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入ったまま着陸
»2010年10月20日
読むBizワクチン ~一読すれば身に付く体験、防げる危険~
入ったまま着陸
アイデアマラソン研究所所長 ノートを活用したアイデアマラソン発想法考案者であり、電気通信大学講師。現役時代は三井物産の商社マン。 企業の創造性トレーニングでは、ジャパネットたかたの全社員運動、アサヒビールでの研修などを続けている。独創性を命と考えている。
当ブログ「読むBizワクチン ~一読すれば身に付く体験、防げる危険~」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/idea-marathon/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
飛行機珍体験集 その6
入ったまま着陸
成田からバンコクまでのタイ航空の機内だった。
ビジネスクラスで、私は窓側の席、隣は若い日本人のビジネスマンが座った。エアバスだったと思うが、ビジネスクラスでも、後ろの方で、トイレが近く、ほぼ横にあった。
私は機内では、ほぼ同じパターンで、搭乗して着席すると、シートベルトを締めて、ノートを取り出して、膝の上で発想を書き始める。つまりアイデアマラソンを開始するのだ。電子機器は使用できないし、テーブルは使えないが気にならない。ノートは自由だ。
飛行機がクンと揺れて、ターミナルのゲートから離れて、滑走路にゆっくりと動き始める時、すごく良い感じになって、私は軽い眠気に包まれる。
滑走路の端に近づくと、
「当機はまもなく離陸します...」とアナウンスが聞こえながらも、私は寝ている。エンジン音がぐんぐん大きくなるのも、機体がグイと引っ張られて動き始めるのも、素晴らしい夢の気分で寝ている。
頭は前傾させている。後ろに反らせて寝ると、首に強烈な筋違いを起こす可能性があるので怖い。全速力で滑走を始め、ふわりと浮くところが、私にはなんとも最高の夢見気分なのだ。
ぐんぐん上昇していく、車輪が収納されるのも、夢の中で聞いている。機体がビリビリと揺れるのも、心地よい。私の飛行機旅行の一番好きな時間が、この離陸の居眠りだ。
一定の高度に達すると、「ビン」と音がして、ベルト着用のサインが消える。その瞬間、私は目を覚まして、シートベルトを外し、席をたって、トイレに行くことにしている。
すっきりとして、席に戻り、テーブルを出し、背もたれを少し後ろに動かして、ノートの発想を全集中して書き始める。定刻に成田を飛び立って、バンコクまで6時間45分の飛行だ。
飲物が配られるが、私は機内ではめったにアルコールは取らない。機内ではアルコールの影響が強いのと、機内は私の最高の仕事の集中の場だから、アルコールを取り過ぎると、時間を浪費してしまうのが惜しい。
「何をお飲みになりますか」
「私はアップルジュース」
隣の若いビジネスマンは、「ビールとワインのボトル、そしてウイスキーのミニボトル」
彼はさっそく飲み始めた。
一眠りした後も、私のノートの発想の数がどんどん増えていく。
発想の数は、一日分を終えて、私はノートを鞄に入れた。残り約5時間半ほどの時間は、パソコンでエッセイを書きながら、機内の映画を見ることにする。
隣のビジネスマンは、ワインもウィスキーのミニボトルも飲み終わって、呼び出しのボタンを押して、もう一本、ウィスキーを頼んだ。彼は、更にピッチを早く飲んでいる。
(たくさん飲む人だなあ)
隣は、食事が始まった時にも、追加のウィスキーのミニボトルを頼んでいる。
「酒はお強いですね」
「はあ、まあまあです」と言いながら、話もしないで、ただ、着実に飲んでいる。
食事が終わって、映画が始まり、私は映画半分、パソコン半分で、楽しんでいた。隣の男性は映画を見ているわけでもない。ふっと、立ち上がって、彼は新しいウィスキーのミニボトルを手に入れていた。ビジネスクラスの私たちの席の斜め前に、飲物を載せたワゴンがそのまま置いてあった。
要は自分で好きなように、いくらでも取れるようになっているのだ。
(これは相当な酒豪だな)と感心した。私は映画に気を取られていたが、隣は更に何本かミニボトルを7、8本は飲み終わっていただろう。そして、突然、彼は寝てしまった。まだ、バンコクまで3時間以上残っていた。
(まあ、あれだけ飲めば、後は寝るだけだろうなあ)
私はパソコンでエッセイを書きながら、映画も見ていた。タイ航空機は、ベトナムの海岸を上陸し、カンボジアを横切って、バンコクの空港に近付いていった。
着陸のシートベルトサインが点灯して、乗務員がチェックした時も、隣の男性は寝ていた。乗務員が彼のシートベルトを調べに来た時も、ぐっすりと寝ていた。
いよいよ、着陸。
機長から、客室乗務員に着席の指示が出た後、突然、隣の男性が目を覚ました。そして、シートベルトを外すと、さっと立ち上がり、トイレに飛び込んだ。
乗務員は後ろの方で、自分の着席の準備をしていたのか、隣の男性がトイレに入ったことを知らなかった。
小便にしては長く、男性がトイレから出て来ない。飛行機はどんどん、滑走路に近付いている。まどから地上がはっきりと見えてきた。
(こりゃ、いかん)と、私は身を右側に乗り出して、後ろのギャレーの前の席にいる乗務員の女性に、指で、「ここの男性が、トイレに行っている」と教えた。
たちまち、三人の女性乗務員が、トイレに飛んできて、トイレの扉を叩いたが、中から応答が無かった。もう飛行機は着陸寸前となっていた。
もう一人の乗務員が、他の二人の乗務員に席に戻るように指示を出した。客室乗務員ですら、着陸の時は絶対に座って、シートベルトを締めることが義務付けられている。トイレはそのままにして、乗務員たちは自分の席に戻り、シートベルトを付けた。
その直後、飛行機はどどどどと、バンコク空港の滑走路に無事降り立った。しばらく滑走路、そして脇道に入った途端に、乗務員たちがトイレに飛んできた。
どんどん叩いても、男性は反応が無い。乗務員が、強制的に、外からトイレを開けたら、男性は、トイレをしている姿のままで、便器に座って伏せて寝ていた。
私は見たくもないものを見てしまった。
彼はただちに引き出され、満員のエコノミーの客が注視している前で、身づくろいをしながら、席に戻ってきた。着陸の時は、後ろのカーテンは開けられているのだ。
トイレの作業を済ましていたかどうかは、詮索しなかった。ただ、私の隣であったことから、私の同僚と思われたようで、悲しかった。
教訓 機内ではあまり飲まない方がよい。まず気圧の加減で、非常に酔いがまわりやすい。また、泥酔はもってのほかで、非常に危険だ。
入ったまま着陸
成田からバンコクまでのタイ航空の機内だった。
ビジネスクラスで、私は窓側の席、隣は若い日本人のビジネスマンが座った。エアバスだったと思うが、ビジネスクラスでも、後ろの方で、トイレが近く、ほぼ横にあった。
私は機内では、ほぼ同じパターンで、搭乗して着席すると、シートベルトを締めて、ノートを取り出して、膝の上で発想を書き始める。つまりアイデアマラソンを開始するのだ。電子機器は使用できないし、テーブルは使えないが気にならない。ノートは自由だ。
飛行機がクンと揺れて、ターミナルのゲートから離れて、滑走路にゆっくりと動き始める時、すごく良い感じになって、私は軽い眠気に包まれる。
滑走路の端に近づくと、
「当機はまもなく離陸します...」とアナウンスが聞こえながらも、私は寝ている。エンジン音がぐんぐん大きくなるのも、機体がグイと引っ張られて動き始めるのも、素晴らしい夢の気分で寝ている。
頭は前傾させている。後ろに反らせて寝ると、首に強烈な筋違いを起こす可能性があるので怖い。全速力で滑走を始め、ふわりと浮くところが、私にはなんとも最高の夢見気分なのだ。
ぐんぐん上昇していく、車輪が収納されるのも、夢の中で聞いている。機体がビリビリと揺れるのも、心地よい。私の飛行機旅行の一番好きな時間が、この離陸の居眠りだ。
一定の高度に達すると、「ビン」と音がして、ベルト着用のサインが消える。その瞬間、私は目を覚まして、シートベルトを外し、席をたって、トイレに行くことにしている。
すっきりとして、席に戻り、テーブルを出し、背もたれを少し後ろに動かして、ノートの発想を全集中して書き始める。定刻に成田を飛び立って、バンコクまで6時間45分の飛行だ。
飲物が配られるが、私は機内ではめったにアルコールは取らない。機内ではアルコールの影響が強いのと、機内は私の最高の仕事の集中の場だから、アルコールを取り過ぎると、時間を浪費してしまうのが惜しい。
「何をお飲みになりますか」
「私はアップルジュース」
隣の若いビジネスマンは、「ビールとワインのボトル、そしてウイスキーのミニボトル」
彼はさっそく飲み始めた。
一眠りした後も、私のノートの発想の数がどんどん増えていく。
発想の数は、一日分を終えて、私はノートを鞄に入れた。残り約5時間半ほどの時間は、パソコンでエッセイを書きながら、機内の映画を見ることにする。
隣のビジネスマンは、ワインもウィスキーのミニボトルも飲み終わって、呼び出しのボタンを押して、もう一本、ウィスキーを頼んだ。彼は、更にピッチを早く飲んでいる。
(たくさん飲む人だなあ)
隣は、食事が始まった時にも、追加のウィスキーのミニボトルを頼んでいる。
「酒はお強いですね」
「はあ、まあまあです」と言いながら、話もしないで、ただ、着実に飲んでいる。
食事が終わって、映画が始まり、私は映画半分、パソコン半分で、楽しんでいた。隣の男性は映画を見ているわけでもない。ふっと、立ち上がって、彼は新しいウィスキーのミニボトルを手に入れていた。ビジネスクラスの私たちの席の斜め前に、飲物を載せたワゴンがそのまま置いてあった。
要は自分で好きなように、いくらでも取れるようになっているのだ。
(これは相当な酒豪だな)と感心した。私は映画に気を取られていたが、隣は更に何本かミニボトルを7、8本は飲み終わっていただろう。そして、突然、彼は寝てしまった。まだ、バンコクまで3時間以上残っていた。
(まあ、あれだけ飲めば、後は寝るだけだろうなあ)
私はパソコンでエッセイを書きながら、映画も見ていた。タイ航空機は、ベトナムの海岸を上陸し、カンボジアを横切って、バンコクの空港に近付いていった。
着陸のシートベルトサインが点灯して、乗務員がチェックした時も、隣の男性は寝ていた。乗務員が彼のシートベルトを調べに来た時も、ぐっすりと寝ていた。
いよいよ、着陸。
機長から、客室乗務員に着席の指示が出た後、突然、隣の男性が目を覚ました。そして、シートベルトを外すと、さっと立ち上がり、トイレに飛び込んだ。
乗務員は後ろの方で、自分の着席の準備をしていたのか、隣の男性がトイレに入ったことを知らなかった。
小便にしては長く、男性がトイレから出て来ない。飛行機はどんどん、滑走路に近付いている。まどから地上がはっきりと見えてきた。
(こりゃ、いかん)と、私は身を右側に乗り出して、後ろのギャレーの前の席にいる乗務員の女性に、指で、「ここの男性が、トイレに行っている」と教えた。
たちまち、三人の女性乗務員が、トイレに飛んできて、トイレの扉を叩いたが、中から応答が無かった。もう飛行機は着陸寸前となっていた。
もう一人の乗務員が、他の二人の乗務員に席に戻るように指示を出した。客室乗務員ですら、着陸の時は絶対に座って、シートベルトを締めることが義務付けられている。トイレはそのままにして、乗務員たちは自分の席に戻り、シートベルトを付けた。
その直後、飛行機はどどどどと、バンコク空港の滑走路に無事降り立った。しばらく滑走路、そして脇道に入った途端に、乗務員たちがトイレに飛んできた。
どんどん叩いても、男性は反応が無い。乗務員が、強制的に、外からトイレを開けたら、男性は、トイレをしている姿のままで、便器に座って伏せて寝ていた。
私は見たくもないものを見てしまった。
彼はただちに引き出され、満員のエコノミーの客が注視している前で、身づくろいをしながら、席に戻ってきた。着陸の時は、後ろのカーテンは開けられているのだ。
トイレの作業を済ましていたかどうかは、詮索しなかった。ただ、私の隣であったことから、私の同僚と思われたようで、悲しかった。
教訓 機内ではあまり飲まない方がよい。まず気圧の加減で、非常に酔いがまわりやすい。また、泥酔はもってのほかで、非常に危険だ。