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「デジタルコンテンツ白書2011」音楽篇を執筆しました。 〜日本の音楽ビジネスの現状と課題〜 (前篇)
コンテンツとメディアの近未来
「デジタルコンテンツ白書2011」音楽篇を執筆しました。 〜日本の音楽ビジネスの現状と課題〜 (前篇)
山口哲一(音楽プロデューサー)と、ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)によるプロデューサー・ユニット。インターネット上のソーシャル・マーケティングを実践的に研究。エンタメ・コンテンツとソーシャルグラフの関係を分析し、具体的なプロデュースワークにフィードバックする活動を行っている。2011年に『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)を刊行。 2012年4月よりトークイベント『sensor 〜it&music community』を開始。毎月完売の人気イベントになっている。 https://www.facebook.com/happydragon.page
当ブログ「コンテンツとメディアの近未来」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/happydragon/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
私が書かせていただきました。
白書は値段が高いので(12,600円)気軽に、買って下さいとは言いにくいですが、
会社の資料費に余裕がある方は是非。もしくは、図書館等でご覧になってください。
ここでは、概要をご紹介しますね。
まず、全体の要約です。
CD売上げの減少は止まらないが、世界的な潮流と比べれば緩やかである。
好調に売上げを伸ばしてきた携帯向け音楽配信が下降に転じ、新たなビジネス
スキームの構築が必要になっている
一方、ライブ・エンタテインメントの着実な伸びや海外でのJポップ人気、
「同人音楽」の台頭など、希望を持てる現象もある。
産業構造やメディアの役割が変わる、新しい時代環境に適した音楽業界の
あり方が問われているのではないか?
こんな風にまとめてみました。
音楽ビジネスは、インターネットの登場以来、デジタル化の洗礼をいち早く受け
続けている歴史があります。
音楽業界の現状と課題、近未来予測は、他の業界にも応用可能な、参考になる事象
では無いでしょうか?
残念ながら、ジャーナリストや評論家の方の音楽業界論には、日米をごっちゃに
したような、調査分析不足の内容が見受けられます。
まずは、正確な把握から始めましょう。
●粘り強い日本のCDビジネス
<図表4-4-1>
ところが、<図表4-4-2>
2008年に日本は米国を抜いて、世界一のCD大国になっています。
表にはありませんが、2011年度も同年前月比を上回る売上が報告されています。
業界関係者が語る「日本人の国民性がパッケージ好き」という意見には、私は安易
に同調しませんが、丁寧なジャケット制作や特殊パッケージなどは日本独自のノウハ
ウだなと思います。
粘りの理由は、再販制度(定価で売ること)と特約店制度(CD専門店とレコード
会社の排他的な契約)だと思います。全国規模のCD専門店がある国は、既に日本だけ
です。
例えば米国は、アマゾンとウォールマートで、セレクトショップ的にCD店は点在して
いる状態ですが、これは世界的な傾向です。
●たこ壷化したCDシングル市場とオリコンチャートの形骸化
<図表4-4-3>
「嵐」と「AKB48」の2グループで占めたことは、マスコミでも話題になりました。
CD市場が全体的に地盤沈下したことで、発売週に確実に購入する固定ファンを持つ
アーティストがオリコンチャートの上位を占めるようになっていますが、シングルに
おいては、顕著です。「嵐」は音楽配信を行わないなどの方針、「AKB48」は、イベン
ト連動させた、「複数枚売り」(ユーザーに同じCDを何枚も買わせる手法)の施策を
徹底したことで、チャートを上げました。
このことは、オリコンシングルチャートが、「多くの人に聴かれ、支持された曲」
の指標としては形骸化していることを意味しています。
例えば、YouTubeの再生回数の方が、実情には近いのかもしれません。
デジタルの進歩やユーザーの多様化に対応した新しい指標が必要だと思います。
●飽和して下降を始めた携帯向け音楽配信
日本の音楽配信市場は、モバイルが9割を占めるという特殊性があります。
これは欧米には無い特徴です。<図表4-4-4>
異業種が「着メロ」という着信音を音楽にするビジネスで成功するのを横目でみた
レコード会社が(珍しく)団結して、「レコチョク」というプラットフォームをつく
りました。「着うた」は、原盤(レコーディングした音源)権利者の許諾が必要なの
で、レコード会社が優位性がありました。「レコチョク」は着うた市場の7割以上を
占める会社に成長しました。
ただ、スマートフォンの普及で、従来の携帯電話向けの音楽配信は根本から崩壊し
ます。スマフォは、いわば携帯するPCですから、これまでの着うたビジネスの前提が
無くなります。現に、2010年から売上は落ち始め、今年度になっても、前年同月比に
対して、大幅減が続いているようです。
●iPodは売れても、iTunes Storeからのダウンロードは広まらない
パソコン向け音楽配信
一方、インターネット配信の普及は遅れています。ITジャーナリストや評論家の方
の「日本もみんなiTunesで音楽を買うようになった」という文章を散見しますが、
大きな間違いです。その事は、以前書いたので、興味のある方はこちらをどうぞ。
日本でiTunes StoreをはじめとするPC配信が広まらなかった原因は、いくつか複合
的に考えられますが、No.1企業のSonyMusicEnterainmentをはじめ、楽曲供給をしない
レコード会社があったことと、日本にしか無い「レンタルCD」という業態の二つが、
大きな原因であると考えられます。
理由はともかく、インターネット音楽配信サービスは、日本のユーザーからの支持が
広まらないまま、足踏みが続いています。
スマートフォンとiPad等タブロイド型PCの普及が広がり、その影響が注視される
ところです。 音楽配信の今後の可能性については、後述します。
さて、CD売上は減り、音楽配信も伸び悩む日本の音楽業界は、どうすればよいので
しょうか?それは、次回にまとめます。
山口哲一(音楽プロデューサー・株式会社バグコーポレーション代表取締役)