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そこの飛行機待ってくれ

そこの飛行機待ってくれ

樋口 健夫

アイデアマラソン研究所所長 ノートを活用したアイデアマラソン発想法考案者であり、電気通信大学講師。現役時代は三井物産の商社マン。 企業の創造性トレーニングでは、ジャパネットたかたの全社員運動、アサヒビールでの研修などを続けている。独創性を命と考えている。

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飛行機珍体験集 その7
     
そこの飛行機待ってくれ
 サウジアラビアの首都リヤドに駐在していた時のことだ。
 私は日本に休暇で帰国予定をしていたが、その前に、西海岸のジェッダの事務所での社内会議に参加した。
 会議は白熱して、夜まで継続予定だったが、私はその日の午後3時に出発する

 MEA(ミッドイーストエアー)で、バハレーン経由、日本に一時帰国する予定をしていた。私たちの事務所から、ジェッダの国際空港は約30分だったが、当時は国際線では出発時間の3時間前にチェックインをすることを必要とされていた。
 
 午前中に私はジェッダの国際空港に行き、切符を切って、大きなバッグを2個預け入れて、チェックインを無事に終わらせた。それから出発まで3時間、何もすることはない。
 まだ運転手が傍にいたので、私は事務所に戻ることにした。会議に参加する方が空港で3時間待たされるよりよほど良い。事務所に戻って、会議に加わって喧々諤々(けんけんがくがく)と話していたら、どんどん時間が過ぎているのを勘違いした。とにかく一時間ほど勘違いしてしまった。
「樋口君、君、今日帰国の予定じゃないのか、飛行機は何時出発なんだ?」と、言われて、時計を見たら何と、出発時間の20分前になっていた。
「こりゃ、いかん」
「そりゃ、間に合わないよ。ここから車で半時間かかるんだよ」
「大変だ。空港にすぐに行きます」と、トイレに行きたくなる気分で事務所を出て、運転手を急かせて、空港に急いだ。
 空港に到着したのが、出発時間の"5分後"だった。

空港の出発ロビーには、誰も人影がなかった。航空会社のカウンターも無人。パスポートコントロールも、係官がいなかった。
 私はパスポートコントロールの事務所に行って、パスポートを見せて、
「日本に帰国するのです。助けてください。両親に会いたい」と叫んだ。
「だめだよ。もう飛行機は出発したよ。ほら」と、係官は指差した。

 本当だった。ゲートから離れて、MEAの飛行機が、ゆっくりと滑走路へ向かうのが見えた。
(ああ、もう駄目だ)と、思った時、一人のサウジ人の係官が、「チェックインは済ませているのか?バッグは?」
「飛行機に乗っています」
「そうか。よし、パスポートを渡せ」と、言われて、一体どうするのだろうかと思ったら、まず彼は、パスポートコントロールのブースへ行って、私のパスポートに出国の判を押した。
「よし、ついてこい」と、私を連れて、階段を下りて、彼はジープに乗り、私が助手席に乗り込んだ。

 ジープは、急発進して、飛行機を追いかけ始めた。飛行機は滑走路の端に向かって進んでいた。ほとんど滑走路の離陸側の端に到着し、右回りしようとしていたが、ジープは、その後ろから追いつき、左側から飛行機の前に進み出て、サウジ人の係官が、操縦席の機長に手を振って、
「止まれ」と指示したのだった。

(こ、こんなことが許されるのか。夢ではないか)と、私が呆れていたら、何と飛行機が止まったではないか。そして、最後尾からタラップが降りてきた。

 私は、
「ショクラン、ジッダン、ジャジーラン(心からありがとう)」と、係官に叫んで、握手をして、自分のショルダーバッグを抱えて、飛行機の後ろに走って行き、階段を上った。

 そこにはスチュワーデスが2名両側に立っていて、
「アハランワサハラン(ようこそ)」と、笑顔を掛けて、挨拶してくれた。ほぼ満員の乗客も、乗務員たちも、その顔つきは、私が途方もないVIPで、飛行機を停止させても乗ってくるほどのパワーを持っている人だと、勘違いしたようだった。

私は息を飲みこみながら、全乗客の視線を浴びながら、席に座りこんだ。
 飛行機がすぐに滑走に入った。

教訓 昔は優雅なことがあった。今じゃ、考えられない。私が乗り込んでいなければ、飛行機の出発は2時間ほど遅れるだろう。チェックインした後、搭乗しない客があれば、コンテナーに入っている荷物を全部、取り出して、お客は自分の荷物を自分で探して、再度チェックするのではないだろうか。
そうして、搭乗しない客の荷物だけ分離する。爆弾を避けるためだ。