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書評:『都市の誕生: 古代から現代までの世界の都市文化を読む』
»2013年10月 9日
ライフネット生命会長兼CEO 出口治明の「旅と書評」
書評:『都市の誕生: 古代から現代までの世界の都市文化を読む』
ライフネット生命保険 代表取締役会長兼CEO。1948年三重県生まれ。京都大学を卒業。1972年に日本生命に入社、2006年にネットライフ企画株式会社設立。2008年に生命保険業免許を取得、ライフネット生命保険株式会社に社名を変更。
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P・D・スミス (著), 中島 由華 (翻訳)
旅の楽しみの極みは、初めて訪れた見知らぬ街を当てもなく彷徨い歩くことに尽きる。「迷子になることは、都市を本当に体験する唯一の方法なのだ。」 著者は、「この本は、自分の好きなページから読んでもらいたい」と、まえがきで述べる。8章から構成されたオムニバス映画のような本書は、読者を積極的に迷子に誘うのだ。「迷子になることは心配しなくてもいい」と。
「第1章 到着」では、アステカ帝国の湖上の都市テノティティトランが、突然、眼前にその優美な姿を現す。「第2章 歴史」は、もちろん都市を発明したシュメールから始まり、ルネサンスの画家、フラ・カルネヴァーレの「理想都市」も紹介される。「第3章 習慣」では、筆記やカーニバルや神の家(聖都)が取り上げられる。「第4章 滞在」では、ホテルが(スラム街も)、「第5章 町をさまよう」では、地下鉄等の交通手段が、「第6章 マネー」では、市場・交易からスリや百貨店まで言及される。「第7章 余暇」では、アッシュールバニパル王立図書館が「知の都市」の冒頭に置かれ、ローマの剣闘士とロンドンのマラソンランナーが対比される。まるで万華鏡を見るようだ。
そして、巻末の「第8章 都市を超えて」では、下水からエコシティ、未来都市へと進むが、最後は意外にも廃墟という小見出しが付けられており、巻末の一文は、こう結ばれている。「都市の廃墟はわれわれに貴重な教訓を伝えてくれる。『我々の生命が何からできているのか、われわれが死のなかからどのように復活するのかを示してくれる』のである」。なお、世界中で都市化が進んでいるが、都市は「気候変化の問題を解決に導く手段の一つとして考えるべきである」「実は、ひとりあたりの二酸化炭素排出量は田園地方のほうが高い」のだ。
都市論と言えば、学生時代にマンフォードの「歴史の都市明日の都市」や、ジェーン・ジェイコブスの「アメリカ大都市の死と生」などを夢中で読んだ記憶があるが、本書はとても気楽に読める都市のトリビアの泉である。ただ、惜しむらくは、西洋の著者によくありがちなことではあるが、東洋の知見に乏しいことだ。著者が例えば「東京夢華録」を読んでいれば、それだけでも本書はさらに輝きを増したであろう。