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今でも、男は仕事だけしていればよいのか?

今でも、男は仕事だけしていればよいのか?

嶋田 淑之

戦略経営協会理事・自由が丘産能短大教員・文筆家。 「不変と革新」「イノベーション」をテーマに新聞・雑誌・オンラインビジネス情報誌などで執筆活動を展開。国内外のイノベイター200人以上を取材し、記事化。「ビジネスメディア誠」でも2007年末より連載中(=「嶋田淑之の“この人に逢いたい”」、「あなたの隣のプロフェッショナル」)。

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非常にショッキングな出来事がありました!

 

古くからの知人(大企業の課長クラス)のお父さんが脳溢血で倒れ、体が不自由となり、施設に入所しました。

 

もちろん、それ自体もショックではありますが、ここで問題にしているのは、そのことではありません。それに対する奥様や、子息(=私の古い知人)の発言です。

 

奥様はこう言ったそうです。

「不自由な体になるくらいなら、あのまま亡くなっていた方が、本人にとっても良かったのに・・・」

 

それを聞いた子息の感想は・・・・

「流石、女性は、現実的だね! たしかにそうだな・・・と私も思ったよ」。

 

私が昔からよく知っているご家族の話だけに、「家族の病気とか、介護とかについて、このような考え方をする人たちだったのか!!」と、非常に残念な思いに駆られました。

「命が助かっただけも良かったね」とか「長い間、働きづめで頑張ってくれたんだし、これからは、家で面倒を見てあげよう」という発言がどうして出ないのでしょう・・・・

 

しかし、富裕なビジネス・エリートの世界においては、特に例外的な話ではないことが次第にわかり、いささか憂鬱な気分に陥った私です。

 

そのことに関連して、今回は、下記の記事をご紹介したいと思います。

日本のビジネス社会において、昨今の急激な環境変化にもかかわらず、あたかも「不変」の対象のようになっている価値観に関し、早急な「革新」を求める内容です。

 

これは、フジサンケイビジネスアイで私が担当した全44回の連載の中の第19回として、2008年3月25日に掲載されたものです。

 

 

 

在宅介護への理解急務

 

ワークライフバランス(仕事と生活の調和)という言葉が、産業界でも広く認知されるようになった。

 

しかし、課題もある。

それは、少子化対策としての子育て支援を意味する場合が多く、他の文脈で用いられることが少ないという点だ。

 

とりわけ、高齢社会の進展に伴う「在宅介護」というテーマにビジネスパーソンがどう対処すべきかについては、認識が著しく不足している。

 

なぜなのか?

それは、このテーマに関して、いまなお産業界の関心が低く、偏見が存在するからだと思われる。

 

私自身、離別と死別を経て、たった一人の肉親となった母親が不治の難病におかされ、極力自宅で過ごしたいという本人の意向もあって、何年間も在宅介護を続けている。

 

医師、訪問看護師、理学療法士、ケアマネジャー、介護ヘルパーといった方々が来宅し、献身的に対応してくださる。

しかし、24時間いる訳ではないので、結局、唯一の身寄りである私に負担がかかってくる。

それは取りも直さず、仕事への甚大な影響を意味し、介護と仕事(収入)のバランス確保に苦しむことになる。

 

ところが、こういう話をしたときに一定の理解や共感を示す人は全体の2割程度で、6割くらいの人々はほとんど関心を示さない。話す相手が40代以上であっても状況はあまり変わらない。

そして、残り2割の人々は時として偏見をあらわにする。

 

無関心や偏見の理由を探ってみてわかったことがある。

 

それは、設備が整いサービスの充実した大病院とか特別養護老人ホームに親を入れるのが当然であると彼らが考えているということだ。

さらに、偏見を示す人々は、「自分の親をそうした施設に入れてやれない人間は甲斐性がない」という考え方をする。

 

非婚化・晩婚化・離婚率上昇といった趨勢を考えた場合、今後、さまざまな事情を抱えた単身者による親の介護問題が、より広がり深刻化することは明らかだ。

人生最後の時期の過ごし方に関する価値観次第で、あえて在宅介護という"いばらの道"を選ぶ単身者もいるだろうし、そして、それ以上に、格差社会という名の「階級社会化」を反映し、経済的理由から在宅介護を選ばざるを得ない単身者の数も増えるだろう。

そこに待っている現実は過酷を極め、彼らは心身ともに追い込まれ、その能力は急速に磨耗してゆく。

 

これは、日本の産業界全体にとっても見過ごせない問題である。

見方を変えれば、そこには、大きなビジネスチャンスがあるとも言える。

 

ビジネスパーソンの、とりわけ単身者による「在宅介護」に対する世の中の認識の転換、そして、各種サービスの創出を通じた彼らの再活性化促進こそが、現代日本の緊急の革新テーマであろう。