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妙な食べ物 その8 ひょん、ひょんと食べた話

妙な食べ物 その8 ひょん、ひょんと食べた話

樋口 健夫

アイデアマラソン研究所所長 ノートを活用したアイデアマラソン発想法考案者であり、電気通信大学講師。現役時代は三井物産の商社マン。 企業の創造性トレーニングでは、ジャパネットたかたの全社員運動、アサヒビールでの研修などを続けている。独創性を命と考えている。

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妙な食べ物 その8 ひょん、ひょんと食べた話
 日本大好き、日本食大好きというアメリカ人の技術者を食事に連れていった。郷土料理の店で、様々な食べ物が大きな皿に並んでいた。
「刺身大好きです。私の食べたことのないものを食べたいです」と言いながら、器用に箸を使って食べ、どんどん飲む。
「じゃ、納豆はどうかな」と前に置いた。この臭いを食べるか。
「納豆は大好きです」と、お醤油を掛けてご飯も無しにパクパクと食べる。
「すごいなあ、じゃ、これはどうだろうか」とヒジキの佃煮を出した。全然問題なし。
「まいったなあ。じゃ、これはどうだ」と、イカの塩辛を出した。一瞬だけ、彼の顔が変わったが、私が先に箸を付けて食べると、イカのドロンとした一切れを摘まんでパクっと食べた。
「オイシイデス」
(応えんやつだな)と呆れ出した。以前に、イカの塩辛を見て、外国人の奥さんが戻しそうになったのに。
 イカの塩辛でもっとビールを飲んだ。元気いっぱいだ。
 私は店のご主人を呼んで、
「もっと何か決定的に変わったのはありますかね」と尋ねたら、
「じゃ、待っておいてください」と、持ってきたのがイナゴの佃煮だった。
「さあ、どうだ」とイナゴの佃煮を皿に載せて、テーブルの中央に置いたら、さすがのアメリカ人も顔色が変わった。
 イナゴは、足も胴体も全部が絡まって、団子になっている。真っ黒の上に目立つのが曲がった脚足で、イナゴの大虐殺の丸焼きの団子のようなものだった。コールタールに固めたように見える。地獄の姿だ。

いなごの佃煮 inago01a.jpg

「うーん」と唸っている。「こ、これ、食えるのか。これ食べ物か?」と言う。
「もちろん」
「これは一体何なんだ」と言う。
「これはバッタの大虐殺だ(Massacre of grasshopper)」と言ったら、
「うーん」とまだ唸っている。仕方がない。
「こうして、食べるんだ」と、私はテーブルのイナゴを箸で一匹挟んで、バッタが飛ぶように、テーブルの上を三段跳びで、
「ひょん、ひょん、ひょん、パクっ」と飛ばして食べた。
「うーん」とまだ唸っている。「日本人は何でも食べるんだ。驚いた」そして、ついに彼の箸が動いた。
 一匹を、怖々、箸でつまんで、私と同じように、テーブルの上を、ぴょん、ぴょん飛ばして、とうとうパクっと食べた。と見たら、一口齧っただけで、曲がったイナゴの足は、更に戻した。
 旨いも、不味いも言わなかったが、後に流し込んだビールはすごかった。多分、国に帰って、Grasshopperを食べた話を100回はしているのではないだろうか。

写真を借りたのは、
http://www.chinjuh.mydns.jp/hakubutu/kuirejo/inago_b.htm
素晴らしい記述です。ありがとうございます。