、マーケティング応用の2要素を解説することにする。作る・広めるという性質上、小売業のみならず多くの業界に通じるテーマだと思うが、今回もピンポイントで簡単に...。

作らされてはいけない「作るマーケティング」

 アイデアをこしらえ、市場リサーチを経て、モノ・サービスを生み出す。これが作るマーケティングの基本的な流れであり、各部署で各人が「いかに売るか」を考えることになる。

「実現性を備えないアイデアは、子どもの閃きと変わらない」。ビジネスである以上、ヒト・モノ・カネを総動員して実際に売れるモノ・サービスを作らないと、絵に描いた餅に過ぎない。つまり、アイデア先行型であってはならないが、かと言って実現性ばかりを考え、マーケットを読み過ぎることも問題だ。

「アンケート結果によると○○はNG」だの「データから見るに○○がウケそう」だの〝リサーチに頼り過ぎたマーケ〟は、甚だ危険だろう。というのも「いかに売るか」とは、企業の主体的メッセージそのもの。度を過ぎたリサーチは、肝心のメッセージをブレさせる可能性を孕んでいる。

 例えば、百貨店やコンビニで常態化した「女性の声を反映させました!」という〝女性目線マーケティング〟はその典型だろう。女性の声を反映した売り場作り、PB衣料品。果ては、女性に好まれるために、女性だけのマーケチーム結成など。

 一件、筋が通っているようで、実はまったく筋違い。女性のマスの声を集めても、女性が欲しいモノ・サービスの〝近似値〟とはならない。つまり、リサーチとは似て非なるもの。同様に、女性チームにすれば女性好みのアイデアが生まれるに違いないという発想も、「いかに売るか」をマジメに考えていない証。

 あるいは、ホテル業界では「皇居ランナーお泊りプラン」、居酒屋業界では「女子会プラン」など、〝トレンド便乗の企画作り〟が盛んだが、これらも失敗例のひとつだろう。アイデアを安易にトレンドに頼るとは、そもそも「いかに売るか」を放棄したことに他ならず、マーケティング力を弱体化させてしまう。俗に言う、売れ筋と売り筋は異なるのだ。

 似たような例では、近年のビッグデータ・ブームも挙げられる。とにかく細かな情報を膨大に集め、分析し、解を導く。まるでマーケティングの王道、進化系リサーチのようなイメージだ。確かに手法としては優れているのかもしれないが、「いかに売るか」を考えるのは、最後は人間。

 売れそうにもないから、作りたいけど作らない...。反対に、売れそうだから、作りたくないけど作ろう...。どちらも典型的な失敗パターンである。以前、ピンクのクラウンが話題になったが、このくらい根性の入ったメッセージこそ消費者に響くというもの。売れ行きは知らないが、メディアや消費者への情報拡散は相当なものであり、少なくとも広めるマーケティングにおいての成功例だろう。

 女性の声にせよビッグデータにせよ、「この手法は正しいはず」と思い込んだ時点で、「いかに売るか」を考えるチカラは止まってしまう。マーケットを見誤り、それすら気づかず、作り続けてしまうことになる。知らぬうちに作らされてしまう「作るマーケティング」は、今後も手法が発展していく時代ゆえ、常に意識して良し悪しを判断しなければならないだろう。

目的をしっかり持つ「広めるマーケティング」

 マーケティングのなかで最も派手な部分がココ。ADやPRなどプロモーションに秀でた企業は効率よくカネをかけ、手法も巧みだ。総じてメディアを味方につけることが上手く、自然と消費者の目に触れる機会も増え、投資以上の成果を残すことができる。

 その一方で「1千万円払ったらウチはどのくらいアピールできますかネ?」と、アピールとPRを勘違い、というよりADとPRの違いを理解していない経営者も散見される。マーケティングの巧拙が見事に現れるのが、広めるマーケティングという領域だ。

 広めるマーケティングにおいて肝心なのは「誰に、何を、どう伝えたいのか」という〝目的をハッキリさせる〟こと。たとえ素敵なモノ・サービスを作ったとしても、闇雲に情報発信を繰り返すだけでは、誰も関心を寄せてはくれない。

 例えば、PRという手法。情報を広めたい相手はもちろん「消費者」だが、それを介在するのは言うまでもなく、テレビ・新聞・雑誌といった「メディア」だ。となると消費者の前に、まずはメディアに刺さるような〝おいしい情報〟でないと、そもそも情報は広めてもらえない。

 メディアはとてもやっかいだ。例えば同じ紙媒体でも、新聞と雑誌ではスピードや誌面作りが異なるため、求められるおいしい情報は異なる。また雑誌をとっても、情報誌と経済誌では求められる情報は異なり、さらには同じ経済誌というカテゴリーでも「読み物系の記事が強い」「サブカル系テーマを好む」など、各誌それぞれ特性を持つ。

 要は、「お? うちに向いている情報だな」と、メディアに思わせなければならない。たとえモノ・サービスが良くても、メディアに向いてない情報はおいしくない情報であって、すなわち載せない情報ということだ。反対に言えば、たいしてモノ・サービスは良くなくても、メディアが好む情報ならば、それはおいしい情報となるのだ。

 対メディアだけでなく、その他の様々なプロモーションにおいても、目的をハッキリさせるという重要性は変わらない。例えば、消費者を集めたイベント。「何となく大々的にやればいいかな」という発想では、消費者も何となく来て、何となく帰ってしまうだろう。

「今回は売上げ最優先だ!」というイベントでもいい。あるいは「売上げはいらないから、ブランド名だけ記憶に残したい」でもいいし、「とにかくSNSで話題になれば」と、奇想天外なイベントもアリだろう。もしメディアを呼んでいるのであれば、「消費者はどうでもいいから、取材対応をキッチリやろう」だって構わない。

 1度で売上げも集客もPRも全部欲しい...は欲張りだし、現実的には難しい。プロモーションは何度もやるものだから、「今回は売上げ」「次回はPR」といった具合に毎回の目的を小分けにし、トータルで戦略を考えればいいのだ。

 企業のコラボイベントも同様だ。例えば、ホテルの大広間を使った飲料メーカーのイベント。ホテルはオススメの宿泊プランを、飲料メーカーは自社製品をそれぞれ消費者に宣伝したいワケだ。こうしたコラボものはよくあるが〝企業の思惑は異なる〟ため、うまくいかないことは多い。

 なぜなら、両社の思惑に沿って企画を立てることになるため、どっちつかずのイベントになるからだ。両社のマーケ担当者は「うちの意向を出せた」と満足するが、それだけ目的はぼやけ、結果的に消費者の満足度は下がるもの。

 こうした場合「今回は我が社が泣きますので、次回はウチに」みたいな〝大人の対応〟ができると、両社の目的はハッキリし、メリットも双方に明確となる。当然、消費者にも分かりやすいイベントになり、情報の質も上がるだろう。広めるマーケティングおいては、潔く目的を決することが重要なのだ。

 蛇足になるが、広めるばかりでなく「拾うマーケティング」も忘れてはならない。カスタマーセンターやお客様相談室など、消費者から寄せられる問い合わせやクレーム対応の類である。一般的に受け身イメージの強い部門だが、「いかに売るか」のヒントは多数隠されており、攻めのマーケティングだって可能となる。

 声はでかいが、聞く耳は持たない。そんな人間はやはり嫌われるもの。拾うマーケティングまで注力できると、「いかに売るか」の完成度はさらに上がる。

「ルポゼ・フルール」のブランドプロデュース

 マーケティングとは『いかに自社のモノ・サービスを売るかを徹底的に考えること』。基本は前回述べた5要素。これに加えて応用の2要素があり、これら7つの要素を完璧にこなすことが理想的なマーケティングとなる。

 さて、ボクはイオンの花屋ブランド『ルポゼ・フルール』のブランドプロデュースをしているワケだが、「いかに売るか」という点ではよく似た仕事である。では、マーケティングとブランドプロデュースではいったい何が違うのか? 

 それは〝木を見て、森も見る〟という発想だ。個々の木々がマーケティングであり、森がブランドに相当する。キレイな森、統一された森を作るために、1本1本の木を植えていく仕事みたいなものだ。「目指すべき森」に従って、「どのような木」を植えるかを決めるのが自然な流れだろう。

 例えば、ルポゼ・フルールは「南仏みたいな花屋ブランド」を目指している。ということは、すべての木も南仏みたいに統一しなければならない。

 小売業マーケティングの基本5要素は、「1.店舗」「2.内装」「3.商品」「4.店員」「5.HP」である。消費者は1~5のどこを見ても「ああ、南仏みたい」と感じることが、ブランド。1が南仏なのに5が南米では、ブランドはちぐはぐとなってしまうだろう。ちなみに1も5もマーケティングに優れていたとしても、それはブランドとしては不十分、ということになる。

 応用の2要素にも同じことが言える。「作るマーケティング」では南仏をイメージした商品開発や店舗作りを行い、また「広めるマーケティング」においても、南仏のようなプロモーションなどを徹底する。つまり、店舗へ行っても南仏、日々目にする情報を見ても南仏。1~7のマーケティングにブレがなくなり、また数年の歳月を要して「ルポゼ・フルールって、やっぱり南仏風よね?」と消費者に認知されたとき、初めてブランドという森ができるのだ。

 実は今、ルポゼ・フルールでは「ブランドをどうしようか?」という話になっている。南仏でよいのか、はたまた、リブランドすべきか。どうやらボクが「マーケティングとはこうあるべきで、ブランドはこうあるべき」という話がキッカケになったようだ。

 そんなイオン社員を見て「とてもまっとうだ」と、ボクは思った。それは「いかに花を売るか」を真剣に考えている証拠であり、柔軟に発想をチェンジできることこそ、強い企業の条件である。一度信頼すれば、ボクのようなフリーランスの話にさえしっかり耳を傾けてくれるのは、大変有難いことでもある。

 以前、とある経営者から「100店揃ったので、そろそろブランド作りに入ろうと思うのですが、どうすればいいでしょうか?」という相談を持ち掛けられた。時すでに遅し。マーケティング担当者は「今さらやり方を変えられないですよ」とぼやき、戦略を修正せぬまま出店を続けるそうだ...。

 ルポゼ・フルールはこれからのブランドである。ステキな森を目指し、みんなで木を植えている最中だ。ゆっくりなように見えるが、それが正しいマーケティングであり、正しいブランド作り。どんな花屋ブランドになるのか、ボクも楽しみだ。

 派手マーケばかりに精を出す企業が多い昨今、地味マーケをしっかりできる企業は、むしろ派手にすら見えるもの。そう言えばイオン、人知れず20年以上も前から木を植えており、先日1000万本を達成したらしい...。

(荒木News Consulting 荒木亨二)

*イオンの新規ビジネス花屋『ルポゼ・フルール』、ブランドプロデュース中

【著書】

『就職は3秒で決まる。』(主婦の友社)

『名刺は99枚しか残さない』(メディアファクトリー)

【雑誌連載】

『Begin』(世界文化社) 「仕事着八苦YOU!」

『アスキークラウド』(KADOKAWA) 「それでもボクは会社にイタいのです」

『Safari』(日之出出版) 「最後のバブルで踊ろうよ!」