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貸したい人も借りたい人も不動産会社も助かる! 軒先.comに会ってきた
»2010年6月10日
住宅・不動産業界とネットの進化をウオッチ
貸したい人も借りたい人も不動産会社も助かる! 軒先.comに会ってきた
日本最大級の不動産情報ポータルサイト『HOME'S』で、マーケットデータの編集担当をしております。HOME'Sマーケットレポートなど。まだHOME'Sを知らないという業界のかたはこちらの不動産業向けサービス概要ページをごらんください。 「このサイト(ブログ、アカウント等)に記載する内容は私個人の見解であり、必ずしも株式会社ネクスト(またはグループ会社)の立場、戦略、意見を代表するものではありません」
当ブログ「住宅・不動産業界とネットの進化をウオッチ」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/hiroyukimac/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
サイトもビジネスも急拡大中です
軒先.comというサイトを皆さんご存知だろうか。中小企業基盤整備機構が主催するベンチャーフェアJapan2009で最優秀賞を受賞したり、経済産業省が講演するドリームゲートグランプリ2009で革新的ビジネス大賞を受賞。今年になってからもテレビや雑誌で紹介されている話題のベンチャーだ。
その軒先.comが、最近不動産業界でも話題になっている。業界紙の記者ももちろんだが、地場の不動産会社も気になっている。もちろん"軒先"を借りたい人たちからの認知も上がっているようで、昨年の秋ごろからサイトのUU数やPV数が倍増するペースで拡大しているそうだ。
7月にはデザイン変更と、申込単位変更のリニューアルを予定している。現在は1日の何時間という単位でスペースを貸し借りできるが、これが完全時間単位で申し込みできるようになる。これにより稼働率もあがっていくと思われる。
営業を始めて2年。株式会社化して1年。既に創業以来の成約件数累計は1,200件を超えており、現在約200スペースほどを常時探すことが可能。貸し出せるスペースを開拓するため社員も増やすという。
そこで今回は、軒先.comのアイデアと、貸したい人、借りたい人、そして不動産会社にもたらすベネフィットを解説していきたい。
ちなみに各方面で賞賛されたこのビジネスモデル、特許出願済みだそうです。
なるほど、スモールビジネスにいいのね
実際にどんなユーザーが多いのか、代表取締役社長の西浦明子氏にうかがった。
「軒先.comをはじめる前、以前ソニー時代に南米に駐在していた経験から、チリの雑貨屋を東京で始めようと思い立ったのですが、店を開こうにも場所がなく、資金もなかったので店舗物件を借りることもできませんでした。でもそのときに3坪程度のスペースを週単位で貸してくれる場所があることを知りました。でも私のように苦労して空きスペースを探している人が多い、ということに気づき、思い切ってビジネスを切り替えました(笑)」
ご自身の体験と同様に空きスペース探しにに苦労している人は多いという。ご時世なのだろう、軽自動車で移動販売する人が非常に多いそうだ。またちょっとした販売、イベント・プロモーションのニーズもある。中には、学生さんが発表や展示スペースとして借りたり、趣味のものをちょっと販売してみたい人がいたりとさまざまだ。
「移動販売をされるかたはリピーターにもなっていただきやすいし、使い方もきれいですね。最近増えているのは、地方のかたのテスト販売やネットだけで販売されているかたの街頭販売やウォーターサーバーの販売。それに個人の保険代理店さんもすごく多く、テーブルとのぼり旗だけで開店されます。マイクロビジネスのかたがたがほとんどですが、そういうかたがたのインフラになれればと思っています。自分もマイクロビジネスで出発しましたから」
驚いたのは東京の四谷三丁目のオフィス街で、新宿通りに面したとあるスペース。いろいろな人が借りたが一番売り上げたのは蒲団販売だったという。大通りから一歩後ろに入ると住宅があって高齢者が多く住んでおり、なかなか買いに行けない蒲団販売が重宝されたという。
貸せるなんて思わなかった
貸せると思っていなかったスペースを収益化するのが、このビジネスモデルのオリジナリティの1つだ。
「いわゆるデッドスペースと言われているもの、そして私たちはデッドタイムと呼んでいるスペースが対象です。通常の不動産会社さんが扱っている物件でも、解体撤去が決まっているけれども数ヶ月あいている物件ですとか、買い手がつくまでとか、必ず不稼働のアイドルタイムがあります。そのスペースを有効に使いませんか、追加投資なしでそのまま貸しませんか、という提案をしています」
実際軒先.comに掲載されている物件のうち、常に空いているスペースと、解体撤去までの期間限定のスペースとで、約半々だそうだ。軒先.comとしては、長く貸し出しいただけるスペースは一度獲得すると借りたい人をマッチングできるストックとなるため、なるべく長期間貸し出せるスペースを増やしていきたいという。よく稼動しているスペースは全体の2、3割で、他の多くは月に1回とか半年に1回くらいのロングテールだ。
「魅力あるスター物件をいかに集められるかが重要です。例えばショッピングモールのエスカレーター下のデッドスペースなど、施設自体に集客力があって、なおかつ余っているスペースなどを積極的に開発していきたいと考えています」
実際貸す人のリスクは多くない。事前銀行振り込みかカード決済のため未回収リスクはゼロ。日替わりで入れ替わり違う人が使うため、どのような人がどのような使い方をするのか貸主側が分からないという点も、軒先.comのほうで審査をしてくれる。1日という短期間の火災保険もあり、現在は短期間の損害保険を探しているとのことだった。ちなみに2年サイトを営業していて、破損などの事故はまだない。単なる個人ではなくビジネス利用が大部分なため、モラルも高いのだろう。
加盟店を大募集中、不動産会社ウェルカム
需要と供給のバランスは現状良くはない。借りたい人のほうが多く、ニーズに合うスペースの供給が少ない。そこでオーナーの代わりに物件情報を入力などしてもらえる加盟店を募集している。通常レンタル料の35%を取っているが、そのうちの10%を加盟店に支払うことになる。35%という割合もぱっと見るとずいぶん取るように見えるし、10%は少なそうなイメージを持たれると言う。
「35%については、まさかこんなところが貸せてお金になるとは思っていなかったという反応をいただき、ご理解いただいています。たぶん50%でもなにもおっしゃらないと思います。ただ、通常1ヶ月30万で貸しているようなところを1日1万円で1週間だけ、さらにそこから10%というと抵抗感がある場合もありますが、集客は不要で、長期契約前に試しで使ってみたいお客様を探しやすいですよ、ということでご理解いただけます」
物件情報の入力には、ある種のコツがいる。HOME'Sのような不動産ポータルでは、オーナーではなく手馴れた不動産会社がおこなっているが、軒先.comでも、手馴れた不動産会社が魅力的に掲載すれば、借りたい人もちょうどよいスペースを探しやすくなるだろう。
「大阪と東京と会わせて25社、加盟店になっていただいています。元々街の不動産屋さんに加盟店になっていただこうと想定していましたが、そうではなく、法人さんと取引があるような不動産会社、自社物件をお持ちの不動産会社からの引き合いが多いですね」
不動産業の視点からすると、スペース貸しのビジネスは賃貸借契約をするべきものなのか、そうでないのか、もやもやっとするのではないだろうか。そのあたりを国土交通省に確認してもらい、お墨付きをもらったそうだ。
「よく、賃貸借ですか? なにが違うのですか? と質問されます。軒先を1日貸すのに、いちいち重要事項説明はさすがにいらないだろうと思いました。創業当初は違うだろうとしか言えなかったのですが、そこを明確にしておきたくて、去年の11月に国土交通省に確認いただき、このビジネスは賃貸借には当たりません。というコメントをいただきました。ここでもし賃貸借契約の必要があると、ビジネスとして成立しにくくなってしまうところでした」
利用目的が限定であれば賃貸借契約を結ぶ必要はない、貸事務所、コインパーキングと同じだという解釈だ。一戸建てであっても野菜即売会などに使います、など目的が限定であれば、賃貸借契約は不要、毎回の重要事項説明も不要、よって軒先.com側の宅建業登録も不要、ということになる。
花火の季節といえば
西浦氏によると、現在力を入れているのは、花火が見えるビルの屋上スペースの募集だそうだ。確かにグループで借りたりすればリーズナブルだろうし、特別な日にはそのくらいお金を出したい人もいるだろう。
軒先.comの経営の安定のためには、販売の人が助かるスペースをたくさん確保していくほうがいいとは思うが、季節性や話題性のあるスペースを適正な価格で気楽に貸し出せ、手軽に予約して簡単に借りられるようになるのはすばらしい。そんな世界が軒先.comによって実現されるのかもしれない。
住宅や事務所などの長期契約とは別の、短期使用、時間貸しなどで社会の隙間を有効に利用するこのビジネス。要注目だ。
軒先.comというサイトを皆さんご存知だろうか。中小企業基盤整備機構が主催するベンチャーフェアJapan2009で最優秀賞を受賞したり、経済産業省が講演するドリームゲートグランプリ2009で革新的ビジネス大賞を受賞。今年になってからもテレビや雑誌で紹介されている話題のベンチャーだ。
その軒先.comが、最近不動産業界でも話題になっている。業界紙の記者ももちろんだが、地場の不動産会社も気になっている。もちろん"軒先"を借りたい人たちからの認知も上がっているようで、昨年の秋ごろからサイトのUU数やPV数が倍増するペースで拡大しているそうだ。
7月にはデザイン変更と、申込単位変更のリニューアルを予定している。現在は1日の何時間という単位でスペースを貸し借りできるが、これが完全時間単位で申し込みできるようになる。これにより稼働率もあがっていくと思われる。
営業を始めて2年。株式会社化して1年。既に創業以来の成約件数累計は1,200件を超えており、現在約200スペースほどを常時探すことが可能。貸し出せるスペースを開拓するため社員も増やすという。
そこで今回は、軒先.comのアイデアと、貸したい人、借りたい人、そして不動産会社にもたらすベネフィットを解説していきたい。
ちなみに各方面で賞賛されたこのビジネスモデル、特許出願済みだそうです。
なるほど、スモールビジネスにいいのね
実際にどんなユーザーが多いのか、代表取締役社長の西浦明子氏にうかがった。
「軒先.comをはじめる前、以前ソニー時代に南米に駐在していた経験から、チリの雑貨屋を東京で始めようと思い立ったのですが、店を開こうにも場所がなく、資金もなかったので店舗物件を借りることもできませんでした。でもそのときに3坪程度のスペースを週単位で貸してくれる場所があることを知りました。でも私のように苦労して空きスペースを探している人が多い、ということに気づき、思い切ってビジネスを切り替えました(笑)」
ご自身の体験と同様に空きスペース探しにに苦労している人は多いという。ご時世なのだろう、軽自動車で移動販売する人が非常に多いそうだ。またちょっとした販売、イベント・プロモーションのニーズもある。中には、学生さんが発表や展示スペースとして借りたり、趣味のものをちょっと販売してみたい人がいたりとさまざまだ。
「移動販売をされるかたはリピーターにもなっていただきやすいし、使い方もきれいですね。最近増えているのは、地方のかたのテスト販売やネットだけで販売されているかたの街頭販売やウォーターサーバーの販売。それに個人の保険代理店さんもすごく多く、テーブルとのぼり旗だけで開店されます。マイクロビジネスのかたがたがほとんどですが、そういうかたがたのインフラになれればと思っています。自分もマイクロビジネスで出発しましたから」
驚いたのは東京の四谷三丁目のオフィス街で、新宿通りに面したとあるスペース。いろいろな人が借りたが一番売り上げたのは蒲団販売だったという。大通りから一歩後ろに入ると住宅があって高齢者が多く住んでおり、なかなか買いに行けない蒲団販売が重宝されたという。
(ビフォー)学芸大学にあるレコード店
(アフター)閉店日には、野菜を売る人などが使う
貸せるなんて思わなかった
貸せると思っていなかったスペースを収益化するのが、このビジネスモデルのオリジナリティの1つだ。
「いわゆるデッドスペースと言われているもの、そして私たちはデッドタイムと呼んでいるスペースが対象です。通常の不動産会社さんが扱っている物件でも、解体撤去が決まっているけれども数ヶ月あいている物件ですとか、買い手がつくまでとか、必ず不稼働のアイドルタイムがあります。そのスペースを有効に使いませんか、追加投資なしでそのまま貸しませんか、という提案をしています」
実際軒先.comに掲載されている物件のうち、常に空いているスペースと、解体撤去までの期間限定のスペースとで、約半々だそうだ。軒先.comとしては、長く貸し出しいただけるスペースは一度獲得すると借りたい人をマッチングできるストックとなるため、なるべく長期間貸し出せるスペースを増やしていきたいという。よく稼動しているスペースは全体の2、3割で、他の多くは月に1回とか半年に1回くらいのロングテールだ。
「魅力あるスター物件をいかに集められるかが重要です。例えばショッピングモールのエスカレーター下のデッドスペースなど、施設自体に集客力があって、なおかつ余っているスペースなどを積極的に開発していきたいと考えています」
実際貸す人のリスクは多くない。事前銀行振り込みかカード決済のため未回収リスクはゼロ。日替わりで入れ替わり違う人が使うため、どのような人がどのような使い方をするのか貸主側が分からないという点も、軒先.comのほうで審査をしてくれる。1日という短期間の火災保険もあり、現在は短期間の損害保険を探しているとのことだった。ちなみに2年サイトを営業していて、破損などの事故はまだない。単なる個人ではなくビジネス利用が大部分なため、モラルも高いのだろう。
加盟店を大募集中、不動産会社ウェルカム
需要と供給のバランスは現状良くはない。借りたい人のほうが多く、ニーズに合うスペースの供給が少ない。そこでオーナーの代わりに物件情報を入力などしてもらえる加盟店を募集している。通常レンタル料の35%を取っているが、そのうちの10%を加盟店に支払うことになる。35%という割合もぱっと見るとずいぶん取るように見えるし、10%は少なそうなイメージを持たれると言う。
「35%については、まさかこんなところが貸せてお金になるとは思っていなかったという反応をいただき、ご理解いただいています。たぶん50%でもなにもおっしゃらないと思います。ただ、通常1ヶ月30万で貸しているようなところを1日1万円で1週間だけ、さらにそこから10%というと抵抗感がある場合もありますが、集客は不要で、長期契約前に試しで使ってみたいお客様を探しやすいですよ、ということでご理解いただけます」
物件情報の入力には、ある種のコツがいる。HOME'Sのような不動産ポータルでは、オーナーではなく手馴れた不動産会社がおこなっているが、軒先.comでも、手馴れた不動産会社が魅力的に掲載すれば、借りたい人もちょうどよいスペースを探しやすくなるだろう。
「大阪と東京と会わせて25社、加盟店になっていただいています。元々街の不動産屋さんに加盟店になっていただこうと想定していましたが、そうではなく、法人さんと取引があるような不動産会社、自社物件をお持ちの不動産会社からの引き合いが多いですね」
不動産業の視点からすると、スペース貸しのビジネスは賃貸借契約をするべきものなのか、そうでないのか、もやもやっとするのではないだろうか。そのあたりを国土交通省に確認してもらい、お墨付きをもらったそうだ。
「よく、賃貸借ですか? なにが違うのですか? と質問されます。軒先を1日貸すのに、いちいち重要事項説明はさすがにいらないだろうと思いました。創業当初は違うだろうとしか言えなかったのですが、そこを明確にしておきたくて、去年の11月に国土交通省に確認いただき、このビジネスは賃貸借には当たりません。というコメントをいただきました。ここでもし賃貸借契約の必要があると、ビジネスとして成立しにくくなってしまうところでした」
利用目的が限定であれば賃貸借契約を結ぶ必要はない、貸事務所、コインパーキングと同じだという解釈だ。一戸建てであっても野菜即売会などに使います、など目的が限定であれば、賃貸借契約は不要、毎回の重要事項説明も不要、よって軒先.com側の宅建業登録も不要、ということになる。
花火の季節といえば
西浦氏によると、現在力を入れているのは、花火が見えるビルの屋上スペースの募集だそうだ。確かにグループで借りたりすればリーズナブルだろうし、特別な日にはそのくらいお金を出したい人もいるだろう。
軒先.comの経営の安定のためには、販売の人が助かるスペースをたくさん確保していくほうがいいとは思うが、季節性や話題性のあるスペースを適正な価格で気楽に貸し出せ、手軽に予約して簡単に借りられるようになるのはすばらしい。そんな世界が軒先.comによって実現されるのかもしれない。
住宅や事務所などの長期契約とは別の、短期使用、時間貸しなどで社会の隙間を有効に利用するこのビジネス。要注目だ。