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羹(あつもの)に懲(こ)りて鱠(なます)を吹きたおす

羹(あつもの)に懲(こ)りて鱠(なます)を吹きたおす

樋口 健夫

アイデアマラソン研究所所長 ノートを活用したアイデアマラソン発想法考案者であり、電気通信大学講師。現役時代は三井物産の商社マン。 企業の創造性トレーニングでは、ジャパネットたかたの全社員運動、アサヒビールでの研修などを続けている。独創性を命と考えている。

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飛行機珍体験
羹(あつもの)に懲(こ)りて鱠(なます)を吹きたおす
ギネスブックもののセキュリティチェック

 ネパールに駐在してた時、インドのニューデリーで地域の店長会議があるのでカトマンドゥから、デリーまでの直行便のエアーインディアを予約した。
 ロイヤルネパール航空も飛んでいるが、時刻通りに出発しない。エアーインディアもあまり好きな飛行機ではないが、他に方法がない。エアーインディアの機体も古いし、CAもぶっきらぼうだった。

 おまけに2カ月前に、エアーインディアでは、カトマンドゥからのフライトで、ハイジャック未遂の事件があったという。嫌な雰囲気だった。普段ですらきびしくて、バラの単3の乾電池も飛行機に持ち込めなかった。取り上げられてしまった。単3の電池で何ができるのだろうか。小さな手榴弾にでもなるのだろうか。事件の後は、もっと厳しくなる。
(空港には、多少なり早目に行った方が良いかな)

 これは正しい判断だった。まずは、空港のロビーに荷物を持って入れないのだ。空港のロビーの入り口で、X線の検査を受けて、預け入れ荷物を開けさせられる。これが第一の検査

 これに30メートルほどの人の列ができていた。ようやく飛行機のカウンターでチェックインして、パスポートコントロールを済ませて、中に入る。
 ロビーで待っていたら、搭乗の呼び出しがあった。そこでは徹底的な手荷物検査。これが第二の検査。これはどこでも同じだから、文句を言う筋合いではない。検査が終わると、搭乗券にハンコを押してもらう。

 検査場の端では、この搭乗券のハンコを調べる。第三の検査

そこから廊下を歩いて10メートル。左に曲がってゲートへの渡り廊下は約10メートルほどで、ドアがあり、再度、パスポートと搭乗券の検査があった。第四の検査

 更に廊下はあと10メートルほど、直進。ようやくゲートのロビーに入る前に、再度、搭乗券の検査。第五の検査。これ何なんだ。ゲートに入るまでに5回の検査があった。

 混雑するゲートのロビーで、半時間。本当の搭乗の呼び出しがあったが、検査はこれから本番になる。
 飛行機が直接ターミナルに駐機していないので、離れた場所に飛行機が停まっているところまで歩いて行くが、その手前に、お客の預け入れ荷物が全部拡げてある。その荷物を「これと、これが、私の荷物」とお客が直接指示し、運搬車に入れてもらわなければ、自分の荷物は積んでもらえないようになっている。第六の検査

 委託された荷物や、誰かがこっそりと紛れ込ました荷物を排除しようとするものだ。
 飛行機のタラップの階段の手前で、再度、身体検査があった。第七の検査

 飛行機のタラップの下に、小屋が造られていた。そこでは、手荷物の再検査を行い、全員の荷物を徹底的に調べ直すのだ。これが八度目の検査だった。

 私は、前の乾電池に懲りて、電池は持っていなかったが、カトマンドゥ市内では最高のホテルハイヤットで、特注してもらった大きなフルーツケーキの丸ごとを3本鞄にいれていた。インド店の同僚たちへの土産だった。
 ホテルでは、透明のビニールで包んで、リボンが付けてある。中のケーキは四方八方、良く見える。おまけに手荷物検査で、ケーキの中もすべてX線で検査済みなのだ。
 これが8度目の、搭乗直前の検査で引っ掛かった。
「このビニール袋を開けなさい」
「これはお土産用のケーキなんですが」
「それは分かっています。開けてください」
「開けてどうするんですか」
「検査します」
「何でですか」
 これを繰り返した。とうとう伝家の宝刀、「飛行機にお乗りになりたくないということですか」と言う。
 私は透明ビニールを開いた。すると、
「ケーキの中を割りなさい」という。
 これには私はとうとう頭にきて、大きな40センチもある四角のパウンドケーキに、ガブリと丸ごとかぶりついた。すると、エアーインディアの係官は、驚いて、
「どうぞ」と言う。「結構です」
「あとの2本も齧りつくのか」と私が言うと、
「齧りついてもよいですが、もう結構です」と言われて、ようやく搭乗となった。機内で、半分に割ったフルーツケーキを齧っていた。

教訓 飛行機は変に逆らうと、搭乗を拒否されてしまい。それ以降はブラックリストに記録される可能性もある。注意が必要だ。