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書評:『総力戦 (現代の起点 第一次世界大戦 第2巻)』
ライフネット生命会長兼CEO 出口治明の「旅と書評」
書評:『総力戦 (現代の起点 第一次世界大戦 第2巻)』
ライフネット生命保険 代表取締役会長兼CEO。1948年三重県生まれ。京都大学を卒業。1972年に日本生命に入社、2006年にネットライフ企画株式会社設立。2008年に生命保険業免許を取得、ライフネット生命保険株式会社に社名を変更。
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『総力戦 (現代の起点 第一次世界大戦 第2巻)』
岩波書店
このほど、岩波の「現代の起点 第一次世界大戦」全4巻が完結した。第1巻は世界戦争、2巻は総力戦、3巻は精神の変容、4巻は遺産、と名付けられ、夫々約10編の論文から構成されている。今年はサラエボの銃声からちょうど100年、いかにも岩波らしいオーソドックスな取組である。各巻ともとても面白く、改めて大変勉強になったが、ここでは主に「第2巻総力戦」を取り上げたい。
第一次世界大戦は、前線と銃後の区別をなくした初の総力戦であったとよく言われるが、アメリカを除くと両陣営の総力は1913年の時点ではかなり均衡していたことがよく分かる。
また、この表を見ると、突出した国力を持つアメリカが連合国側についた時点で勝敗の帰趨が決着をみたこともよく分かる。第一次世界大戦は、死者数においてもこれまでの戦争とは文字通り桁違いである。フランス革命&ナポレオン戦争の約440万人に対して第一次世界大戦は約2,600万人(因みに第二次世界大戦は約5,000万人)しかもその半数は文民であった。
私たちは、第一次世界大戦と言えばレマルクの名作「西部戦線異状なし」を想起する。本書では、2人の兵士が取り上げられる。西部戦線で死んだアイルランドのナショナリスト、ウィリー・レドモンドと、バルカン戦線で戦った英国の女性兵士フローラ・サンデスである。2人は大戦をいかに戦ったのか。第1巻ではインド人兵士、第3巻では兵士としてのマルク・ブロックが描かれているが、英独仏を主軸としたヨーロッパの戦争でありながら、ありとあらゆる人々が全世界から動員されたのである。大戦の遺産が世界に波及するのはけだし当然であろう。日本も参戦し、中国との長い確執のスタートとなる21か条要求を行っている。
キケロによれば、戦争の鍵を握るのは「尽きることのないカネ」であった。戦費は英国の192億ドル、ドイツの186億ドル、アメリカの122億ドル(うち貸付金97億ドル)、フランスの101億ドルと続き、総額では両陣営合わせて806億ドルに達する(これは歳出総額の6割強を占める)。戦費の財源をみると、公債がほとんどである。戦費の長短公債依存率は英国で69.2%、ドイツ81.1%、アメリカ79.5%、フランス76.1%となる。大戦は「公債の民営化」によってはじめて継続可能となったのであり、一般の人々は小口化された公債を銀行や郵便局の窓口で購入したのである。
このシリーズでは、論文と論文の間にいくつかのコラムが挟まれている。たかがコラムと言うなかれ。とても面白くかつレベルが高いのだ。例えばゴータ爆撃機。ゴータという町で作られたドイツの双発の爆撃機がロンドン空襲を初めて成功させた。その約1か月後、ドイツに起源を持つ英国の王室は(ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世は英国のヴィクトリア女王の直孫)、家名をそれまでのザクセン=コーブルク=ゴータ家から現在のウィンザー家に変更したのである。何という早業。あるいは適応力。歴史は本当に面白い。第1次世界大戦に興味を持つ全ての人に読んでほしい4巻シリーズだ。