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あまたの巨大生物が絶滅する中「ヘラジカ」が生き残り続ける理由

あまたの巨大生物が絶滅する中「ヘラジカ」が生き残り続ける理由

波多野 謙介

コラボリズム株式会社 代表取締役で文系プログラマー。超朝型へのスイッチで、仕事と家庭の両立を目指す二児の父。

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僕は「でかい生き物は絶滅しやすい」というイメージを勝手に持っています。

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Bigbullmoose. Licensed under Public domain via Wikimedia Commons.

なぜなら、でかい生き物は何か異変があった時に簡単に隅っこに隠れる事が出来ないし、たくさん食べないと生きていけないし、成長に時間がかかるから変化した環境に即応して進化する事も難しいし、なにより絶滅という文脈にセットで登場する事の多い「恐竜」という存在が、そのイメージを不動の物にしてしまっているように思うのです。*

そんなこんなで、多くの巨大生物が絶滅した今日、森を歩いていると突然、巨大生物と遭遇するという、夢とロマンに満ちあふれた体験などもうあり得ないのかと思うのですが、ところがまだまだ、元気に繁殖を続ける巨大生物が存在します。それは「ヘラジカ」です。

これはYoutubeにあったヘラジカの映像ですが、みてくださいこのサイズを。


周辺に大きさを比べるものが何も無いのに伝わってくるスケール感。もののけ姫感。素晴らしいです。あの武井 壮も野生のヘラジカと遭遇したことから百獣の王を目指したように、ヘラジカは一人の男の人生を変えてしまう位の存在なわけですよ。

車との比較でこの辺の写真もサイズ感がわかりやすいのでリンクを張っておきますけど、とにかく、嘘みたいにでかい。

これ程の巨大生物が今も生き残っており、フィンランドではヘラジカの増えすぎを狩猟枠を設ける事でおさえているという事例をなど見るにつけ、このヘラジカの「種」としての強さはなんなのか、と疑問が湧いてきます。

でかいものは絶滅しやすいというイメージ通りに多くの巨獣が絶滅していく中、ヘラジカがこれほど元気に生き残っている理由を探れば、巨獣に例えられる世の巨大企業が長きに渡って存続するためのヒントが得られるのではないでしょうか。

ということで、繁栄する巨獣ヘラジカが何故生き残り続けているのか調べてみました。

ヘラジカが生き残り続ける理由

1. 天敵がいない

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Canis lupus with radio collar by William C. Campbell
 Licensed under Public domain via ウィキメディア・コモンズ.

ヘラジカの天敵は主にオオカミとクマです**。しかしオオカミやハイイログマの生息数は低い水準が続いており、結果としてヘラジカには人間以外の天敵がほぼいない状態になっています。常に注意すべき捕食者がいない環境では、ヘラジカの行動範囲は広がり、食料の確保も容易になるため、個体数が減りにくくなるだけではなく「増えやすくなる」効果が生まれます***  

2. 密猟されにくい

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Elephas maximus (Bandipur)  Licensed under CC via Wikimedia Commons.

象やサイ、虎などは象牙や角、毛皮などが高く売れるため、密猟によって種の存続が脅かされています。ヘラジカは角や肉、毛皮が販売はされるものの、特別高額で取引される訳ではないので、密猟の被害にあいにくい****状態であると言えます。

3. 水草を食べる

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ElodeaNuttallii Aspect by Christian Fischer Licensed under CC via Wikimedia Commons

ヘラジカは泳ぎが得意で、時には6mも潜って水草を食べるそうです。大量の食物を必要とする彼らにとっては食料をいかに確保するかが生存戦略上大変重要ですが、水草のように繁殖力が強く他の陸上動物が食い荒らす事の少ない存在を食料として計算できることは、彼らにとってかなり有利に働いていると思われます。


4. 鹿はもともと凄く増えやすい。

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Wapiti 16531. Licensed under Public domain via ウィキメディア・コモンズ.

身も蓋もない理由ですが、実はこれが一番の理由かも知れません。鹿というのは、もともととても増えやすい動物らしいです。オオカミのような天敵がいる場合は自然にバランスのとれた個体数に収まるようですが、一度天敵がいなくなると餌になるものを食べつくしながら猛烈な勢いで増えていきます。以下は産経ニュースの「ソロモンの頭巾」という記事の抜粋ですが、これに限らず鹿の増えすぎによる獣害の話は、探せばいくらでも出てきます。

 ニホンジカの増え方は、すごい。平成2(1990)年ごろ50万頭だったが、現在は260万頭にまで増えていて、37(2025)年には、その2倍の500万頭になると推定されている。防護の柵やネットを張り巡らしても防ぎきれない。

 

以上、4つほど理由を挙げてみましたが、結果としては企業の生き残り戦略には特に参考にならないという感じですね。無理やりビジネスに繋げようとしたところが今回の敗因でしょうか。

ただ、水草を食べるとか、高い金銭的価値を持たないというのは、そこはかとなくブルーオーシャン戦略的なものを感じさせますから、感度の高い皆様であれば、このヘラジカという動物の生き様から、何か感じるものがあるのではないかと、大切なのはどう感じるかなんだと、そんな風に思いました。

どちらにせよ、でかい生き物というのは本当に魅力的です。
好きだ、巨大生物。



補足

世の中のほとんどが小さい生き物である事を考えると、一握りしか居ない巨大生物が絶滅しやすいというのはフェアな比較にはならないのは確かではあります。

** 参考:ヘラジカvsヒグマ

キナイ半島での調査ではヘラジカの新生児の主たる捕食者はアメリカグマであった。 アメリカグマは発信器付きのヘラジカの幼獣の34%を殺していた。 ヒグマとオオカミは各々6.4%であった。 キナイ半島とは異なり、Nelchina Basinでの調査ではヘラジカの幼獣の主たる捕食者はヒグマであった。 またLykkeとCowanの1968年の報告では、ヒグマは幼獣だけでなく雄と雌の全年齢のヘラジカを殺せると示されている。 以上、Franzmannの1981年の論文による。

*** 参考:No.127 - 捕食者なき世界(2):クラバートの樹:So-netブログ

頂点捕食者は、「捕食」という行為そのものもあるが、「恐怖」によっても被食者をコントロールしている

**** 個体数が少なくなってくると希少価値が出てくるので、その毛皮や角が高額で取引されるようになり、結果として密猟の被害に合いやすくなる可能性はありますね。