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【女装考1】 男性諸君、一度はパンストを履いてみるもんだ

»2011年12月25日
アラキングのビジネス書

【女装考1】 男性諸君、一度はパンストを履いてみるもんだ

荒木 亨二

ビジネスコンサルタント&執筆業。荒木News Consulting代表。業界をまたいで中小企業経営者のサポートを行う「究極のフリーランス」。2012年より、ビジネス書の執筆ならびに雑誌の連載をスタート。

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昨晩はクリスマス・イヴ。だからといって、わ~いわ~い、イブだ~! などと、浮かれて特別なコトをするでもなく、奥さんとロマンチックに過ごすこともなく、アキバのタワレコで「Zebrahead」「Nickelback」などのハード系CDを20枚ほどオトナ買いし、「やっぱりZebraheadは良いよね~」などと二人で言い合いながら、いやいや、会話が聞こえないほどの大音量を響かせながら、夜、クルマで帰宅。

テレビをつけると、イブの夜だというのに、なぜか〝オネエ芸人〟が騒いでいた。新宿2丁目の〝お姉さま特集〟だそうだ。別の局にチャンネルを変えると、こちらもこちらで、マツコデラックス、ミッツ・マングローブ、クリス松村といった〝オネエ芸人〟が楽しげなトークを展開しているではないか。

2011年は〝オネエ芸人〟の当たり年ではないだろうか? マツコはテレビ各局から引っ張りだこ、テレビで見ない日はない。ミッツはついに歌手デビューまで果たし、今やオネエ芸人は一大コンテンツとなっている。日本のテレビ各局が〝奇異な人々〟を好むのか、それとも日本人が根本的に〝奇異な人々〟を欲しているのか、それは分からないが、オネエ芸人を見るたびに、私はふと20年前の懐かしい想いが蘇る。

大学生の一時期、私も女装をしていた時期があったのだ・・・。

私はバリバリの「肉食系男子」、〝そういう趣味〟はまったくない。ところが、やむにやまれぬ事情のため、私は女装をしていた・・・。

肉食系男子が女装をしていたワケ

私は大学1年生、20歳くらいだった。その頃、付き合い始めた彼女は、こともあろうに<完全男子禁制マンション>に暮らしていた。20年前の当時としては珍しい、監視カメラを備えたオートロック型のマンションだ。彼女は大阪から上京した一人娘であり、初の東京暮らし。彼女の両親は大切な一人娘に〝ヘンな虫〟がつかぬようにと、高いお金を払い、防犯のしっかりした男子禁制というマンションを用意した。

さて、困るのは・・・、私。学生なのでホテルに行くお金はそれほどない。困った。くまった。くまった。彼女と付き合い始めると、いろいろ難儀する。そんな私を見た彼女が、ある日、突拍子もないことをぬかした。

「アンタ、背が低いし、体も細いから、女装すればうちのマンションに入れるんじゃない?」

お前は阿呆か? と、彼女を嘲りつつ、お前は賢い! と、膝を打つ。そうか、その手があったか・・・。私は身長163センチ、体重50キロ、街を歩く女性とそう変わらない体型だ。いや、むしろ女性より小さいことも多し。おお、お母さん、ボクを小さく産んでくれてありがとう。

当時、若い男性の間では〝ロン毛ブーム〟が沸き起こっていた。トレンディードラマで人気の俳優・江口洋介と、吉田栄作の影響だ。顔がブサイクだろうがイケメンだろうが、多くの大学生がロン毛だった。かく言う私も、ロン毛、似合わないけど、ロン毛。

当時の写真を見たら、思わずキモ! となるのだが、若気とは恐ろしい、周囲から「アンタさあ、ロン毛似合わないよ」と真摯なアドバイスをもらっても、かたくなに「いや、オレは吉田栄作派。江口のロン毛とは違うんだよ」と、よく分からない説明をし、ひとつ前の彼女が私の元を去ったのが、実は私のロン毛が嫌だった、なんてことも、その一因らしい・・・。

小さい体に、吉田栄作ばりのロン毛。これで女装は完璧だろう。幸いにして髭も薄い。しかし、顔はどう見てもオトコ、これを隠すには、つばのある帽子を目深に被ればよろしいんじゃないの?

彼女の思いついた一言で、私は女装をする羽目になった。完全なる肉食系男子なのに・・・。

お前、ちょっと楽しんでない?

女装決行日の夜。彼女が暮らす男子禁制マンションのそば、人気のない空き地で、私はタバコを吸って待っていた。そこに彼女が大きな白い紙袋を抱えてやってきた。袋の中にはロングスカート、大きなイヤリング、ハイヒール、そして、つばのある帽子。

「とりあえず、一回、この洋服着てみて。」

彼女はなぜかとても楽しそうだ。目がきらっきらっに輝いているではないか。私を巨大なリカちゃん人形とでも思っているのだろうか? いくら「男子禁制マンション侵入計画」という重大ミッションがあるにせよ、まあ、自分の彼氏を女装させようと思いつくくらい、ちょっと変わったオンナだ。

「肉食系男子、オンナになりますわあ~」とでも呟きたいような、複雑な心持ち。ロングスカートを履き、イヤリングを両耳につけ、帽子をかぶってみた。ハイヒールはさすがに足が入らないだろうと思ったら、あら、余裕じゃん・・・。私の足は23.5センチ。お母さん、小さく産んでくれてありがとう。

生まれて初めての女装。当たり前だ。何とも言えぬ着心地、股がスースー、やけに風通しが良いじゃねえか? イヤリングって、けっこう重いなあ。それにしても、ハイヒールって良いねえ、オレ、背が高くなったよ、こんな高い景色、見たことないよ。ありがとう。って、何が?

彼女は巨大なリカちゃん人形をためつすがめつ眺め、ニヤニヤしたり、ときにきらっきらっの目をしながら、へえ~、やっぱりいけるんじゃないかしら? 女子バレーにいそう、などと独り言をつぶやきながら、終いには「じゃあ、行ってみようか!」と、いかりや長介風に、いざ男子禁制マンションに向かってレッツゴーする。あ、あ、ハイヒール・・・、歩きにくい、ちょちょ、ちょっと待って・・・。

半年間の女装生活

わはは、おほほ、楽勝じゃん~! 私の女装は見事に男子禁制マンションの監視カメラをくぐり抜けた。

それ以降、味をしめた〝オンナの私〟は、頻繁に彼女のマンションに転がり込んだ。たまに彼女の女友達たちと数人で潜り込んでは「でしょ、オレ、マンション入れるでしょ?」などと自慢げに語り、彼女の部屋でみんなで酒盛り。

いつも私は夜の空き地でスタンバイ、彼女が持ってきた衣装に着替え、るんるんで部屋に行く・・・。ただし、私が女装するのは、あくまでも必要にかられてのこと、〝その趣味〟はまったくない。ここで、改めてお断り。

でも、半年間も女装をしていると、何だかいろいろ楽しくなってくるのも、これまた事実。例えば「パンスト」。

春頃から女装を始め、いつしか季節は冬になっていた。空き地からマンションまで歩いて数分、たいてい深夜なので、通行人に出くわすこともないし、見られても怪しまれることもない。完璧な女装。ミッツさん、ボク、完璧です。でも、ロングスカートって、非常に寒い。股がスースー、寒風が痛い、ってな話をすると、彼女は「パンスト履けばいいじゃん、あれ、温かいよ~。」と。そうなの? 

パンストかあ・・・。ちょっと、面白そう、と、初パンスト体験。

「おお、これは温かい! 素晴らしい!」

恐らく普通の男性がパンストを履く経験など、死ぬまでないでしょう。ないでしょう。死んでも、履かないでしょう。私のおじいちゃんも履いてないし、父親も兄も弟も、一族郎党、パンストを履くオトコはいないでしょう。

でも、一度履いてみると、良い。試してみると、感動極まり。ユニクロのヒートテックばりに、温かい。女性の洋服って、不思議。ってことで、冬はパンストを装着して潜り込む。

・・・・・・そんな、冬のある日、彼女のお母さんが上京するという。お母さんは、私と彼女が付き合っているのを知らない。一人娘に用意した準備万端、完全防御、難攻不落の男子禁制マンションに、女装した彼氏が日々通っていることを知らない。夢想だにしない。お母さんはしばらく彼女のマンションに泊まり、東京観光をするというので、私はしばらく待つことにしたのだが。

「お母さんと、マンションに一緒に侵入しない?」

お母さんが上京して数日後、彼女がまたもや阿呆なことをぬかす。彼女は母親に私を〝親しい友人〟と紹介し、たまに女友達数人とともに、〝オンナの私〟がマンションに潜り込んでいることを話した。すると、お母さんは大いに面白がり、是非、私の侵入現場、言うなれば、女装した阿呆な男子大学生を見てみたい、と、なったそうだ。ほぼ、余興・・・。

私は彼女のお母さんに初めて会うことになった。場所は、彼女のマンション近くの、夜の空き地。ああ、どうも、初めまして・・・、という挨拶もそこそこに、私は慣れた様子でスカートを履き、イヤリングを耳につけ、ハイヒールを履いて、オンナに変身。お母さんは感心したように私に見とれ。

その晩、お母さんと、彼女と3人でお泊まり。非常にユニークなお母さんで、気も若く、まるで友達のような感じでお酒を飲み飲み。わはは、そうよね~、おほほ・・・、私はあくまでも彼女の親しい友人であり、決して彼氏ではない、ということが、お母さんをいたく安心させたようだ。彼女は母親に「彼氏はおらへん」と語っていた。

やがて彼女はウトウトし始め、そこから私とお母さんはふたりで話し込む。お母さんは眠った娘の横顔を眺めながら、しみじみ言う。

「この子は大切な一人娘だからねえ、〝ヘンな虫〟がつかへんように、このマンションにしたんやわ~」

あ、お母さん・・・、すでに〝ヘンな虫〟が1匹、がっちりついてまっせ~、などと想いながら、私はしみじみビールを飲み飲み。

 

これから8年ほどの後、〝ヘンな虫〟であるところの私は、このお母さんに「結婚の挨拶」をすることになる。もちろん、スーツでばっちり決めて。

 

「こいつだけはアカン~! 嫌やわ~! アカンて~!」

 

お母さんは泣いて泣いて、必死に抵抗した。お母さん・・・、私は必要にかられて女装しただけですよ。ホンマ。安心してください、思いっきり肉食系男子ですわ。ホンマ。

(荒木News Consulting 荒木亨二)

*イオンの新規ビジネス花屋『ルポゼ・フルール』、ブランドプロデュース中

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