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書評:『問答有用 ― 中国改革派19人に聞く』
ライフネット生命会長兼CEO 出口治明の「旅と書評」
書評:『問答有用 ― 中国改革派19人に聞く』
ライフネット生命保険 代表取締役会長兼CEO。1948年三重県生まれ。京都大学を卒業。1972年に日本生命に入社、2006年にネットライフ企画株式会社設立。2008年に生命保険業免許を取得、ライフネット生命保険株式会社に社名を変更。
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『問答有用 ― 中国改革派19人に聞く』
吉岡 桂子(著)
あなたが、隣人にどうしても馴染めないのなら、引越せばいい。しかし、昔の遊牧民ならいざ知らず、国は引越すことができない。どこかで、折り合いをつけるしかないのである。中国で過激な反日デモに遭遇した記者(著者)は問う。「日本のなかに根強くあった中国に対する『脅威論』と『崩壊論』に、無視を決め込む『消去論』までじわじわと広がる・・・『反日』のこぶしをふりあげて想像を超えた暴力を働く隣人を、頭と心から消し去ってしまいたくなる・・・だけど、それで良いのだろうか」と。そこで、著者は、二つのルールを決めて、インタビューを開始する。第一線で活躍している専門家でかつ中国の弱点を率直に話してくれる人、日本の専門家でない人。こうして、著者は19人(うち半分強は共産党員)のインタビューをなし終えた。本書は、その記録である。
読み始めて、正直なところ、びっくりした。要人にも係らず、あまりにも、率直な言説が次から次へと現れるからである。
「戦後、民主的で平和な国を目指すと決めた日本は、アジアに安定をもたらしました。自由で豊かな社会を戦争で犠牲にすることは難しい。中国も同じです。中国が日本のように自由で、ミドルクラスを多く抱える国になっていくことが、日本にとって長期的な安全保障となるはずです。」
「客観的にみて米国は依然として最も強い国です。科学技術や文化の影響力だけでなく、開放的な国民性が世界中から人材をひきつけています。金融危機のあと、先進国の経済は難しい時が続いているなかでも、米国は相対的に回復が早い。人口構成も先進国のなかでは若く、移民も受け入れており、活力がある」
「中国経済の本当の心配は目先の成長率ではありません。豊かでないのに高齢化が進む『未富先老』のなかで、成長を持続させ、公正性の高い社会の基盤を整えられるかどうかです」
言論の自由についてのコメントも、とても興味深い。
「中国で一夜にして西洋と完全に同じような言論の自由は手にできない。そんなことがわからないほど、私たちは幼稚じゃないわよ・・・圧力も試練も困難も多い。だからこそ、中国の記者はエキサイティング。歌や絵なら特別な才能がいるけど、記者には天才はいらない。好きで情熱があればいいんだから、すばらしい仕事だと思う。お金はもうからないけれど、ね。」
「(ネットのコントロールは)できませんね。何かを知りたい、誰かとつながりたい、というのは人間の本能です。政府がいくら監視をしてもくぐり抜けようとする動きはやまないでしょう・・・毛沢東の時代には戻れませんよ」
また、アップルを動かした環境NGOの代表はこう語る。
「中国に進出する外国企業は、多かれ少なかれダブルスタンダードです。母国や先進国の工場では、環境や労働問題に厳しく対処しているのに、中国では違う行動をとることもある・・・中国は自らが長く成長を続けるためにも、いまのようにエネルギーを浪費し、水や空気を汚す状況を変えねばなりません・・・市場だけでは解決できないことを、ステークホルダーを動かして変えていく。それが我々NGOの役割であり、その原動力が情報公開だと考えています」
このほかにも、「市場化と民主化は表裏一体・・・自由や平等、民主や人権といった価値観に裏打ちされた社会のほうが、経済は発展しやすいのです」「短期的な政策目標にしばられて中央銀行を動かすと、長期的な国家戦略には不利益になります」「(中国経済にとって最大のリスクは)都市と農村の二元構造です。これをうまく解決できれば、中国経済の問題の半分は片づいたと言えるほどです」など、本音が赤裸々に語られ、枚挙に暇がない。もっと違う声が中国にもある、ということが、よく分かった。
僕は、中国は、始皇帝が描いたグランドデザインのまま現在に至っている、と考えてきたが、同じような声にも出会った。「中国は数千年にわたって皇帝権力が独裁で統治してきた伝統があります。人々はあらゆる自由を皇帝へ差し出さなければならない前提です。それを官僚が支えてきた。いまの共産党による統治もその連続のなかにあり、あらゆる権利は国家が持っていることになっています」
中国人民銀行の副総裁は述べる。「なぜ、中国と日本の人々は感情的にぶつかりあっているのか。お互いにもっと成熟し、理性をもって交流し、理解しあい、信頼しあうことが非常に大事だと思うのです・・・小さなことでも自分ができる具体的なことから始めたい」と。本書を読んで、中国とお互いの未来を議論することは、決して不可能ではないと、改めて気付かされた。「中国の歴史をみると、国を開放した時代のほうが栄えている」(山東省長)。お互いの国を開放しあう未来に興味のある人には、ぜひとも読んで欲しい1冊だ。両国関係が冷え込んでいる最中、まことに時機を得た出版だと、著者を含めた関係者に深く敬意を表したい。
おそらく、このブログが、2013年の最後になると思います。4月から、拙い書評を読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました。来年も、よろしくお願いします。
皆さん、どうか良い新年をお迎えください。