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【フリーランス考1】 フリーランスって何?

【フリーランス考1】 フリーランスって何?

荒木 亨二

ビジネスコンサルタント&執筆業。荒木News Consulting代表。業界をまたいで中小企業経営者のサポートを行う「究極のフリーランス」。2012年より、ビジネス書の執筆ならびに雑誌の連載をスタート。

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フリーライター、フリーカメラマン、フリージャーナリスト・・・組織に属さず、個人で独立して働く人々を総称して『フリーランス』と呼ぶ。サラリーマンのように雇用されておらず、けれども経営者でもなく、一般的にはあまり馴染みのない職業である。ごく普通の企業に勤めているなら、生涯一度も"フリーランスという人間"に出会わない可能性すらある。フリーランスって、何?

偏った業界に集中する特殊な職業・働き方

フリーランスは個人事業主や自由業などとも呼ばれ、仕事内容は千差万別でどこか自由な雰囲気を臭わせるが、実態は不明なところが多い。日本フリーランス協会の調査によれば、日本におけるフリーランスは就業人口のわずか40分の1程度に過ぎず、4人に1人がフリーランスと言われるアメリカとは大きな開きがある。日本は【フリーランス後進国】なのである。

日本でフリーランスが馴染みのない理由のひとつに、彼らが活躍する業界の特殊性が挙げられる。フリーランスがもっとも一般的な世界と言えば「マスコミ」「ファッション」「デザイン」といった"カタカナ系業界"である。これらの業界は世間に与える影響力が大きいわりに、仕事の実態がつかみづらい。

例えば出版社をケースにあげてみよう。雑誌1冊を作るにはフリーのライターにはじまり、スタイリスト、カメラマン、ヘアー&メイク、モデルなどなど、実に多くのフリーランスが関わっている。普段何気なく購入している雑誌が、実は多くのフリーランスの力を借りて世に出てきていることはあまり知られていない。サラリーマンである出版社の編集者は、これによって彼らをマネジメントする業務に専念できる。

さて、並べられた職業を見て分かるように、一般的にフリーランスは【高度な専門性&スキル】を持っている。ライターにしてもカメラマンにしても、それなりの下積みや業界経験を積んでおり、誰もができる類の仕事ではない。いわば"職人"である。自分の能力のみが唯一の商品、自分を世間にアピールし、その都度その都度、企業と個々の契約を結んではお金をもらって働いているのだ。

そして【クリエイティブ系職業】に偏っているのもフリーランスの特徴、研鑽を積めば誰でもプロになれるものではない世界である。文章を書くのが好き=フリーライターといかないのは自明の理、努力に加えて"その道のセンス"が必要とされる。優れた企画力や、万人を虜にする文章力などは"天賦の才"の面も大きい。クリエイティブ方面にフリーランスが多いのは必然的と言えば必然的。

貴重なアウトソーシングとしての存在感

専門性が高く、クリエイティブな仕事が多いフリーランス。このような特殊な能力を持つ人々を、企業が常勤雇用することはあまりメリットがない。

企業とすれば、できるだけ多くの才能(=フリーランス)を使った方が合理的かつ良い仕事(=作品)に仕上がるだろう。ひとつの雑誌を作るには様々なテイストの写真や文章が必要、それに合わせてカメラマンやライターを選べばよく、マンネリ化してくれば新たなフリーランスを起用してイメージを刷新することもできる。

また仕事の特殊性を考えると、企業で内製化するのはコストとリスクを伴う。専門性が高い業務ゆえに、モノになるのか分からない人間に教育費用はかけられないし、一人前になったところでフリーになられてはお手上げだ。

その点、教育の必要がなく、すでに完成されたチカラを持つフリーランスは企業にとって使いやすい存在。利益を生み出す固定化した組織を築きつつ、必要に応じて利用する外部のスペシャリストたち・・・。新たな感性で社内や業務を活性化させるには、固定費のかからないフリーランスは貴重な存在となるのだ。

一方でフリーランスサイドにも自由である意義は大きい。いろいろな企業と付き合えるために腕の見せ所(=販売チャネル)は無限にあり、やりたい仕事だけに専念するという贅沢な選択肢もある。自分を最大限に生かすには、ひとつの企業に属さない方が良いケースもあるのだ。

フリーランスを一度も見たことがない・・・

特殊な業界に偏在しているうえに、クリエイティブ系に偏っているフリーランス。ある業界ではやたらと見かけるが、いない業界ではまったく見かけることのない不思議な職業。このためあまり実態が知られていない。私自身がフリーのコンサルタントのため、周囲にはライター、プランナー、デザイナーなどが数多くおりちっとも珍しくないが、これはレアなケースのようだ。

先日、15年ぶりに酒を飲んだ友人に私の職業を説明しても、ちっとも理解されなかった。彼は卸売業の営業マンとして15年、これまでの会社生活のなかでフリーランスには一度も出会わなかったという。実はこんな話はよく聞く。

フリーランスとは一体どうのようにして働いているのか? 稼いでいるのか? 営業しているのか? どうすればフリーになれるのか? さっぱり見当がつかないらしい。私の場合は仕事がコンサルタント、社員教育から販促まで手掛けるので、余計に何をしているのか分からないという。

フリーランスって何?

フリーランスとは<組織に属さず、個人で独立して働くこと>。さて、ここで私は思う。なぜ、日本はこれほどフリーランスが広まっていないのだろうか? ここでアメリカと日本の事情を考えてみる。

冒頭でも述べた通り、日本のフリーランスは就業人口の40分の1程度。対してフリー先進国のアメリカでは4人に1人とかなりの高確率で存在する。日本とアメリカ、この2国において職業や仕事内容が大きく変わるとは思えない。どちらも経済大国、メーカーからサービス業まであらゆる分野・仕事で、重なる部分は多いだろう。

同じような企業形態・仕事内容なのに、なぜアメリカではフリーランスがこれほど一般的なのか? 考えられるのは【働くことに対する価値観の違い】である。

外資系企業を想像すれば分かりやすいが、アメリカでは本当の意味での実力主義が根付いている。いつ首を切られるか分からない状況では、組織に所属すること=安定の意味はなさず、サラリーマンは安定的な身分ではない。日本よりシビアに専門性や高度なスキルが求められる。となると・・・、サラリーマンでもフリーランスでも状況は一緒? みたいなことになってしまう。

翻って日本は終身雇用が崩れたとはいえ、やはり"正社員サラリーマン"は相当に安定している。業績が悪化すれば残業代カットやボーナスカットなどはあるだろうが、「明日から来なくていいです!」みたいなケースは非常に稀だろう。フリーランスの場合は「仕事は終わりです!」と言われれば、それでジ・エンド・・・。一瞬にしてギャランティーを、丸ごと失う。

日本企業はなんだかんだ言って優しいように思える(フリーランスの目から見れば・・・)。

アメリカにあって、日本にないもの?

私はアメリカで働いた経験はない。なのであくまでも想像なのだが、同じような職業と仕事内容がある2国において、アメリカ社会では極端にフリーランスが多いという事実は、裏を返せば<日本では普通はサラリーマンとして働くべきところ>がフリー化されていると想像できる。

例えば総務、人事、営業など、日本では通常企業が正社員として抱えるべき人材を、アメリカでは部分的にフリーランスが担っているのではなかろうか?

フリーランスの仕事は千差万別である。特殊な業界に多いのは事実として、このほかにも無数の仕事領域において無数のフリーランスが存在する。"フリーでこの仕事はダメ"というルールは恐らく存在しない。社会にニーズがあり、自身がスキルを持っている。それで稼げるのであれば、すぐにでもフリーランスになれる道理である。

むちゃくちゃ売りまくるスーパー営業マンがいるとしよう。彼の手にかかれば何でも売れてしまうほど、恐ろしい能力を持っている。彼がもしフリーの営業マンとなったなら? 月曜日に家を売り、火曜日にクルマを売り、水曜日は家具を売り・・・。

企業の理念上問題がないとしたら、こんな素晴らしい営業だってできてしまうかもしれない。日本にこんなスーパーフリーランス営業マンがいないなら、やってみても面白い。多方面に活躍するセールスレップのようなものだ。

転職を考えるとき、自分の能力を生かせる企業なりポジションなりを探すのは当たり前である。そこであえてフリーランスという道を考えてみるのも面白いのでは? 意外に誰も手掛けていないフィールドが広がっているかもしれない。就活に失敗したなら、最初からフリーランスを目指すのも良いかもしれない。だって、フリーランスは何でもアリの職業なのだ・・・。

(荒木News Consulting 荒木亨二)

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