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借り暮らしに未来はあるか? 不動産業界シンポジウム「ハ会第3回」その1

借り暮らしに未来はあるか? 不動産業界シンポジウム「ハ会第3回」その1

大出 裕之

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不動産業界シンポジウムの第3回は「賃貸」

 不動産業界の著名人が集まり、日本にとって急を要すると思われる住宅の問題を話し合うシンポジウム「ハ会」。今回は多くの人が気になる話題である「賃貸住宅」について、シンポジウムの内容を、複数回にわたって解説する。

 ちなみにこの「ハ会」、具体的なことを解決するシンポジウムではない。もっと根本的な構造への疑問、問いかけ、軌道修正への提言を行うことが主旨だ。第1回はとりあえず何が始まるのかを知りたくて会場があふれるほどに聴講者が押し寄せたが、第3回では第1回ほど多くはない。"志有る"人たちが来たという雰囲気だった。

 シンポジウムは第一部と第二部に分けられ、第一部は「賃貸住宅のクライ未来」と題し、賃貸住宅の問題点をリクルート住宅総研の矢部智仁氏がプレゼンテーションし、その後パネラーたちによる討論に入った。

 第二部では、「賃貸住宅のアカルイ未来」と題し、どうしたら賃貸住宅が良くなるのかを、株式会社ブルースタジオの大島芳彦氏がプレゼンテーションし、その後パネラーたちによる討論に入った。

「賃貸住宅のクライ未来」新築の賃貸住戸はヘンだ

 2008年の住宅・土地統計調査でわかるとおり、約4,999万世帯に対し、約5,759万戸もの住宅がある。つまり約13.1%が空いていることになる。しかもこの内訳は、持ち家の空家率が約11.3%なのに対し、貸家の空家率が約18.7%という状態だ。

 2010年現在で世帯数自体は核家族化・1人世帯の増加によって増加を続けているが、2015年をピークに減少に転じると、社会保障人口問題研究所ではレポートしている。

 住宅着工統計では、2009年に新規に着工された住宅の40%以上が賃貸住宅だった。

 世帯数が増え続けているとはいえ、貸家の空家率が20%に届きそうな状態というのはやはり気になる。

 しかも、矢部氏の説明によると新しい借家でも古い借家と同様に滅失(主には取り壊されること)しているという。また平均面積は小さくなり、最低居住水準(4人世帯で50m2)達成住戸が5%以上減少した。

 そう。新しく建築されていても、より狭くなっている。何かがおかしいというわけだ。

「賃貸住宅のクライ未来」大家は借りる人のために建てていない

 では貸主がどういう動機で賃貸住宅を建てているのだろうか。

 平成19年の民間賃貸住宅に係る実態調査によると、貸家を建てた動機で最も多いのが、相続税・節税対策。2番目が資産の有効活用だそうだ。そして貸家の長期修繕計画・長期収支計画がほとんど策定されておらず、経営としてはまったくの無計画。

 これは投資ではなく、単なる節税対策が大半なのでは? ということが見えてくる。

 まずは相続税。

 通常の土地を相続する場合より、借家が建っている土地を相続する場合のほうが減税される。土地にアパートや賃貸マンションを建築した場合、税金を計算するための土地評価額から、借地権割合(一般に市街地ほど高い)×借家権割合(通常30%)が差し引かれる。

 また建築した建物(評価額は固定資産税評価額と同じ)にも相続税が課税されるが、借家権割合(通常30%)が建物の評価額から差し引かれる。

 そしてもちろん、建築ローンを利用した場合に、借入金を債務として遺産総額から減額してもらえることになる。

 ついでに、土地を所有していると毎年払うことになる固定資産税と都市計画税についても説明しておこう。

 固定資産税は、保有する土地の固定資産税評価額に対して、毎年1.4%(標準税率)の税金が課せられる。ところがこの土地にアパートやマンションを建築した場合、評価額が1/6に軽減されることになる。軽減される面積には上限があり、建築するアパート等の戸数に200m2を乗じた面積まで。そしてそれを超える部分(住宅の床面積の10倍まで)については1/3に軽減される。

 都市計画税は、土地の固定資産税評価額に対して、毎年0.3%の税金が課せられる。アパートやマンションを建築した場合、1戸当たり200m2までの土地は1/3に、それを超える部分(住宅の床面積の10倍まで)は2/3に税金が減額される。

 いかがだろうか。土地を持っていない人からみると、借家を建てるとこれだけ貸主が有利になる税制について複雑な気分になるのではないだろうか...。

 つまり、アンケートによる意識調査でも、この貸家を建てることで得られる減税効果が相当効いていることを示している。土地持ちの減税対策のために、"たまたま"賃貸住宅が供給されているとも言えるわけだ。

「賃貸住宅のクライ未来」借りる人にとって新築でいいのか?

 そして矢部氏は、継続して新築の貸家が供給されていることについて、借りる側からするメリットがいかに少ないかを語っている。

 まず面積は狭くなっており、快適と言い難い。新築物件は賃料はもちろん中古より割高であり、新築賃貸住戸の建て替えのサイクルが短いほど、賃料がさほど下がっていかず、借りる人のメリットは少ないのではという。

 アリエッティたち借り暮らしは、必要なモノを必要な分だけ借りる。今の日本の賃貸住宅市場では、必要なものが見つけにくい状況のような気がする。少なくとも、供給してくれる人たちは自分勝手に作っているだけで、借り暮らしの目線では見ていないようだ。いつまで住んでいられるのかと気に病む小人の気分になってくる。

 というわけで長くなったので、続きの討論の報告は次回。これらの問題についての解決策が語られる。



※プレゼンテーション資料は以下よりダウンロードできる

ハ会