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大事な鞄が無い!

大事な鞄が無い!

樋口 健夫

アイデアマラソン研究所所長 ノートを活用したアイデアマラソン発想法考案者であり、電気通信大学講師。現役時代は三井物産の商社マン。 企業の創造性トレーニングでは、ジャパネットたかたの全社員運動、アサヒビールでの研修などを続けている。独創性を命と考えている。

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飛行場珍体験集
大事な鞄が無い!
 すべて入った鞄が無いことに気が付いたのは、成田空港のリムジンバスに乗る直前だった。すべて入っていた。ノートも、パソコンも、仕事の書類も、お金も、ほぼすべてが入っている。
「ワアー、か、鞄がない」

 私は後ろに並んでいる正直そうなおばあさんに、
「空港の荷物コンベヤーのところに手提げ鞄を忘れたようなので、ちょっとだけ見ていていただけますか」と、スーツケース2個の乗ったカートを置いて、走って空港の中に戻った。

 今、出てきた税関のロビーにはどうすれば入れるのだろうか?右を見ても、左を見ても分からない。私が分かっているのは、今出てきたところを逆行すれば入れるということだった。

 私は出口の扉の前にいたら、一人の到着客が出てきた。私のその後を逆に入っていった。税関の検査場に入るには、もう一つドアがある。見ているとそれが開いた。そして私は中に入った。

 税関の係官が到着客の検査をしながら、私が入ってきたのを見つけて、仰天している。それを見て、私も仰天してしまったが、そんなことを言っている暇はない。

 係官が、私を指さし、
「そこの男性、税関に逆行して入ってはいけません。待ちなさい」と大声で呼びかけてきた。
「すみません。鞄をコンベヤーのところに忘れたようです。到着客です」
「待ちなさい。止まりなさい」と、3列の係官が、私に向かって走り出した。完全に命令形で、ちょうど刑務所からの脱走者を追いかける形だ。私が鞄を受け取ったコンベヤーの周りには全く何もなかった。その時には、私の両側に係官がいて、
「あなた、逆侵してきて、どういうつもりですか」

「私の鞄」と言いながら、私は今度は、出口に向かって走り出した。
「と、止まりなさい」と、大声で係官が叫んだが、係官がピストルを持っているわけでもないので、検査台を超えて、出口に走った。
 すでに3名の係官が私を追って3方から走ってくる。
「待ちなさい」

 税関検査の最初のドアの前に来たら、(当たり前だけど)自動的に開いた。そこを突き抜けて、外に向かって走った。
「待て」とすでに、まったく完全な短縮命令形だ。

 外に出る二つ目のドアの前で、係官が私に追いついて、後ろからはがい締めに捕まえた。その途端に二つ目の、外に出るドアが開いた。

「ああ、あった」

 ドアから、一直線の向こうに、リムジンバスのチケットカウンターが見えた。そのカウンターの手前に、誰もいないカウンターの手前に、まさに私の鞄がポツンと置かれていた。違う。私が置いていたのだった。

 はがい締めされながら、私は鞄を指さした。私を後ろから締めていた腕が緩んだ。

「あれがあなたの鞄ですか...」
「はい。そうです」
「鞄が見つかったのですね」
「そうです」
「分かりました。良かったですね」
「ありがとうございます」

 こうして、私はバスにも間に合った。

教訓 とにかく貴重品の入った鞄は、絶対に自分の身から離してはならない。これが日本だから鞄は残っていた。東南アジアやヨーロッパなら、間違いなく消えていた。