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ブラック"企業"という捉え方で、ブラック"業界"問題から目を背けないで

»2013年8月13日
メディアとWebと人材と

ブラック"企業"という捉え方で、ブラック"業界"問題から目を背けないで

中嶋 嘉祐

理系学生向け就職情報誌『理系ナビ』初代編集長。ベンチャー2社で事業責任者として上場に向けて貢献するも、ライブドアショック・リーマンショックで未遂に終わる。現在はフリーの事業立ち上げ屋。副業はライター。現在は、MONOistキャリアフォーラムMONOist転職の編集業務等もお手伝い中。

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久々にブログ連続更新です。
今回もブラック企業をテーマにした投稿になります。

8月11日に開催された「ブラック企業大賞 2013」では、ワタミフードサービスに大賞という不名誉な賞?が与えられました。

ワタミは2008年に入社2カ月の社員が自殺したことで、ブラック企業として認知されたようです。問題外ですし、そのようなこと、人として許せません。

誤解を招く言い方かもしれませんが、ただ「ワタミ = ブラック企業」で議論を終わらせてしまうのは、どうかと思います。私は「ワタミ = ブラック企業」というよりも「飲食業 = ブラック業界」という問題の捉え方をするべきだと考えるのです。

◆ワタミでも同業他社と比べたらマシ!?

ワタミの渡辺美樹会長は、「ワタミ = ブラック企業」という批判に対して、1. 「離職率は同業種の平均離職率48.5%を下回り、ワタミは42.8%(全産業の平均は28.8%)」、2. 「平均年収は433万円で同業種の370万円を上回っている」、3. 「時間外労働時間は月平均38.1時間。三六協定の上限である45時間を下回っている」、4. 「メンタルヘルスの不調による休業・退職者の人数は低水準」と反論をしたそうです。

私には飲食業でバイトすらした経験がないので、ワタミや飲食業の実態がどうなのか、分かりません。ちょっと検索して調べてみたら、「バイトなどの非正規を除いた話ではないか」といった批判も見つかりました。そういった批判は見逃せないとしても、このワタミ・渡辺会長の反論を聞く限り、ワタミよりもブラックな飲食系の企業はたくさんありそう。「ワタミ = ブラック企業」と問題視するよりも、「飲食業 = ブラック業界」という論点を持つべきだと私は考えます。

◆ワタミが「ブラック」なのは、会社の問題というより業界の問題なのでは

飲食業では、食材費・人件費をそれぞれ売上の30%以内に抑え、食材費+人件費で60%程度にとどめておくことが経営の鉄則だそうです。

ワタミのような居酒屋チェーンで食事をすると、どこも驚くほど安いメニューです。切り詰められるところは切り詰めて、経営努力をしてその値段を実現しているはず。

家計で考えてみましょう。お給料の総額が減った(=メニューの料金を下げる)とき、真っ先に削られるのは旦那/子供のお小遣い(=社員の人件費)ではないですか? 食費(=食材費)は多少下げられるかもしれませんが、家賃・光熱費などはなかなか減らせません。

そう考えると飲食業でも、他店との価格競争に負けないためには、食材をケチる/安いが安心できない食材を使うか、人件費を減らす/スタッフ1人1人を少しでも長く働かせる方向の努力に向かうのが自然です。

もちろん、そうした安易な方向に走らず、最近話題の「俺の」社のように、別のアプローチで経営努力をするのがあるべき姿なのでしょう。でも、日本人の性なのか、こうした小さな改善を積み重ねて商品をよくする/値段を下げる方向の努力を、すぐに始めてしまいがちです。ですから、飲食業でスタッフがつらい思いをする、「ワタミ = ブラック企業」という批判を受けるのは、(経営者の力量不足/怠慢という面は確かにあるものの)個々の企業の問題ではなく、(避けられない)業界の構造的な問題だというのが私の立場です。

ちなみに虎の威を借りますと、過去に、ある飲食店オーナーさんのインタビュー記事を執筆したことがあります。その方も、飲食業界が若者にとって夢を持ちにくい/報われない業界になっているという問題意識を持たれていました。「ワタミ = ブラック企業」というよりも「飲食業 = ブラック業界」と考えるべきだという意見の方は、一定数はいらっしゃるのではないかなと思います。私の認識が正しいのなら、ワタミだけを批判していても、それは枝葉末節でしかありません。幹・根にある業界としての問題に目を向けるべきなのではないでしょうか。

※ 飲食業=ブラックと連呼してきましたが、十分な粗利の取れる高級店や、独自の仕組みで儲けられるようにしている企業もあると思います。十把一絡げにして、ご不快な思いをされた方がいらっしゃったら申し訳ございません。

◆「ブラック業界」は飲食業だけではない

ブラック業界は飲食業だけではありません。構造上、従業員がつらい目に遭うようになっている業界は他にもあります。介護職なんかも離職率の高い職業の代表格として言われていますし(最近、改善傾向にある/2極化している、というレポートもあるようですが)、ユニクロのようなアパレル販売職も立ちっ放しでつらいのに薄給だとも聞きます。

――と書いてきましたが「だからブラック業界は業界全体で反省して、労働環境を改善していくべきだ!」と大上段に振りかぶって訴えるのは、他の人に任せます。私のキャパシティを超えていますし、柄でもありません。

私が何よりも問題視しているのは、「飲食業、もしくは介護・アパレル販売職などに進むと、そのような未来が待っているリスクがある」ということを職業選択をする前に、情報としてちゃんと届けられているのか、という点。最近はキャリア教育に力を入れる学校が増えてきていると聞きますが、こうした知識・情報は学生に届いているのでしょうか。

「この業界・仕事はつらいけど、自分が本当にやりたい仕事だから働くんだ!」と覚悟を決めて就職しているのなら、何も問題はありません。「いろいろとバイトで仕事を経験してみて、楽しかったバイトを仕事にしてみたら?」と言われ、バイトと社員の違い、入社後に待っている将来の待遇などについて、無知なまま送り出されているのなら大問題です。大学でのキャリア教育については詳しくありませんが、もし、そうした状況があるのなら、こんなWebの片隅からでも私個人が問題意識を明らかにすることで、何らかの波紋が起こってくれなら、それ以上にうれしいことはありません。

というわけで、次回は気が向いたら&時間を作れたら、お金の話とキャリア教育の話について書いてみたいと思います。



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