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妙な食べ物 その4 この臭いは

妙な食べ物 その4 この臭いは

樋口 健夫

アイデアマラソン研究所所長 ノートを活用したアイデアマラソン発想法考案者であり、電気通信大学講師。現役時代は三井物産の商社マン。 企業の創造性トレーニングでは、ジャパネットたかたの全社員運動、アサヒビールでの研修などを続けている。独創性を命と考えている。

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妙な食べ物 その4 この臭いは
 サウジアラビア時代に友達になったスウェーデン人の自宅を家族で訪問した。ストックホルムから約400キロほど北の町だ。

 夏まつりの7月中旬だというのに、午前中は、寒くて、しとしと雨が降っていた。11月後半のような天気だった。
 午後は、一応晴れていたが、どんな天気の中でも、スウェーデン人はバーベキューを遂行する。肉や野菜を焼きながら、
「健夫、これがスウェーデンだよ」と、直径15センチほどの大きな缶詰を取り出してテーブルに置いた。

「これを今から開ける。覚悟はよいか?」と言う。
「何の覚悟だ?」と、何が起こるのか、分からなかった。
「この缶詰は、スールストロミンといって、この缶詰は、飛行機では手荷物も、預け入れ荷物も持ち込み禁止されている。万が一、この缶詰が荷物で持ち込まれて、缶が破裂したら、飛行機は大変なことになり、近くの空港に不時着して、膨大な損害を賠償請求されてしまう。それだけ臭いのだ。しかし、旨い」
「何なんだ、それは」
「ニシンの缶詰だよ」
「そんなに臭いか」
「私はその臭さを保障する」
「どんな臭いか」
「まさに、大便の臭いなのだ。さあ、開けるよ」

 ヨメサンと長男は6メートル、その庭の端まで、逃げた。
「この缶詰を見ろ、外側に膨れているだろう。これは内部のガスが溜まっている証拠なのだ。これを飛行機の荷物室で気圧が低いところに持って行くと、缶が破裂しやすい。そして、大便の臭いの汁が噴き出す」

 友人が缶切りで、開けようとした時、私も3メートルは離れた。
「プシュー」とガスが抜けた。

 その後は、手続き的には普通の缶詰。そして、蓋を取り払った。まずは、友人が試食する。
「旨い。これだよ、これだよ。サウジでは食べられないよ」
「そりゃそうだ」
「じゃ、健夫、お前食べるか」
「おう、やってみよう。あの、小さい切れっぱしを」

 友人が、小さな端切れをフォークで刺して、私に向けた。私は手を伸ばして、恐る恐る近づけたら、出た―、すごいNコの臭い。これはゆっくりと口に接近は難しい。「ええい」と、手に命じて、一気に開いている自分の口に投げ込んだ。顔全体がNコの臭いのバリアに包まれた。その次の瞬間、飲み込んだ。よく味わう時間も無かった。ただ、それまでは、外部臭気に怯えていた自分が、一瞬の後に、臭気発生源になったことで、複雑な心境となった。

 ただ、この臭いは、戦後の我々日本人の便所の臭いを思い出したので、西洋人よりも慣れやすい臭いではないか。また、くさやなどでも、予行演習していることから、案外、日本でも珍味として通じるのではないかと思っている。
 発酵を抑えて、丈夫な缶詰での輸出も考えて良いのではないだろうか。

 しかし、このスールストロミンよりも強力な、ものすごい食べ物があるという。それはハカートルというグリーンランド鮫の腐れ漬けだ。グリーンランド鮫の血液には、酸化トリメチルアミンと尿素が含まれていて、不凍液になっている。この鮫を人がそのまま食べると脳障害を起こすという怖い魚だ。

Greenland Shark.jpg

(写真は、RS-fielf blodspot.com より)
 
 アイスランドでは、(他にも食べる魚は一杯あるだろうに)グリーンランド鮫を捕まえて、まず半年間、地中に埋めて腐らせる。それから数週間、外に吊るす。もうどうしようもない腐敗臭がする。これを食べるのだ。彼らの祖先のバイキングが1000年以上前から食べてきたものだという。この腐った鮫を船に載せて、遠くまで旅をしたのだろうか。食べる時は、多量のシュナップ酒で洗ってから食べる。大変な食べ物があるものだ。(参照: 感動する科学体験100、News Science社樋口健夫、樋口容視子訳、技術評論社、P180)