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地域の挑戦・国際交流で過疎を生き残る③――二本の腕

地域の挑戦・国際交流で過疎を生き残る③――二本の腕

高瀬 文人

フリーランスのライター/編集者/書籍プロデューサー。 月刊総合誌や『東京人』などに事件からまちの話題、マニアックなテーマまで記事を発表。生命保険会社PR誌の企画制作や単行本の編集も行う。著書に鉄道と地方の再生に生きる鉄道マンの半生を描いたヒューマンドキュメント『鉄道技術者 白井昭』(平凡社、第38回交通図書賞奨励賞)、ボランティアで行っているアドバイスの経験から生まれた『1点差で勝ち抜く就活術』(坂田二郎との共著、平凡社新書)、『ひと目でわかる六法入門』(三省堂編修所、三省堂)の企画・制作。

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■SL列車に手を振ることから

 ふだん、福用駅にはSL列車が止まらない。

 だが、北五和(きたごか)自治会には「SL列車に手を振ろう」という運動がある。提唱者の鈴木嚝雄(ひろお)さんは、「SL列車のお客は遠くから来てくれる人。少しでもこの地域が好きになってほしい。それに、手を振るのはタダだし」と笑う。

 大井川鐵道のSL列車に乗っていると、沿線の人たちがよく手を振ってくれることに気づく。理由を聞くと、鈴木さんと同じことを語る人が多い。

 東日本大震災による放送中止で逆に脚光を浴び、「励まされた」と大好評だったJR九州新幹線全線開通のCMが示すように、列車の内と外で手を振り合う光景は、不思議と私たちの心に灯をともす。

■小さな集落が世界とつながったとき

 今までの交流会は、市の施設や、駅の特設舞台などで行われてきた。このような集落の公民館で、自治会主催の会は初の試みだった。

「あんな小さな集落で交流会なんて大丈夫なのか」

 などと、危惧する声もあったという。だが、しめくくりにみんなで福用駅まで歩き、通過する定期SL列車に手を振ったとき、国の違いを超えて、場は一体のものになっていた。

 最後の行事である記念写真。ここでちょっとした驚きがあった。

 そのときには気づかなかったが、東京に帰って撮影した写真をモニターに写し出したとき、私は北五和のみなさんの「こころ」を見た。

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 二本の腕が写っていた。

 日本とスイス両国の国旗が、きれいに写真に写るように広げられているのだ。

 誰か知らない、遠来の人に手を振ることと。相手の国旗と、自国の国旗を拡げること。それは、相手を尊敬し、自らの生き方にも誇りを持つことだ。

 言葉の必要のない国際親善の姿がここにあった。北五和の人たちから、私は大きな学びを得た。