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儲からない歯医者さんの思い出
»2012年4月 4日
本当は面白い、BtoBソフトウェアベンダー生活記
儲からない歯医者さんの思い出
コラボリズム株式会社 代表取締役で文系プログラマー。超朝型へのスイッチで、仕事と家庭の両立を目指す二児の父。
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お医者さんと言えば、激務ではあるけれどもお金持ちで、自宅には高級車が数台あり、たまの休みの日には地元財界の仲間達とゴルフに興じているといった華やかなイメージばかりが思い浮かぶものですが、ふと唐突に「儲からない歯医者さん」の事を思い出したので書いてみようと思います。
まだ僕が東京で働いていた10年近く前、僕は初めて故郷の行きつけの歯医者さん以外にかかる必要に迫られました。歯の詰め物が外れたのです。
たかが詰め物とは言え、始めての歯医者さんにかかるのは不安なもの。僕は信頼できそうな歯医者さんをインターネットを使って探し、少しでも安心を得ようとしました。
しかし10年前と言えば、まだ32Kモデムでピーコロコロとネットに繋ぐような時代。ホームページを出している歯医者さんはそもそも少なく、あったとしてもたいしたコンテンツは無く。しかし僕はどこをどうやってか「M歯科」のホームページに辿りついたのです。
それは今でいうブログのようなもので、医師のO氏自身がエッセイ的に、治療に関する事や、医師になった経緯などを書いておられたのですが、そのきっぱりとした、歯切れの良い治療に対する考えと論理は、理屈先行型の僕を信頼させるに十分なものでした。
これだ!と勇んだ僕は早速M歯科に電話し、受付の人に状況を伝えて、予約の日があまり先にならない事を祈りながら保留を待っていると、いきなり先生が電話越しに登場しました。そして痛みはあるか、いつ頃に詰めた詰め物かなどの簡単な問診を行った後に「うーん、仕方ねえなあ。今日19:30くらいに来なよ」と即決で診療時間外の予約をとってくれたのです。これにはびっくりしました。
でも儲からないらしい
到着してみると、M歯科は想像以上に小さく、設備も古い感じでしたが「いらっしゃい!」とべらんめえ口調で登場した先生はホームページを読んで僕が想像していた通りの人で、古い設備も見栄えよりも実質にこだわってる感じがして、むしろ好感がもてます。治療自体はテキパキと進み、アマルガムをギュッギュッと詰めて削って、噛み合わせを非常に丁寧にみてもらって完了。(個人的には噛み合わせを重視する歯医者は信用できると思います。)
治療後にはもう患者さんもほとんどいなかったので、少しの間世間話をしました。この歯科にかかれて本当によかったと正直な感想を話すと、先生は嬉しそうにしながらも「でもなあ、儲かんねえんだよなあ~。どうやったら客来るかな?」と言います。
そうです。M歯科は「儲けたいけど儲からない」歯医者なのです。この先生は患者を「客」として扱います。「医は仁術」だから時間外の診療をするのではなく、困っている患者さんに親身に対応して、技術的にも信頼出来る治療をする事でリピーターにになってもらい、利益率の高い自費の治療をしてもらったりして、長期でみて儲けを生むという、彼なりのビジネスモデルがこのサービスの源泉なのでした。
僕はこの歯科にホームページ経由で来院した事を伝えて、ホームページの閲覧数を増やす対策をしてみたらどうか、というような事を言うと、ホームページも文章以外は患者さんが好意で作ってくれたらしく、よくわからないとの事。じゃあ、という事で、僕も時間外に診てもらったお礼を兼ねて少し協力する事にしました。サイトをYahoo!に登録申請する事にしたのです。「登録しときますよ」「サンキュー頼むわ」という感じでメールアドレスを交換しました。
その後Yahooへの登録申請を行って、それを先生に報告して、お礼の返信が来てと、少しだけメールのやりとりをしましたが、ほどなく僕は実家に帰る事になったので、結局その一回きりしかM歯科に行く事はありませんでした。しかし東京に住み続けていたら、今でもその歯科に通っていると思います。とても印象的な出来事でした。
そして今・・・
10年経った今、このエントリーを書くにあたって久しぶりにホームページを覗いてみました。潰れてないかちょっと心配しながら・・・
すると「儲からない歯科」M歯科は、予想に反して結構儲かってました。なんでそんな事がわかるかと言うと、売上がホームページで公表されているからです。そんな事する歯医者いないよ・・・ほんと、相変わらず変わってるなあ。
とりえあず「儲かる」ようにはなったM歯科ですが、ホームページにはあの頃のようにエッセイが載っていて、ポリシーも載っていて、患者を「客」と呼び、医療をサービス業ととらえる本質的な精神は変わっていないようで嬉しいです。地道なサービスを続けることで「ビジネス」を軌道に載せたM歯科に、拍手を送りたいと思います。
ちなみにこの「M歯科」は「三ノ輪歯科」という歯医者さんです。
興味のある人は行ってみても良いかも知れません。
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