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Google日本語入力の快適さ加減

Google日本語入力の快適さ加減

波多野 謙介

コラボリズム株式会社 代表取締役で文系プログラマー。超朝型へのスイッチで、仕事と家庭の両立を目指す二児の父。

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一昔前、日本語ワープロソフト市場ではマイクロソフトの「Word」と、ジャストシステムの一太郎による互角のシェア争いが繰り広げられていました。それに伴い日本語入力ソフトもマイクロソフトIMEとジャストシステムの「ATOK」に二分されていており、やはり変換ソフトはATOKでなければという人もかなりたくさんいて、その頃のPCユーザーの多くは今よりも「入力ソフト(IME)」を意識していたと思います。

しかしその後、マイクロソフトWordが日本語ワープロソフトのデファクトスタンダードとしての地位を確立するにつれ、またマイクロソフトIMEの変換精度が高まり特に不便を感じないようになるにつれ「IMEに選択肢がある」という事そのものを忘れたまま、ここ数年を過ごしてきたように思います。

GoogleGoogle / Daniel Morris

僕にとってIMEが複数ある、というのを再度意識するようになったのは「Googleから日本語入力ソフトが出た」というニュースを聞いた時ではなく、OSをWindows7にして「Microsoft Office IME2007 」を使いはじめてからです。

ここ数年間、僕にとってIMEとはマイクロソフトIMEを指すものでした。大部分の人にとってそれは僕と同じだと思いますし、パソコンに詳しくない人はなおさらです。Google日本語入力がリリースされたからと言ってわざわざインストールしてまで試してみる気も起こりません。日常的に使うものだけにちょっとでも使い勝手が違うと面倒ですし、少しくらい変換候補が早く出たところでそれがどうしたん?って感じです。

一部の好きな人が使うんだろうなー、 Googleの20%ルールってほんと利益度外視だなースゴイなー、と思ってたんですが、Windows7を導入にしてからは漢字変換で「Enter」キーを押すたびに時間が止まり「予測変換」はTabキーを押さないと候補を表示せず、OSを再起動するたびに予測辞書の記憶が消えるのがデフォルトという仕様にもがっかりして、ふと思い出したのがGoogle日本語入力だったという訳です。

Google日本語入力の快適さ加減

まだ若いソフトですし、最初はあまり期待せずにとりあえず少しでも早いといいなと思って使い始めてみたのですが、これはもう本当に、本当に早いです!「Enter」キーを押すたびに感じていた引っ掛かりはまるで無くなったのは当たり前ですが、加えて変換候補が出るスピードが恐ろしく早い事で体感的な速さが倍増しています。この文章もGoogle日本語入力で書いてますが、キータイプする毎にクルクルと候補が表示されて目では追いきれないほどです。目で追いきれないので「あっ!候補があった」と思った頃にはもうその候補が表示されないほどに入力が進んでいて、正直予測の恩恵はあまり受けてはいません。

google_ime1.jpg
しかし「辞書を引いている時間ゼロ」でクルクルと表示される予測候補を見ていると予測の恩恵を受ける、受けないに関わらず「候補はあるのにストレスは無い」事に対する満足感が感じられます。「予測の機能は活用してないけど俺はいつでもこれを使えるのだ」といった満足感とでも、言えるでしょうか。

ただし、使い始めて少しの間はこの候補がクルクル表示されるのがうっとうしくも思いました。候補が表示されているのに気づいたときには先に進んでしまっているので、いちいち1文字削除してもう一度候補を表示させたりしていましたが、Google日本語入力を使う場合はその辺の割り切りが必要です。僕の場合は「予測は基本無視する」というポリシーで、たまたま手が止まったときに候補に出てればラッキー、とか、片手で何か食べながら行儀悪く文章を打ってる時に出てくる変換がスゴイ便利とか、おまけ的に使用することがうまくいく付き合い方になっています。

もっと強者であれば、わざとタイピングを遅くして予測を積極的に利用するようにタイピング手法を進化させるようなやり方もあるかも知れませんので、興味のある人はGoogle日本語入力をインストールして、付き合い方を考えてみてください。

ちなみに変換精度はマイクロソフトIMEの方が良好です。単語の精度は個人的に不便を感じないレベルですが、長文になると接続詞を思ったように変換してくれないように思います。それから予測の候補には自分が入力した事の無い単語も出てきます。Googleの検索辞書の影響があるため結構時事ネタとかマニアックな内容も多いです。打ったことのない芸能人の名前もこの通り勝手に予測。

google_ime2.jpg
「ルー大柴」以外にも候補があるのがなんだか驚きです。携帯の予測変換では使った事のある単語しか表示されないため、ダンナが浮気していないかを携帯の予測変換で調べるという調査手法がありましたが、Google日本語入力をその前提で使用されるとあらぬ疑いをうけることになりますので妻にはよく説明しておく事が必要です。またブレゼンの際のデモ入力などで使用していて自分が入力した事も無いマニアック単語が出てくるとちょっと気まずい感じになりますから、気になる場合はその時だけIMEをマイクロソフトIMEに切り替えておきましょう。

突如としてゲームのルールは変わる

僕にとってはマイクロソフトIMEがXP時代の快適性を保ってさえくれていればわざわざGoogle日本語入力を試す事も無かったわけですが、Windows7で使用した新しいIMEの変換速度が思ったより悪く、仕方なく使ってみたGoogle日本語入力が想像以上の快適さだったのでこちらを継続して使うことになりました。

ただ、マイクロソフトからしてみればこのような事が起こってしまうのも無理からぬ事ではあります。普通に考えて「日本語」というローカルな市場のみのために多大なコスト負担をかけてIMEを開発するような競合が出現することは想像できません。あるとすればワープロを開発していたジャストシステムような会社ですが、ワープロソフトのシェアはマイクロソフトが押さえてしまい、事実上考えられる競合はいなくなりました。更にはWindowsにおけるIMEは成熟したソフトで機能を見直す余地は少なく、マイクロソフトとしてここに力をいれる必要は特に無かったであろう事は簡単に想像がつきます。

しかし、GoogleにはIMEを開発する必要性がありました。Google日本語入力とはバラバラにアナウンスされているため目立ちませんが、GoogleのOS「Chrome OS」に搭載するためです。Chrome OSはLinuxをベースとして開発されているのでフリーで利用可能なIMEを利用するのが普通ではありますが、IMEという目立たないながら使い勝手に直結するソフトのバージョンアップや機能改善を、自分でコントロールできるようにしておきたかったのでしょう。IMEのような縁の下の力持ち的な存在を真剣につくり込む所を見ると、GoogleがこのOSに賭けている本気さが伝わってくるように思います。

巨大なシェアを握っている存在が周りを見なくなった瞬間に、突如としてゲームのルールが変わる、 これはまさに「イノベーションのジレンマ」ですよね。 マイクロソフトはGoogleに脅かされ、GoogleはFacebookに脅かされ、どんな巨大な存在となっても生き残りのためのバトルは続いていきます。

そんな事を、こんなちょっとしたIMEの切り替え話からも考えさせられました。