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「今の会社に一生」に込められた2つの思い

「今の会社に一生」に込められた2つの思い

和田 実

クレイア・コンサルティング株式会社 コンサルタント。 人事・組織を専門領域とするコンサルティングファームで、日々コンサルティングに没頭しています。

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少し前の記事になりますが、日本経済新聞に『新入社員、6割弱が「終身雇用」を希望安定志向が鮮明に』という見出しの記事が出ていました。読まれた方も多いと思いますが、皆さんはこの記事にどのような印象を持たれたでしょうか?
(この記事は、4月21日に(財)日本生産性本部から発表された「第21回2010年度新入社員意識調査」に基づく内容です。詳しく知りたい方はこちらも併せてご覧下さい)

私は、この記事を読んで、2つの見方ができると思いました。一つは本当に今年の新入社員が「今の会社に一生勤めたい」と思っている、という見方。そしてもう一つは"願わくば"「今の会社に一生勤めたい」が、本心はそれは叶わないと思っているのではないか、という見方です。

一つ目の、本当に「今の会社に一生勤めたい」と思っているのではないか、というのは、今年(2010年入社)は例年に比べ大卒求人倍率の落ち込み以上に就職内定率が低い、即ち企業側がより学生を厳選して採用を進めた年であり、企業側だけでなく厳選された学生側にとっても、本当に自分がそこで力を発揮したいと思える会社へ入れたのではないか、という理由からです。
(大卒求人倍率はワークス研究所「第26回ワークス大卒求人倍率調査(2010年卒)」、 就職内定率は厚生労働省「平成21年度大学等卒業予定者の就職内定状況調査」に 詳しく掲載されています)

1990年代初めの、選ぶ側も選ばれる側も深く考えず大量採用が行われたバブル入社組、あるいはその後の求人倍率が1倍を切った就職氷河期世代は、いずれも頭数をそろえることを優先されてきており、必ずしも望んでいない会社に入った人も多かったのではないかと思います。そうした人が多ければ、「今の会社に一生」と思う人よりも「機会があれば転職したい」と思う人のほうが必然的に多くなるのではないでしょうか。

しかし、今年は単に頭数をそろえるためではなく、「企業を引っ張っていける優秀な人材しか採らない」というくらいの厳しさで採用活動を行った企業も多かったと聞きます。
このように企業側が長期的に自社に貢献できうる人材を見極めようとし、学生側も採用段階からそのように意識付けされてきているとすれば、今までよりも「今の会社に一生」と考える人が多くなるのも、当然といえば当然のような気もします。

それではもう一つの、願わくば「今の会社に一生勤めたい」が、本心はそれは叶わないと思っているのではないか、と考えたのはなぜかというと、高度成長期の終身雇用が当たり前と思われていた時代はほとんどの人が「今の会社に一生勤めたい」と思っていなかったことが同調査(生産性本部「'働くこと'の意識」調査)から明らかになっているためです。
(この内容は大原社会問題研究所にて掲載された論文「日本人の労働観-意識調査にみるその変遷」(清川雪彦・山根弘子)p28のグラフにわかりやすくまとめられています)

終身雇用が当たり前の時代は「脱サラ」という言葉が流行したことから象徴されるように、終身雇用のありがたみよりも会社に所属しないことのあこがれのほうが強かったのではないかと思われますが、終身雇用が崩壊し雇用情勢がこれだけ不安な時代になってくると、願わくば今の会社に一生勤めたい、しなくていい苦労はしたくないと考えるのが、人間の性なのではないでしょうか。

個人的には一つ目の理由で、前向きに「今の会社に一生」と思ってくれている新入社員が多いといいな、と思うのですが、20代の転職率が年々上がってきているという調査結果もありますので、やはり実態としてはそれほど甘い見通しを持っている若手は多くないのかもしれませんね。
(転職率の推移は、(独)労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計 -労働統計加工指標集-2010」(Ⅱ-11-1.転職率)に詳しく掲載されています)

身近に新入社員が入ってきた方は、是非「今の会社に一生」と思っているのか、思っている場合はどのような理由でそう思うのかを、直接聞いてみてはいかがでしょうか。